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家がまるごとスマートスピーカーに? オンキヨーが描く「AIの未来図」

5/3(木) 8:05配信

ITmedia NEWS

 音響機器メーカーのオンキヨーが、独自のAI(人工知能)プラットフォーム「ONKYO AI」を開発している。搭載ハードウェアは、今のところウエアラブルタイプと車載専用のスマートスピーカーという形を検討しているが、実はその先に“家がまるごとスマートスピーカーになる”ような壮大な構想も描いていた。オンキヨーがAIをどのように活用しようとしているのか、担当者に詳しい話を聞いた。

展示会では壁に貼ったパネルに加振器を埋め込んで、スピーカーのように音を鳴らせる環境を作った

●肩にのせる新しいタイプのスマートスピーカー

 オンキヨーは2017年の秋にGoogleアシスタントを搭載する「VC-GX30」、AmazonのAlexaを搭載する「VC-PX30」という2つのスマートスピーカーを国内のオーディオメーカーとしてはいち早く商品化したブランドだ。スマートスピーカーといえば、ボイスコマンドで音楽再生を操作したり、AIと会話ができることやスマート家電を音声で動かせることの斬新さが話題を呼びがちだが、オンキヨーの製品はとりわけ“音”に注力したことで注目されている。

 でも、オンキヨーというブランドが最も特徴的なのは、開発のスピード感や音へのこだわりだけでなく、現時点でもうAIやスマートスピーカーがもっと私たちの生活に役に立つ手段で根付いていくための道筋を付けよういう意志が、製品やサービスから明快に伝わってくるところだと筆者は感じている。

 まずスマートスピーカーについては「据え置きタイプ」であることにこだわっているわけではない。今年の1月に米国ラスベガスで開催されたCESでは、他社に先駆けて肩に乗せて使う“ウェアラブルタイプ”のスマートスピーカーのコンセプトモデルを発表した。

 デザインは蹄鉄(ていてつ)型で、重さは約100g。ソニーやBose、JBLが発表した肩のせタイプのウェアラブルスピーカーと比べてサイズは圧倒的に小さく、軽い。最も大きな違いは、オンキヨーが独自に開発を進めているAIプラットフォーム「ONKYO AI」と連携するスマートスピーカーであるということだ。

 型名は「VC-NX01」と名付けられているが、発売時期はまだ明確にしていない。オンキヨーのAI/IoT事業戦略室 副室長の八木真人氏も「コンセプトモデルの段階なので、展示会で紹介した製品の仕様は今後変わる可能性がある」と前置きしているが、本機のコンセプトを知るために要点をいくつか触れておこう。

 まず、本機はBluetoothを使ってワイヤレスでスマホにつないで使うコンパニオンプロダクトになりそうだ。マイクとスピーカーを搭載する本機は音声入力のインタフェースになるし、音を聞くためのスピーカーでもあるが、ボイスコマンドの処理はマネージメントアプリを介してクラウド上にある「ONKYO AI」で行う。インターネット接続はスマホの通信機能を使うことになる。

 ウェアラブルスピーカーなので、アウトドアでの使用も想定している。そのため、本体には充電式のバッテリーを内蔵して、防滴・防塵仕様とすることも検討しているようだ。屋外でも気兼ねなく使えるように、マイクとスピーカーには指向性を高めるビームフォーミング技術を活用する計画もあるという。

 今年4月の展示会にオンキヨーが出展した際、筆者も初めてVC-NX01のプロトタイプで音楽を聞く機会を得た。スピーカーの開口部は本体を肩にのせたとき、両耳の真下にくるように上に向けて配置している。なかなかパワフルな音だったが、ビームフォーミングにはまだ対応していなかったので、これから小音量再生時にもシャキッとした音が聞けるようになるのか楽しみだ。

●独自に開発を進めるAIプラットフォーム「ONKYO AI」とは

 ONKYO AIについても現時点で分かっていることをまとめよう。オンキヨーではGoogleやAmazonのように、AIテクノロジーを構成するすべての技術を自前で作ることは目指していない。他社のリソースを上手に活用しながら、オンキヨーの製品に最も適したAIテクノロジーを、オンキヨー製品の独自性を追求しつつコストとのバランスを取り、最も良い形でユーザーの手もとに届けることが最大の狙いだ。

 筆者はこれまでに何度かONKYO AIの取り組みを取材してきたが、そのたびに八木氏は「GoogleやAmazonにAI対決を仕掛ける意図は毛頭ない」と繰り返し述べている。オンキヨーは、今後も両社のAIアシスタントを搭載したスマートスピーカーの開発は続けていく。また「ONKYO AI」のプラットフォームに組み込むことが機能とコスト面で有効であると判断すれば、ためらいなくこれを押し進めることについても明言している。

 ONKYO AIの音声アシスタントには特定の名前が付いていないが、「アラジンと魔法のランプ」にちなんだ「ハロー、ブルージーニー」というフレーズがトリガーワードになっている。最初に音声で入力されたコマンドをセンサリーが開発した認識技術で読み込んだあと、サウンドハウンドの「Houndify」に送りスピーチ音声/テキスト変換と自然言語理解のアルゴリズム解析を行う。製品開発に携わっているオンキヨーの近藤裕介氏によると、Houndifyの自然言語理解のアルゴリズムが優秀であるために、ONKYO AIでは単語・単発での音声コマンド入力だけなく、AIアシスタントと自然な会話を楽しむように連続したコマンドのやり取りができるようになるという。

 4月の展示会でONKYO AIのデモンストレーションを体験した時には、例えばユーザーの行動パターンを専用のマネージメントアプリを入れたスマホで管理しながら、ディープラーニングやGPSロケーション情報の解析技術などを活用して、ユーザーがやりたいことを「先読み」しながら提案できるAIのプロトタイプを目の当たりにした。Houndifyの技術を活用した対話形式のコマンド入力を組み合わせると、例えば以下のような応答も実現する。

 AIを起動して「今何時?」と訊ねると「○○時です。ランチの店を紹介しましょうか」と返してくる。続けざまに「紹介して」と答えると、「ランチにおすすめの店に○○があります。駐車場があります。目的地へ案内しますか」と聞いてくる。「案内をお願い」と返すと、目的地へのルートを音声でナビゲーションしてくれる。対話の合間ごとに「ハロ、ブルージーニー」とウェイクワードを入力しなくてもよい。

 ONKYO AIでは、東芝デジタルソリューションズが開発するコミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」の一部から、テキスト/音声変換の技術を採用した。また東芝デジタルソリューションズは人間の声を人工的に作る音声合成技術を使った「コエステーション」というアプリサービスも公開している。こちらはスマホアプリから自分の声を録音して、別途入力したテキストに沿って合成した音声をしゃべらせるというもの。東芝ではこの技術を応用して、企業などに向けて、カスタマイズした声のアーカイブを提供するビジネスも展開している。オンキヨーでは東芝デジタルソリューションズとパートナーシップを組んで、スマートスピーカーに搭載されているAIの声をカスタマイズするサービスを検討中だ。展示会場では「ユキノ」「モエ」「ツトム」という3種類の声を、ウェアラブルタイプのスマートスピーカー「VC-NX01」に搭載してデモンストレーションを行っていた。

 オンキヨーの八木氏は、展示会への出展の反響も見ながら、将来はオンキヨーのオンラインストアでスマートスピーカー向けの「声」を販売する「ONKYOボイス」のマーケットを立ち上げることも視野に入れていると説く。ユーザーが親しみを持てる声を自由にカスタマイズできるサービスが実現すれば、国内外でのスマートスピーカーや、音声操作に対応するスマート家電の普及に弾みがつくかもしれない。

●車載用に最適なスマートスピーカーは2019年発売予定

 ONKYO AIには車載用スマートスピーカーの構想もある。既にいくつかの展示会でプロトタイプのスピーカー「VC-AX02」を公開しており、筆者も2月にバルセロナで開催された「MWC 2018」でプロトタイプを見る機会を得た。

 ポータブルスピーカーとしての外観はとてもまとまっているようにも見えたが、八木氏は「車載タイプのスピーカーについては、置き方やサイズなど、これから検討すべき事項がまだ沢山残っている」と開発がまだ道半ばであることを強調していた。確かに現物を手に取ってみると、このスピーカーを車のコンソールにポンと置いて使うのはやや難しいように思える。固定する方法を見つけなければならないし、自車の走行音も含めた騒音が飛び交う車の中、正確にボイスコマンドをピックアップするためにはプラスαの仕掛けもほしい。

 だが一方では「車載用スマートスピーカーの理想型」を思い描くための“たたき台”として、このタイミングでプロトタイプを形にしてみせたオンキヨーの挑戦はとても大きな意味を持っていると思う。音声によるハンズフリー操作は車載用のエレクトロニクス機器と非常に相性が良く、ドライバーの安全を高めることにおいてはプラスの効果を発揮することは間違いないからだ。本機については2019年に販売を開始する見通しも示されているので、これからの動きに注目したい。

●加振器の技術を使えば家がまるごとスマートスピーカーに

 一方でオンキヨーは、振動を利用して音を出す「加振器」を家の中の壁面などに取り付け、スピーカーのように音を発生させる技術を長年に渡って研究・開発してきた。既にバスルームや洗面所に設置して居住空間をスピーカーに変えるという提案をBtoB向けに始めている。

 バスルーム向けの加振器オーディオシステムとして商品化した“Vibtone(ビブトーン)”シリーズは、大和ハウスや積水ハウスなど住宅メーカーとパートナーシップを組み、リッチなバスタイムを楽しみたい音楽ファンに魅力を訴求するアイテムだ。バスルームの壁や天井に防水性のスピーカーを埋め込んだり、あるいは防水対応のBluetoothスピーカーを持ち込む手もあるだろうが、加振器を使うことでスピーカーの劣化を防いだり、バスルームの美観をキープできるのがこの商品のメリットになる。

 音楽ソースは洗面所に置いたスマホやタブレットからBluetoothで飛ばしたり、同じく洗面所に設置したシステムのコントロール部にアナログ音声ケーブルでつないで聞くスタイルが提案されているが、オンキヨーの八木氏によると「浴室にマイクを一緒に埋め込んで、インターネットにつなげばクラウドAIを使って操作することも可能になる」という。この考え方を発展させていくと、家のいたるところに加振器とマイクを設置してクラウドのAIに接続すれば、家のどこからでもAIアシスタントが呼び出せる。つまり、「まるごとスマートスピーカーのような家」も夢ではない。

 4月に国内で開催されたAI・人工知能関連の展示会に出展したオンキヨーは、会場でビブトーンの加振器を壁に貼ったポスターのパネルに埋め込んだコンセプトを披露した。パネルには加振器のほかに、スマートスピーカー「VC-GX30」にも搭載する、エンクロージャーから筐体を分離させたフローティング構造のマイクを組みこんだ。これによって精度の高い音声コマンド入力が可能になる。

 加振器を使うと色んなものが音の鳴るスピーカーに変わる。例えばタイガー魔法瓶の炊飯器は、天面にオンキヨーの加振器を搭載した製品だ。料理をするときなど、濡れた手で炊飯器の天面を触れることも多いので、開口部を持たないスピーカーを実現できる加振器の技術が役に立つ。加振器はまたボタンを押したことを触感で伝えるインタフェースとしても機能する。

 近年になってAIとエレクトロニクス機器の関係が急接近しつつある。多くの人々が豊かな暮らしを感じられるスマートホームを実現するため、オンキヨーが試行錯誤を続けているAIの取り組みは、一歩ずつ着実に前進しているようだ。

最終更新:5/18(金) 13:52
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