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03年三冠牝馬スティルインラブ今明かされる秘話

5/15(火) 17:43配信

デイリースポーツ

 想像をはるかに超える強さに脱帽-。今からちょうど15年前に行われた3歳牝馬の競演は、私のなかで深く心に刻まれている。

 03年5月25日。東京競馬場。第64回オークス。牝馬クラシック第1弾・桜花賞に続き、2番人気の評価に反発して勝利をもぎ取ったのが、幸英明騎乗のスティルインラブ。当時担当していた草木明友調教助手(現・本田厩舎)が「あの時が一番強かった」と振り返るベストレースだ。

 最大のライバルは、武豊騎乗のアドマイヤグルーヴ。桜花賞は完勝と言える内容でねじ伏せたが、良血のライバルはこの一戦に祖母ダイナカール、母エアグルーヴに次ぐ“母子3代オークス制覇”の偉業が懸かっていた。単勝1・7倍。母系に伝わる距離適性も評価され、1番人気はライバルに譲った。

 草木が当時を振り返る。「普通に走れば、アドマイヤグルーヴは強い。ただ、あの馬はイレ込みがきつく、ゲートなどに課題がある。スティルの方が立ち回りはうまい」。不安視された距離に関しても「この時期の3歳ですから。掛からない馬だったし、何とかなるだろうと思っていました」とほほ笑んだ。

 自信はあった。土曜早朝の東京競馬場。スクーリングを行った際に、桜花賞馬は落ち着き払っていた。「パドックでおとなしい馬ではなかったので、ひと通り見て回ったんですよ。幸君が乗って、脱鞍所も1着のところに入って(笑)。“ここに戻って来るんだぞ”って教えました」

 そしてゲートイン。2戦目の紅梅Sで出遅れて以降、草木は常にゲートまで付き添っていた。「中で前かきをするので。でも、幸君はいつもうまく合わせて出てくれる。あの時もそうでした」

 実は、スタートこそが“勝負の分かれ目”だと草木は捉えていた。「桜花賞も、グルーヴが出遅れた時点で“勝った”と思ったんです。最後の直線は、同じぐらいの脚で伸びると信じていましたからね」。オークスでもライバルより前でレースを進め、中団で折り合いはピタリ。そして直線へ。ラスト1Fで2着チューニーを余力十分に抜き去ると、伸びあぐねるグルーヴの足音は聞こえない。上がり3Fはメンバー最速タイの33秒5。勝利を確信した鞍上の右手が高らかと挙がった。

 2冠達成。改めて、草木が振り返る。「実はレース後、的場均先生に“落鉄してるよ”と声を掛けられて。確かに、右前を落鉄していました。たぶん直線でしょうね。踏み込みが深くて、よく追突(前肢の蹄鉄を後肢で踏みかけたり、衝突したりすること)していたので、両トモ脚にゴムを貼っていたほどでしたが…。しかし、落鉄しながらもあれだけの走りを見せたのですから、あのオークスは本当に強かったです」

 そしてもうひとつ。草木には忘れられないエピソードがある。師匠である松元省一調教師のひと言。「レース当日に“『トウカイテイオー号』と書かれた馬運車を初めて見た。今まで探しても見つからなかったのにな。吉兆や”と。G1を勝つときにはこういうこともあるのでしょうね」

 ひと夏越した3歳の秋。最後の1冠・秋華賞をモノにしたスティルインラブは、86年メジロラモーヌ以来となる牝馬3冠制覇を成し遂げた。だが、4歳以降は不振が続き、この秋華賞こそが同馬の最後の勝利となった。「秋華賞の時も若干耳を絞って、怒っているような面を出していた。晩年はテンに引っ掛かっていたし、マイルぐらいの馬になっていましたね。体つきなんかは古馬になってからの方が立派で走れそうでしたけど…。競馬において、精神面は大切だなと思いました」

 05年10月の府中牝馬S(15着)を最後に現役を引退、繁殖入り。07年にはキングカメハメハ産駒の牡馬(ジューダ)を出産したが、同年8月に腹痛を発症して急死。7歳という若さでこの世を去った。「松元先生から連絡を受けて。悲しかったですね。実は1回目の宝塚記念(04年8着)のレース後に、脱水症状で腹痛を起こして苦しがったことがあったんです。その後はどうもなかったのですが、死因を聞くと腸が二重になってしまう腸重積とのこと。今思えば、予兆だったのかも知れませんね」

 08年2月。松元省一調教師は定年を待たずに勇退。厩舎解散後、草木は本田優厩舎へ移籍し、夏競馬で札幌へ出張する機会に恵まれた。「スティルが引退した後、牧場へ行けてませんでしたが、生まれ故郷の下河辺牧場へようやく出向くことができました。もう会うことはできませんが、事務所の横に立派な墓碑を建てていただいて…。本当にありがたかったです」

 名牝の血が途絶えたのは非常に残念だが、03年に輝きを放ったスティルの勇姿は決して色あせることはない。その名の通り“今でも愛してる”と心から思うオールドファンも多いことだろう。後世に語り継ぎたい、偉大な3冠牝馬だった。(デイリースポーツ・松浦孝司)

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