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虚偽公文書の提出も重罪、太田理財局長の一存ではあるまい

4/16(月) 13:01配信

ニュースソクラ

公文書改竄を裁かねば、官庁への信頼は失墜

 4月9日の参議院決算委員会で河戸光彦会計検査院長は、森友学園への国有地売却に関し、改竄された決裁文書の提出を受けていたことを改めて認め「会計検査院法に基づき財務省に職員の懲戒処分を要求することを検討している」と答弁した。

 安倍首相も同委員会で、公文書管理法改正を含む再発防止策を検討する考えを示した。

 だが、すでに刑法156条は「虚偽公文書作成罪」を定め、「公務員がその職務に関し、行使の目的で虚偽の文書もしくは図画を作成し、又は文書もしくは図画を変造したとき」、印章、署名のあるものなら「1年以上、10年以下の懲役に処する」としている。同158条では、その偽造文書や図画を行使した者も同罪だ。

 「背任」や「単純収賄」は5年以下の懲役だから、虚偽公文書作成やその行使ははるかに重大な犯罪だ。特に「1年以上」と下限を定め、最長10年の懲役は、騒乱の首謀者や内乱の予備・陰謀、脱獄を助けた看守、自ら麻薬を密輸入した税関職員と同等だ。

 この厳格な法律を適用しさえすれば、会計検査院が財務省に職員の懲戒処分を求めるまでもない。現行法で厳しく罰せるのだから「公文書管理法を改正して罰則を設けよう」という与党からでている論も的外れで手緩い、と思わざるをえない。

 今回の改竄事件に関し検察当局には、「書き換えた文書は不都合な箇所を削り、表現を変えているが、その内容は全くの虚偽とも言い難く、公文書の偽造、変造で起訴は難しいのでは」との論が出ている、と報じられる。

 だが改竄前の原本と、財務省が会計検査院や国会議員に示した文書の表題、文書番号、起案、決裁の日付等は同一で、少なくともその点は偽造、変造の疑いが濃い。麻生太郎財務相は3月12日に財務省が「書き換え」を認める調査報告を国会に提出した際、それが行われたのは「昨年(平成29年)2月から4月」と述べている。

 原本の日付は「平成27年4月28日」「平成27年4月30日」「平成27年5月27日」「平成28年6月14日」であり、改竄後に提出した文書の第1ページの日付も同じだ。

 もし文書の書き換えが正規の手続きを経て行われ、決裁されたものならば、その日付は麻生大臣が言う平成29年2月から4月でなくてはならず、文書番号も別、一連の決裁者も人事異動を反映して別の人物が入っているはずだ。

 ところがこれが同一であることは表紙に当る部分は原本のものを流用したことを示している。一方、内容は300箇所以上で原本と異なるうえ、大きく変わった箇所もあるから、偽造、変造の疑いを免れない。

 例えば元の土地貸付決議書(1)には「地質調査会社にボーリング調査結果を基に意見を求めたところ、特別に軟弱であるとは思えない、とした上で」とあるのを、改竄後の文書では「ボーリング調査結果について不動産鑑定士に意見を聴取したところ、新たな価格形成要因であり」とほぼ逆の記述となった。

 「別の人の意見を書いただけで、虚偽ではない」と弁解しても、原本と同じ表紙を使い、あたかも当初の文書から「新たな価格形成要因」云々の記述があったように装うのは偽造、変造に当るはずだ。

 「ブランド品」の商標を盗用し、ニセ物を本物として売った業者が「品質に大差はないから詐欺ではない」と言っても許されないだろう。

 3月8日に国会に提出された文書には削除した箇所が驚くほど多く、75ページの原本が60ページになっていた。決裁を得て成立した公文書の一部を削除することも偽造、変造に当るはずだ。

 昭和2年6月8日の大審院(今日の最高裁判所に当る)の判例では、熊本県下の村で村長選出手続きの合法性を巡り村会が紛糾したのに、議長は書記に命じて議事録にその顛末を記載させなかったため「会議顛末の一部を記載せざることにより・・・会議録に虚偽の記載をなしたるものに該当する」として有罪となった。ウソを書き込まなくとも、書くべきことを書かないか、勝手に削っても犯罪なのだ。

 議事録は会議の内容すべてを記載すべきものだが、決裁文書の記述は作成者の裁量によるから、経緯などを詳しく書かなくてもよい、とは言えるが、成立した決裁文書にある記述を後日勝手に削ったり、書き換えれば虚偽、変造だろう。

 大正4年9月21日の大審院判例は、奈良県下の町で、選挙人名簿の中に死者2人、転出者3人、誤記1人が入っていることを指摘された町の助役と書記が、訂正可能な期日を過ぎていたのに6人の名を削り、他の人を入れた事件だ。大審院は「公文書として成立した以上は、内容が真実か否かを問わず、ほしいままにこれを増減変更したのは公文書変造を構成する」として有罪とした。

 被告が「書き換えた内容の方が真実で、虚偽ではない。何の実害もない」と大審院まで争ったのにも一理はあるが、一度それを許せば他の役人達も同じ論法で公文書を後日勝手に書き換え、大混乱を招くから処罰せざるをえなかったろう。

 今回もし改竄された文書を検察庁が「内容は必ずしも虚偽とは言えない」と判断し、その作成者やそれを国会、会計検査院等に提出して行使した者、させた者が訴追を免れれば、同じ表題、番号、日付でありながら内容が異なる公文書がともに真正となるという矛盾が生じる。

 もしこれが先例となり、成立した公文書を後日書き換えたり、削除しても罪に問われない、と公務員がタカをくくるようになれば、行政は混乱し、国民は官庁を信用できなくなる。検察、司法当局は同じ表題、番号、日付を付けた2つの文書のうち1つが真正なら、他はニセモノと断ずるしかあるまい。その場合、責任者は佐川前理財局長となろう。

 偽造、変造された公文書と知りつつ、それをを行使した者も「1年以上10年以下の懲役」だ。財務省は改竄した文書を3月8日に国会に提出したが、その3日前の5日には国土交通省が内閣官房と財務省に、元の文書の存在を通知していたし、3月2日付の朝日新聞はそのコピーを入手していることを報じていたのに、あえて改竄後の文書を提出した。これはあまりにも大胆不敵、露見することが確実な愚行だった。

 この行使の直接の責任者は現在の太田理財局長となろうが、国会への提出(行使)は政治に大きく関わることだから財務官僚の一存では行い難い。誰と誰が相談(共謀)して提出を決めたのか、検察当局は究明しなくてはなるまい。

 今のところ、麻生財務相が改竄を知ったのは、国会への提出後の3月11日で、大阪地検が原本を確保していることを確認したため、とされている。だが、すでに3月2日に新聞報道があったのだから、財務大臣や官房長官が改竄前と後の文書のコピーを取り寄せて対比しなかったとか、安倍首相にも報告しなかったと言うのは不自然と感じざるを得ない。
 
 収賄などの個人的犯罪と違い、中央省庁の組織ぐるみの公文書偽造と国会等に対する行使は、政治、行政の秩序を根底から侵害し、国民の政府に対する信頼を失わせる行為だから国事犯(国家に対する犯罪)に近く、刑も内乱の予備や騒乱の首謀者に等しいのだ。

 だが、従来公務員にそれが重大な犯罪との認識が薄く、会計検査院や部内での検査を前につじつま合わせの文書作成が行われるのは半ば慣習化している。大事故や不祥事の際、当初保身のために虚偽報告も起こりがちだ。

 防衛省では「事故の際、第一報の報告書には間違いが多いのは常識」と言われる。当然混乱も一因だが、責任回避をはかった形跡が感じられることもある。虚偽公文書の疑いが出てもそれで訴追されることが少なく「武士は相身互い」なのか、小さい虚偽公文書作成が看過されてきたから、それが蓄積し今回ついに大爆発に至った感もある。
 
 今回の改竄の内容が虚偽とまで言えるのか否かの判断は裁判に委ね、検察官は訴追することで国民の法治への信頼を保ちうる。法務当局までが近年官界に蔓延した忖度の弊風に染まっていると思われては8億円余の国損どころではなく、国の基礎が危うい。国会やメディアも検察当局が「秋霜烈日」の気魄を発揮し、徹底的に究明を遂げるよう、その激励に努めるべきだと考える。

■田岡 俊次(軍事評論家、元朝日新聞編集委員)
1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、筑波大学客員教授などを歴任。82年新聞協会賞受賞。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。

最終更新:4/16(月) 13:01
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