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「出版社頼れない」「子供は漫画無料でいい」 海賊版サイト問題と漫画家たちの苦悩

4/27(金) 6:00配信

ITmedia NEWS

 「出版社は頼れない」「子供は漫画を無料で読めばいい」――4月24日にイベントスペース阿佐ヶ谷ロフトAで開催されたイベント「海賊サイトによりマンガ文化が壊される!作家が生き残る方法とは?」で、森田崇さんや鈴木みそさんが漫画家・クリエイターの立場から海賊版サイトの問題やその対策について語った。

出版社の主張

 海賊版サイトをめぐっては、政府がISPにサイトブロッキングを要請したという報道を皮切りに議論が過熱。日本国憲法で保護されている「通信の秘密」「表現の自由」を侵害する恐れがあるとして、複数の業界団体や法律関係者から反対の声が上がっている。

 4月23日にはNTTグループ3社が特に「悪質」とされる3サイトのDNSブロッキングを行うと発表し、一部では「憲法違反だ」「拙速すぎる」「既に停止しているサイトをブロッキングして何の意味があるのか」と批判する声も根強い。

 これまで同問題をめぐるシンポジウムはいくつか開催されたが、漫画家・クリエイターらの視点が欠けていたこともあり、出版業界と親交の深い登壇者が多かった今回はその穴埋めともいえるイベントとなった。

 出版社は政府の海賊版サイト対策を歓迎する姿勢を続々と示しているが、森田さんは「出版社は頼れない」と消極的だ。漫画家たちが直面する課題とは。

●登壇者一覧(敬称略)

瀬尾 太一(写真家、日本写真著作権協会常務理事)

森田 崇(漫画家)

楠 正憲(国際大学GLOCOM客員研究員)

植村 八潮(専修大学教授、元出版デジタル機構会長)

仲俣 暁生(編集者、Webメディア「マガジン航」編集発行人)

稀見 理都(美少女コミック研究家)

鈴木 みそ(漫画家)

データジャーナリストA(匿名)

鷹野 凌(日本独立作家同盟理事長)

まつもと あつし(モデレーター/ジャーナリスト)

●「子供は漫画無料でいい」 まずは漫画を読む習慣を

 コンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、海賊版サイトの中でも特にユーザー数が多かった「漫画村」による流通額ベースの被害額は、2017年9月からの半年で約3000億円と推計している。

 深刻な問題なのは間違いないが、漫画家たちが特に懸念するのは、読者、特に子供たちが漫画に触れる機会が減っていることだ。森田さんは「サイトブロッキングもそうだが、今は読者に漫画を読ませない方法ばかり提言されている」と嘆く。

 鈴木さんも「自分たちが子供のときは、友達が買った漫画を回し読みしていた。今の子供はそもそも漫画を読む習慣がないので、20歳未満は全部無料でいいのでは。無料で読めることで悪い習慣がついてしまう可能性はあるが、大人になって還元してもらえればいい。スマホゲームもフリーミアム(基本プレイ無料)モデルがあるが、漫画もまずはたくさんの人に読んでもらい、一部の人がお金を払ってくれるシステムもありかもしれない」と話す。

 出版科学研究所は今年2月、17年度の電子コミックスの推定販売金額が紙のコミックス(単行本)を初めて上回ったと発表した。漫画市場を支えるためには出版社による電子化の後押しも必要だろう。しかし、森田さんは「まだ出版社では紙の方が力が強く、電子担当者は歯がゆい思いをしている。出版社横断で便利なプラットフォームを作ってほしいが、今の状態だとしばらく無理そう」と表情は暗い。

 各出版社がブロッキングを歓迎する声明を出した際、「出版社自身はやるべきことをやってきたのか」という疑問がネットで上がっていた。今回のイベントでも、出版社の腰の重さや“お粗末さ”に対して登壇者から批判が集まった。出版社は何をやってきて、何をやってこなかったのか。

●「出版社はお粗末だった」

 政府による海賊版サイトのブロッキング要請の報道を受けて、集英社、講談社、KADOKAWA、出版広報センターがそれぞれ声明を出した。これに対し、元出版デジタル機構会長で専修大学の植村八潮教授は「出版社はいろいろな対策を講じてきたが、それを広報してこなかったまずさがある。出版社の人に会うたびに早く声明を出そうと言ってきたが、ブロッキングの話題が盛り上がった結果、初めて発表するのはお粗末。そもそも出版業界という業界の統一団体はなく、ロビーイングも全くまとまらないという問題も昔からある」と批判する。

 「政府がブロッキング要請を発表したら、初めてそれを支持する声明を出すというのは一体どういうスタンスなのか。本当に読者の視点に立っているのか。ブロッキングは絶対だめだし、『通信の秘密』『表現の自由』を侵害してはいけない。死にそうなのは出版社ではなく、出版の自由だ」(植村教授)

 ブロッキングについてはほとんどの登壇者が反対の姿勢だ。写真家で日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一さんは「出版社は良くも悪くもピュア。彼らはビジネスではなく文化的行為をしているという意識で、普通の企業と違うロジックで動いている。ピュアだからロジカルな手法も分かっていない」と話すが、大手出版社が歓迎するブロッキングに対しては「あり得ない」と切り捨てる。

 瀬尾さんは海賊版サイトへの対策として、コンプライアンス教育の促進と、迅速かつ広範な正規版流通の促進を前提とした上で、(1)海賊版サイトへの中止要請、(2)ユーザーへの利用中止要請、(3)広告掲載の中止要請、(4)検索エンジンの制限要請、というステップを踏んで、初めて(5)サイトブロッキング要請、に行き着くとしているが、一足飛びにブロッキングへ飛んでいる現状を「明らかにおかしい」と批判。

 ネット規制関連の議論にこれまで何度も関わってきた楠正憲さん(国際大学GLOCOM客員研究員)も、「政府は1つ目のステップすら十分にできていない。海外サーバだから手が出ないとか、ブロッキングしか手段がないとか、そもそも事実誤認をしているし、役人の仕事として失格」と辛らつだ。

 集英社は4月19日に、海賊版サイトに対して10年にわたり対策してきたと声明を出したが、楠さんは「何をやったかではなく、どこで手が止まっているかが分からないと、問題の原因が分からない。単に出版社の根気が足りないのか、それとも他に原因があるのか」と疑問を呈した。

 しかし、出版社を批判するだけで議論を終わらせてよいのだろうか。

 植村教授は、「昔の枠組みはもう効いてないので、既存の出版社でどうかしようという議論はもういいのでは。これからの漫画家は自分でどうしていくかを考えないと、出版社はだめだよねという話で終わってしまう」と警鐘を鳴らす。

 それに対し、フリーランス編集者の仲俣さんは「作家1人で全部やれというのはロマンチシズム」と語る。「出版産業は、戦後は上り坂で出版社と作家の利害が一致していたが、下り坂にある今は両者の利益は相反せざるを得ない。編集者は作家のために動くのか、会社のために動くのか。そんな中、作品流通など含めて出版社と作家の間に立ち、作家をエージェント的に支援する人が求められる」(仲俣さん)

●作家支えるエージェントが必要

 鈴木さんは、AmazonのKDP(Kindle Direct Publishing)を利用した電子書籍の「セルフパブリッシング」で成功を収めるなど、作家の枠を越えた試みでも注目を浴びていた。他にも、無料電子漫画サービス「マンガ図書館Z」を運営する赤松健さんや、Web雑誌「マンガonウェブ」を運営する佐藤秀峰さんなどが漫画家の枠を超えて活躍している。また、漫画家、小説家、エンジニアなどのクリエイターのエージェント事業を担うコルクのような会社もある。

 作家を支えるエージェントの存在については、森田さんも歓迎する。「(鈴木さんを見ながら)僕たちは自分たちでいろいろできるからいいが、漫画家は作品を描く以外の(流通や宣伝のような)ことが苦手な人が多い。そんなエージェントのように振る舞える人がいるといい」(森田さん)

 出版社への不信感もある。森田さんは「作家は大事にされていないのではと感じることがある」とし、「大手出版社で条件交渉をしたときに、そんなことは漫画家が考えることじゃない」と言われたという。自らの活動を支援するエージェントへ期待を寄せる漫画家は少なくないだろう。

 漫画家の立場から見ると、海賊版サイトの存在にかかわらず、これからの漫画市場を盛り上げていくためにエージェントの存在は需要がありそうだ。では、海賊版サイトという巨大な敵に立ち向かうためにはどうすればいいのか。

 イベント内では「出版社を仮想敵にする必要はない」「むしろ漫画村を取り込めばいい」という声も上がった。それは一体どんな方法なのか。近日公開の別記事で紹介していく。

最終更新:4/27(金) 6:00
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