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サンプリングと著作権 ─裁判例1─ ~アメリカにおけるミュージック・サンプリング事件とは?

4/19(木) 7:01配信

Web担当者Forum

実践編 第29話 [各論編]著作権紛争

・Biz Markie事件
・Jarvis事件
・Tuff ‘N' Rumble事件

いよいよ移籍第4弾シングルのレコーディングが始まった著作ケンゾウ君。タイトルはずばり「ホレたぜ! 盆栽」と、まさに盆栽好きのケンゾウ君の生き方を象徴したような名曲である。初期の近藤真彦の曲調を彷彿させる曲の作りだが、スタッフ全員に大ヒット間違いなしの太鼓判を押されて大喜びの彼は、新妻の瞳嬢にラフ・ミックスを聴かせるのだった。しかし、そこには彼女のキッツ~イお叱りが待っていたのだ。

日本では無断サンプリングが問題となった著作権侵害訴訟はまだ起きていないが、実務上では多くの紛争が発生しており、海外の権利者から多額の使用料を請求されるケースも少なくない。また、レコード会社の法務部も紛争処理や権利処理に慣れているとはいえない状況にある。

一方、アメリカでは1991年のBiz Markie事件以来、多くのサンプリング訴訟が起きているため、訴訟リスクを抱える音楽業界は権利処理の方法をすでに確立している。そこで今回は、アメリカにおけるサンプリングの重要裁判例を紹介し、アメリカの裁判所がこの問題にどのように対応しているのかについて解説してみよう。

 

ミュージック・サンプリングとは

アメリカの有名な法律辞典であるBlack's Law Dictionaryによると、サンプリングとは「サウンド・レコーディングのごく一部を取って、新しいレコーディングの一部としてその部分をデジタル処理によって利用するプロセス」と定義されている。これを言い換えると、サンプリングとは、「既存のサウンド・レコーディングのごく一部を新しく製作するサウンド・レコーディングのためにデジタル技術を用いて利用する方法」ということになる。現在、ミュージック・サンプリングはヒップホップやクラブ・ミュージックを中心に、あらゆる音楽分野で広範に利用されている。

ミュージック・サンプリングの発祥地は、意外なことに日本やアメリカのようなデジタル技術の先進国ではなく、西インド諸島の国、ジャマイカといわれている。1962年にイギリスから独立したジャマイカは、当時、深刻な経済危機に陥っていたため、ほとんどのジャマイカ人はレコードを購入したり、コンサートやライブを見に行くことができなかった。そこでレコードやコンサートの代わりに音楽の伝播役として一翼を担ったのが、巨大なアンプ(音の増幅器)とスピーカーのセットであるサウンド・システムであった。これを使ってレコードをかける者はセレクター(selector)と呼ばれたが、その名のとおり、サウンド・システムを使って流す曲を選択し、そのタイトルやアーティストをマイクでアナウンスするという役割を担った。その後、アフリカ系アメリカ人のセレクターたちが実験的にスラングを交えた言葉をレコードに合わせて歌い始めるようになった。これが大きな人気を博するようになり、次第に音楽を表現する一つのスタイルとして確立していった。

1960年代には、セレクターに代わってレコードに合わせて歌うようになったディスク・ジョッキー(DJ)が、異なるレコードを組み合わせて一つのサウンドを作るという実験を始めるようになった。この実験に好感触を得たディスク・ジョッキーたちは、組み合わせたサウンドに合わせてボーカルを乗せるという新しい表現方法を発展させていった。1970年代を通じて、アメリカとジャマイカのディスク・ジョッキーたちはこの新しい音楽の表現方法の改良を試み、ラップ・ミュージックの隆盛という結果をもたらした。この成功に後押しされる形で、1980年代初頭にサンプリング機能を持ったシンセサイザーが開発され、多くのミュージシャンやサウンド・エンジニアたちが音楽制作に用いるようになった。サンプリング機能を持ったデジタル機器のことをデジタル・サンプラーまたは単にサンプラーと呼ぶ。

現在ではミュージック・サンプリングというデジタル技術によって、既存のレコードから音の一部を取り出し、これを自由に加工・編集して、新たなサウンド・レコーディング(原盤)の製作のために利用することができる。従来のレコーディングは、録音スタジオでプロのミュージシャンが演奏し、サウンド・エンジニアがそれを録音し、音を調整し、L・Rの2チャンネルに振り分けるという工程から構成されていた。それがデジタル・サンプラーを使って、既存のサウンド・レコーディング中にあるボーカルやベース、ギター、ドラムス、キーボードが奏でるフレーズの一部分を採取し、コンピュータ上でデジタル処理することによって、新たなサウンド・レコーディングを製作することができるようになったのである。

このようにミュージック・サンプリングは、レコーディングのための十分な資金や演奏技術がないミュージシャンだけでなく、既存のサウンド・レコーディングを使って創作活動を展開したいミュージシャンにとっても、画期的な音楽の制作手段となった。現在では、ミュージック・サンプリングはすべての音楽ジャンルで欠かすことのできない重要な制作手法として広く認知されている。

ミュージック・サンプリングはヒップホップやクラブ・ミュージックといった新しい音楽ジャンルを創出し、その成功の一翼を担ったのであるが、その一方で新たな法律問題を引き起こした。オリジナル曲やオリジナル・レコードの著作権者(アメリカでは著作隣接権制度を採用していないため、レコードは著作権の保護対象となる)が、ミュージック・サンプリングを使って新たなサウンド・レコーディングを製作したミュージシャンやレコード会社を著作権侵害で訴え始めたのである。

アメリカにおける最初のサンプリング訴訟はBiz Markie事件である。この訴訟で、無断サンプリングを行ったアーティストやそのレコードを発売したレコード会社は著作権侵害に問われることになった。それ以来、レコード会社はサンプリング・クリアランスのスキームを急いで構築するようになった。しかしながら、サンプリング訴訟における著作権侵害の判断基準が裁判所によって異なるため、サンプリングを巡る法律問題は未だに混沌とした状態にある。

 

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最終更新:4/19(木) 7:01
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