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戦う相手が強すぎて衰退した東京チカラめし

4/27(金) 6:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 「東京チカラめし」を覚えているだろうか。2011年以降急速に店舗数を増やし、一時は既存の大手牛丼チェーンを脅かすほどの勢いがあった。

第36期中間報告書で東京チカラめしの取り組みを大きく紹介した

 しかし、急拡大の一方で“負ける”のも早かった。12年9月には店舗数が100店を超えたが、現在は都内を中心に10店舗程度を運営するにとどまる。

 「店舗の急拡大にオペレーションが追い付かなかった」「店舗の清掃が行き届いていなかった」などと指摘されているが、衰退した背景には何があるのだろうか。

●急成長した東京チカラめし

 東京チカラめしを運営しているのは、居酒屋「東方見聞録」や「月の雫」を手掛ける三光マーケティングフーズだ。東京チカラめしが東京・池袋に1号店を出店したのは11年6月だった。主力メニューは「焼き牛丼(並)」で、オープン時の価格は280円(税込、以下同)だった。公開されている三光マーケティングフーズの第36期中間報告書には「東日本大震災以降の日本において、『日本にチカラを!!』という意味も込めて、末長く愛され、必要とされる業態『東京チカラめし』を誕生させました」とある。

 それまでの大手牛丼チェーンは煮込んだ肉を使っていたため、焼いた肉を丼に乗せて提供するスタイルは大いに注目された。当初は、駅前などの繁華街を中心に出店しており、12年2月には首都圏に40店舗を展開していた。

 当時の平林実社長は「居酒屋業態につきましては、お客様の節約志向の影響から、厳しい状況が続いております」としたうえで「『日常食業態の拡大』をテーマとして掲げ(中略)新規業態開発に注力してまいりました」と第36期中間報告書で語っている。つまり、東京チカラめしを大きな収益の柱に育てようとしていたのだ。

●牛丼チェーンが寡占になる理由

 東京チカラめしが“負けた”理由を解説する前に、一般的な飲食業界と比べたときの牛丼業界の特徴に触れておこう。

 飲食業界を分析する指標に「在庫回転日数」がある。これは、在庫が何日かかって回転したのかを表す指標で「棚卸資産÷1日の売上原価」で求められる。棚卸資産には商品、製品、仕掛品、原材料などが含まれる。

 在庫回転日数について飲食店の経営コンサルティングを手掛けるスリーウェルマネジメントの三ツ井創太郎社長が解説する。

 「在庫回転日数が短いということは、商品の回転率がよく、効率的な収益を上げている状態(在庫の現金化が早い)。一方、在庫回転日数が長いということは、過剰な在庫などを抱えており、在庫の現金化スピードが遅いということだ。牛丼チェーンの場合、他業態とくらべて在庫回転日数が長くなるのはそのためだ。在庫をあえて抱えられるのは資本力のある企業に限られる」

 牛丼チェーン大手の在庫回転日数を他の外食チェーンと比較してみよう。すき家を運営するゼンショーホールディングスは37.1日(17年3月期)、吉野家を運営する吉野家ホールディングスは30.1日(18年2月期)だ。他業態は数日~10日程度と短い。

 牛丼チェーンは資本力がないと展開できない業態であり、大手3社の寡占状態となっているのはそのためだ。

●都市型における牛丼店の戦略

 東京チカラめしは繁華街を中心に出店していた。一般的に、繁華街の小型牛丼店はランチなどのピークタイムにおける客数が店舗全体の売り上げを大きく左右する。店舗の業績を分析する指標としては「客席回転率=客数÷客席数」がある。繁華街は家賃が高いため、店舗面積を広げることが難しく、客数回転率が重要になる。

 東京チカラめしの焼き牛丼には「焼く」というオペレーションがあり、すき家や吉野家のように「よそう」だけの店舗と比べて提供時間が長くなる。つまり、ピークタイムに客数が稼げないのだ。

 繁華街の牛丼店で食事をする客は「早い」「安い」「うまい」を求めている。提供時間の遅れは客のニーズに合っていなかった。確かに、焼き牛丼は「うまい」の面で他社より有利だったかもしれない。しかし、「早い」を犠牲にしたことのマイナスが大きかった。

●オペレーションで差が出た

 大手3社に戦いを挑んだことで、東京チカラめしは非効率なオペレーションを露呈させることになる。店舗の急拡大に人材育成が追い付かず、客からは「提供が遅い」「店舗が不衛生だ」という声があがった。

 大手牛丼チェーンは店舗のオペレーションが高度に発達している。大手3社には日本語に不慣れな外国人店員でも店舗を効率的に運営できるノウハウがある。前述した通り、牛丼業界は資本力がある企業によって寡占化が進んでいる業界だ。資本力を背景に高度な店舗ノウハウを蓄積しており、力の差は歴然だった。

 こうして東京チカラめしは徐々に追い詰められていった。三光マーケティングフーズの有価証券報告書(14年6月期)では、苦戦する背景として「米国産牛肉等の主要食材の高騰、コンビニエンスストア等、業種を越えた企業間競争の激化、雇用環境の変化に伴う人員不足、さらには平成26年4月の消費税増税による収益力の低下」を挙げている。そして、同社は居酒屋業態に経営資源を集中させるため、東京チカラめしの業態を大幅に縮小させることを決定した。

●どんな戦略を打ち出すべきだったか

 東京チカラめしは、どのような戦略を打ち出すべきだったのだろうか。

 例えば、特定のエリアでニッチな商品で勝負する道もあったはずだ。大きくない商圏で独自の商品やサービスを提供することで堅実な経営を行う飲食チェーンは少なくない。都内の中央線沿いを中心に展開する飲食チェーンには、ボリュームたっぷりの料理を提供する「キッチン男の晩ごはん」や、もつ焼きを提供する「四文屋」がある。「焼き牛丼」というユニークな商品を武器にコツコツと店舗を増やす戦略もあった。

 ニッチなチェーンならば、店舗運営を大手牛丼チェーンとシビアに比較されることはない。多少店内が乱雑でも、「味わい」として顧客に評価される。

 現在、東京チカラめしは「ごはんおかわり自由!」を強く打ち出し、ボリュームのある定食や丼のメニューを強化している。しっかり食べたい客に向けた戦略が軌道に乗れば、再成長できるだろう。

 なお、東京チカラめしを運営する三光マーケティングフーズに編集部より取材を申し込んだが、回答期限までに連絡はなかった。

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