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「指混入」だけじゃない 幸楽苑が日高屋に負けた理由

4/25(水) 6:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 2016年9月、幸楽苑の静岡清水インター店で起きたラーメンへの異物(人の指)混入事件を記憶している読者は多いだろう。従業員がチャーシューの仕込み作業中にハムスライサーで誤って指を切断してしまい、その欠損部分が来店客に提供する商品に混入した事件だ。

【資料】日高屋の戦略

 当時、この事件は大きく報道され幸楽苑のブランドイメージは大きく損なわれてしまった。幸楽苑を運営する幸楽苑ホールディングス(HD)の17年3月期決算では、売上高は前期比1.0%減の378億円、営業利益に至っては83.1%減の1億4700万円にまで落ち込んだ。営業利益が大幅に減少した原因について、同社の決算資料は異物混入問題に伴う直接的費用や再発防止対策費用を挙げている。

 しかし、この事件がなくても同じラーメンを主力とする日高屋と幸楽苑の間には大きな差が生まれていた。どのような戦略の違いがあるのだろうか?

●小さな食堂からはじまった幸楽苑

 幸楽苑の歴史は1954年に新井田傅社長の実父である新井田司氏が福島県会津若松市に開店した「味よし食堂」から始まった。幸楽苑HDのWebサイトによると「従業員3名の雨漏りする食堂」からスタートしたという。75年には麺とギョーザを製造する工場を建設し、多店舗展開にかじを切った。99年には100店舗を達成し、12年にはグループで500店舗にまで拡大した。主に郊外のロードサイドに店舗を構える戦略で、03年にはラーメン業界で全国初となる東証一部上場も果たした。

●ラーメンの安売りで成長

 幸楽苑の成長を支えた1つの戦略がラーメンの安売りだった。2000年代に販売を開始した「中華そば」は304円(税込、以下同)で、「麺類の売り上げの3割を占めていた」(広報担当者)。税抜き表示価格の「290円ラーメン」は強い印象を与えた。

 だが、原材料や人件費の高騰で販売を15年5月に終了させ、現在は「新・極上中華そば」(421円)が最安値のラーメンとなっている。

 看板メニューだった中華そばの販売をやめたことが、幸楽苑の競争力にマイナスの影響を与えた。直営既存店の客数は15年から前期比マイナスの状況が続く。広報担当者も「中華そばの販売をやめた影響が大きかった」と認める。

 なぜ、ラーメンの値上げが客離れを招いてしまったのだろうか。

 どんな業界にも、客が価格を特に気にする商品がある。例えば、焼肉店では注文数が多い並カルビや生ビールが該当する。客はその商品の価格を見て「この店は高い」「この店はお得だ」と判断する。一方、プレミアムビールや上カルビの値上げはそれほど気にしない客が多い。牛丼チェーンでいえば牛丼並盛が該当し、大手3社は価格改訂には常に神経をとがらせている。実際、牛丼並盛を値上げした吉野家は客離れに苦しんでいる(関連記事:「松屋とすき家に「牛丼並盛」の値上げをためらわせた「吉野家の悪夢」)。

 このように、価格の変化が客数に大きな影響を与える商品を「価格弾力性が高い商品」と表現する。ラーメンチェーンの場合は、最も安くてシンプルなラーメンが該当する。幸楽苑は、客の来店動機につながる中華そばを値上げしたことで、店舗の魅力を失ったのだ。

 さらに、いま流行している「ちょい飲み」需要に応えにくいのもマイナスに作用している。郊外店には車で来店する客が多いため、アルコールの売り上げは伸びにくい。

●日高屋が好調な理由

 日高屋の歴史は、ハイデイ日高の神田正会長が73年に中華料理「来々軒」をさいたま市大宮区に創業したことから始まる。さいたま市や都心部などに積極出店を繰り返し、02年に総店舗数が100店舗を突破。現在ではグループ全体で413店にまで増えた(18年2月期時点)。

 同社の決算資料によると、直営店舗のうち95%が駅前繁華街に立地している。1都5県の駅前一等地に集中出店するドミナント戦略を採用しており、首都圏以外にも幅広く展開する幸楽苑とは対照的だ。ドミナント戦略はセブン-イレブンが採用していることでも知られる。

 日高屋は最安値のラーメンが「中華そば」(390円)で、価格の面で幸楽苑に勝っている。中華そば、ギョーザ、生ビールを920円で提供しており、今流行のちょい飲み需要にもしっかりと応えている。

 メニュー数は幸楽苑と比べて多い。日高屋は「ラーメン」「定食」「居酒屋」という3つの業態を併せ持つ。飲食店の経営コンサルティングを手掛けるスリーウェルマネジメントの三ツ井創太郎社長は「通常、メニューが増えると店舗のオペレーションが煩雑になる。しかし、日高屋はお客をあまり待たせることなく提供できている」と分析する。

●数字で見る日高屋の強さ

 日高屋の強さは数字にも表れている。「効率的な経営ができているか」を表す販売管理費率という指標がある。売上高に対する販売費及び一般管理費(人件費や広告宣伝費など)の割合を示し、低いほうが望ましい。幸楽苑HDが72.6%(17年3月期)なのに対し、ハイディ日高は61.3%(18年2月期)と11.3%も低い。

 もう1つ、日高屋の強さを示す数字がある。それは、売上高営業利益率だ。18年2月期においては11.5%と、主要外食産業のなかではかなり高い水準だ。上場している90社弱の外食企業で10%以上の営業利益率なのは1割に満たないという(リサーチ会社のシェアードリサーチ調べ)。

 営業利益は企業が本業で稼いだ利益を表す。一般的な企業は原材料を仕入れて商品を販売する。売上高から売上原価(原材料の仕入れにかかった費用)と、人件費や光熱費などの費用を差し引くと営業利益となる。つまり、日高屋は本業で稼ぐ力が強いということだ。幸楽苑HDの営業利益率は0.3%(17年3月期)であり、両社の差は歴然としている。

 日高屋は不断の経営努力とドミナント戦略で、稼げる経営体質を実現している。一方、幸楽苑は強い経営体質をつくれなかったため日高屋に“負けた”のである。