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「チケット手売り」は是か非か、SNSで変わるプロボクサーたちの慣習

5/16(水) 7:03配信

VICTORY

どんな仕事にも下積みはある。ボクシング界における「選手本人がチケットをセールスするスタイル」は、そんな初期段階の努力にも思えるが、世界王者になって「アルバイトを辞めた」という話はよく聞いても、「チケット手売り」は引退まで根強く、熱心に行われている。SNS社会が発展する昨今、この文化が大きくその印象を変え、「善か悪か」も改めて議論されるようになった。(文=善理俊哉)

ファイトマネーには「現金」と「チケット」がある

怪物、井上尚弥(大橋)が50億円の賞金トーナメントに参加するとか、元・オリンピック金メダリストの村田諒太(帝拳)に1試合で10社以上の大手スポンサーが各社平均1000万円ずつついたとか――。マスコミを通じて景気のいい話がボクシング界から出る一方で、業界内ではプロ格闘技の基本とも言える「チケット手売り」について議論が巻き起こされていた。

プロボクサーのファイトマネーは、賞金のような結果次第ではなく、戦いが実現した時点で与えられるギャランティだ。内訳には、本人に入る金額以外にマネージメント料などがあるほか、支払いに「現金」と「チケット」が存在し、今回のテーマには後者が重要となる。「チケット」の場合は、現金で渡さない代わりに、たとえば2倍額分など、ファイトマネー額以上を金券として渡し、あとは自分でやり取りするように…というのが風習だ。また「現金」の場合や最初に渡された「チケット」を完売した場合にも、チケットが追加注文されることはある。

ボクサーのチケット手売りは、とうに業界の常識的なシステムだが、関係者でさえ、その多くが「果たしてこれはプロスポーツのイメージに沿うベストなシステムなのか」という疑念を持ち続けている。マスコミも、この風習を「わざわざ触れるべきではない舞台裏の苦労」として、肯定的に見ることが少なかった。

「手売りは最先端」か「選手の役割ではない」かで元王者たちが対立?

ところが今の若者、つまり現役選手たちはSNSを使って、この手売りをためらうことなく行い、その印象を以前よりは肯定的に変えている。中でも元WBC世界ライトフライ級王者の木村悠氏は「チケットの手売りはスポーツエンターテイメントのむしろ最先端であり、肯定的に進化させていくべきだ」と、セミナーなどを通じても提案してきた。

「もちろん最初は大変だと思いますけど、経験上、手売りに夢がないとはまったく思えなかった。野球もサッカーも、アイドルだってコミュニティのつくられかたが昔と変わって、神格化された手の届かない存在ではなく、身近で深いファンが集められるようになって来ています。ボクサーも他人から関心を持たれる情報を研究して、まめに発信していれば、仮に弱くて地味な選手でも、年間3、4試合するだけで生活できる夢がある。それに、チケットを買ってくださるということは、その人に投資をするってことですから。回収したいという情熱が引退後まであれば、ボクサーにとって未解決なセカンドキャリアをカバーしてもらえるかもしれない」

木村氏は「1にSNS、2に購入システム、3がスポンサーの継続」という段階まで確立している。

これに対し、「極めて現実的な意見」と言いながらも、元日本ライト級王者の土屋修平氏はツイッターなどで激しく反発してきた。

「自分もチケットを売ることに関して、まったく“負け組”ではなかったので、東京に友達がいなかった時代も、いくつかのお店を挨拶回りしていれば、正直、ノンタイトル戦でも現金でもらうより収入はありました。でも、友人から素朴な疑問で“ファイトマネーっていくら?”って聞かれて“チケットでもらっている”とか、言いづらいじゃないですか。そもそも選手は戦って勝つことが役割なんじゃないかなって。売る側にも買う側にも手間が多いし、キャンセル料とかの仕組みも、教科書がないから自分で築いていかなきゃいけない。強くなることに専念して、“ここまで勝ち上がったら生活が安定する”とかが見えているべきだと思うんです。でもその安定が今は世界王者になってもなかなか見えな い。この現実を開き直って世間に見せても、子供たちが“僕(私)も将来、頑張ってチケット長者になるぞ!”なんて目指しますか?」

誤解がないように、両者ともファイトマネーに関しては、それぞれ、好待遇で知られるジムに所属していた。しかし土屋氏は「現代的なコンサルティングのプロが入れば、抜本的に商業スタイルが改善されるのでは?」と考える。

一方で木村氏は手売りの肯定を一貫する。
「僕のボクシングには実績があるけど、我ながら華がなかった。だから“木村の試合はどうしてあんなにチケットが売れるんだ”とか言われましたけど、それは強くなることや減量以外の努力を実らせていた結果です」
たとえばチケットの受注業務はFacebookのシステムを利用するだけでも、現代では簡単にできる。

「何度かボタンをクリックしているだけでやり取りできます。今の選手は“興味があったらダイレクトメールをください”と告知するのが主流ですけど、これでも敷居を上げてしまっていますね」

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最終更新:5/16(水) 7:03
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