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ANAの将来「次は宇宙」

5/13(日) 17:02配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 片野坂真哉ANAホールディングス社長(3)

 ――2022年度までの中期経営戦略では、AI(人工知能)などによる「ソサエティ5.0(超スマート社会)」の実現に取り組むとうたっていますね。

 そうした分野のイノベーションの導入は、航空会社や空港にとって絶対に必要です。中期経営戦略では、具体的なものを目指しています。

 私は社長になった時、「うちにはドローンはないのか」と言ったんです。早速、どう活用するか研究が始まりました。イノベーションを推進するデジタル・デザイン・ラボという組織を設けて、この春に13人に増員しました。

 ドローンについては、地方空港で航空機の整備に使えないかと考えました。ドローンを航空機の上に飛ばして、カメラで整備上問題の個所はないかをチェックする実証実験を始めています。

 また人手不足対策のため、空港内でのバスの無人走行の実証実験を、ソフトバンクグループ傘下のSBドライブさんと羽田空港で始めました。空港で活用したい女性や高齢者は、重い荷物を持てませんので、それを助けるためにロボットスーツも試しています。

 ――いろんな技術があるのですね。

 コールセンターでは、アライアンスを組むパートナーの航空会社の乗り入れ先についても問い合わせが来ます。しかし「アフリカのボツアナに行きたい」と突然、聞かれてもオペレーターは戸惑います。

 そこで画面にボツアナはここだと示して、オペレーターを支援できるようにしています。また定番の質問には、チャボットというチャット(会話)をするロボットが、オペレーターに代わって答えます。

 最近、航空需要予測や来月の収入予測にも、AIを導入しています。人間と競争して、AIの勝率がだんだん上がってきています。

 さらに空港で話題なのは、顔認証技術です。顔認証で航空会社がお客様の本人確認をして、飛行機に乗せる方式が海外では始まっています。

 出入国や保安検査場の混雑緩和に顔認証技術を用いる動きは、すごいスピードで進むと思います。実際に入国もパスポートをかざせばよい顔認証ゲートが導入され始めています。

 ――変化を先導すべきと考えているのですか。

 花火を打ち上げても、誰も興味が無ければついて来ません。例えば、私は社長になって、今後目指すべき地域として南米やアフリカを挙げ、併せて「次は宇宙だ」とも言いました。

 するとそれに反応する社員がいたんです。そうした社員が核になって、宇宙機開発ベンチャーのPDエアロスペース(名古屋市)や、宇宙ゴミの回収を目指すベンチャー、アストロスケール(シンガポール)への出資が実現しました。

 社長に言われて嫌々やるのでは根付きませんが、やってみたいという社員が取り組んでいます。ANAは将来どんな世界に進んだらよいのか、社員にアンケートを取ったら、1番2番に「いずれは宇宙」といった回答が並びました。

 ――本当ですか。

 私は、非常に面白い結果だなと思いましたね。とりわけ嬉しかったのは、入社10年目の社員、松本紋子さんが、昨秋「S-Booster2017」という宇宙関連の事業アイデアコンテストで最優秀の大賞を取ったことです。

 テーマは「超低高度衛星搭載ドップライダーによる飛行経路・高度最適化システムの構築」です。人工衛星で風の動きを精緻に観測して、航空機が飛ぶ最適の経路を割り出すというものです。これによって燃料を節約しCO2の排出を削減できます。

 彼女は飛行機のフライトプランをパイロットと相談してまとめる仕事をしています。その経験を生かしてアイデアを練り、何と1人でコンテストに出たのです。

 実は私が人事部長のときに、採用の最終面接をした社員です。彼女は実用化に向けてJAXA(宇宙航空研究開発機構)と一緒に研究を始めたので、今春、デジタル・デザイン・ラボに異動しました。

 ――遠隔地での活動を疑似体験できる「アバター」というシステムを事業化するそうですね。

 羽田空港で記者会見をして発表したら、海外も含めて多くの方に面白いと思っていただいたようです。

 例えば、大分の関アジや関サバを釣りたいと思う人は、これを使えば離れた所からできます。大分にセットした釣り具が連動して、魚がかかった引きも体感できる。釣った魚も届けます。

 ――しかし飛行機に乗る人が減るのでは。

 その質問がよく出ますが、私は「必ず足を運びたくなるので、全く心配していません」と答えています。

 20年くらい前にテレビ会議についても、出張が減るぞと言われました。でも全然、減っていないですよね。

 アバターに代表されるイノベーションによって、普通のサービスも変わると思います。

 ダボス会議の予想では、10年もすると、世界中の眼鏡の10%はインターネットにつながります。会った人のプロフィールが表示されたり、飛行機内で映画を見たりとか、多彩な応用が考えられます。キャビンアテンダントのサービスの一助にできる時代が来ます。

 客室乗務員は今8000人ですが、東京オリンピックが過ぎるころには1万人になると思います。教育するために、羽田に600億円をかけて訓練センターをつくりますが、バーチャルリアリティー(仮想現実)などの技術を使って教えて行かないと、追いつかないでしょう。

 また様々な国からのお客様への対応を迫られる空港係員のために、多言語の同時通訳が可能な携帯端末の活用も始めています。イノベーションを生かしていかなくては、これからのエアライン・ビジネスはできません。

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:5/13(日) 17:02
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