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ドルビーアトモスのリアルタイム配信で、自宅でもライブの臨場感を!

5/16(水) 17:03配信

Stereo Sound ONLINE

株式会社NTTぷららとドルビージャパン(ドルビーラボラトリーズの日本法人。以下ドルビー)は協業で、ドルビーアトモス対応のコンテンツをリアルタイムで配信する、日本で初めての実証実験を3月に行なった。

【画像】マイクはやぐら部分に設置

これは、ライブ会場で収録した音声をリアルタイムにドルビーアトモス化(エンコード)し、その音声データを配信して、ホームシアター環境(自宅)でドルビーアトモス再生を行なうというもの。ライブのリアルタイム配信は現在、さまざまなメディアで行なわれているが、それに最新のドルビーアトモス音声を付加することで、さらなる臨場感を提供しようという狙いがある。

ここでは、実証実験を行なったNTTぷらら、およびドルビーの担当者に、実験の手応えについてインタビューした。(Stereo Sound ONLINE 編集部)



 今回の実証実験の舞台に選ばれたのは、神奈川県パシフィコ横浜で開催されたライブコンサート。その模様は、NTTドコモ提供の映像配信サービスdTVチャンネルの「ひかりTVチャンネル+」でライブ配信されていたのだが、実はその裏で、日本初となる配信実験が同時に行なわれていたのをご存じだろうか。

 それは、音楽ライブをドルビーアトモスでリアルタイム配信するという画期的な試み。「ひかりTV」を運営するNTTぷららとドルビージャパンとの協業によるもので、今後の商用サービスに向けた制作フローの構築や素材収録などを実際に行なうための実証実験となった。

 ドルビー(アトモス)といえば、映画のためのサラウンド音響技術と思われがちだが、ライブコンサートでの収録も行なわれているし、英国のプレミアリーグサッカーやピョンチャン(平昌)冬季オリンピックなどのスポーツ中継でも採用されている。映画だけでなく、ライブの臨場感を伝えることのできる音響技術としても、普及が進んでいるのだ。国内では、今回の実証実験が初のものとなるが、その実験の様子を、収録された映像とともに取材することができた。


■ライブの音響をその場でアトモス化。リアルタイムで伝送

 さっそく、ライブ音響をどのように収録(伝送)したかを紹介しよう。会場となるパシフィコ横浜には、ライブ配信のための音声中継車とは別に(配信はステレオで行なわれた)、ドルビーアトモス用の音声中継車も用意された。

 ドルビーアトモス用の音声中継車では、演奏や歌などのライン音声のほか、会場に設置したマイクで収録された観客の歓声を活用し、その場で5.1.4ミキシングが行なわれた。中継車内は、写真のようにマルチチャンネル音声(5.1.4)を確認(モニター)できるシステムが構築されており、その場で5.1.4サウンドのチェックも行なえるようになっていた。

 5.1.4の音声信号は、10chのPCM信号として非圧縮のままエンコード装置まで伝送が行なわれた。伝送先は、パシフィコ横浜からはおよそ45km離れた東池袋にあるNTTぷららで、社内に設置された視聴室――家庭用のAVアンプなど、一般的な機器を使ったシステムが設置されている――では、伝送されてきた信号をドルビーが提供するドルビーアトモス用のエンコーダー「DP591」を使ってリアルタイムでエンコードした後、ドルビーアトモス対応のAVアンプを通して再生を行ない、品質などをチェックしたという。

 「当日は公演が2回行なわれたので、1回目でテストを行ない、2回目を本番にあてました。1回目は現場で生の音を聴き、2回目はNTTぷららの視聴室でドルビーアトモス再生を確認しました。現場の音とどういう違いがあるかもチェックしながら聴きましたが、会場の臨場感を大変忠実に再現できていたと感じました」(ドルビージャパン 高見沢雄一郎さん)

 初のドルビーアトモスのリアルタイム配信ということで、事前にテストを繰り返すなど入念な準備をした上で、ドルビーアトモス効果を最大限に高めるためのマイク設置等コンサルタントのため、ライブ配信経験の豊富なドルビー本社スタッフを招へいし、アドバイザーとして参加してもらったという。

 マイクセッティングは、5.1chサラウンド収録用に、ステージの直近に4本、アリーナ席の中程に2本、アリーナ席後方に4本を設置。加えて、高さ方向の音を収録するために、ステージ両脇に建てられたやぐらに左右で2本、会場の最後方に2本が設置されている。

 やぐらに設置されたマイクの高さは5mほどになるそうだが、高さ方向の収録については、低い位置に取り付けて天井からの反射音を収録することもあるという。このあたりは、会場の音響やミキシングのやり方によっても変わるそうだ。

 もちろん、これに加えて、歌声や演奏などは会場のPAでも使われるライン音声などもあり、最終的のこれらを5.1.4にミキシングしている。

 「今回目指したのは、ライブ会場の臨場感を可能な限りそのまま家庭でも再現できることでした。ですから、マイクの設置も観客席にごく近い位置にしています。マイクが遠くなると、音も遠くなって生々しい感じが薄れてしまうのです」(ドルビージャパン 近藤広明さん)

 「ドルビーアトモスのリアルタイム伝送は、必ず成功させたいと思っていましたから、準備は徹底して行ないました。ライブコンサートは魅力的な素材ですから、それをアトモスでリアルタイム配信できるとなれば、配信サービスの魅力をより一層高められます」(ドルビージャパン 高見沢雄一郎さん)


■ドルビーアトモスで、ライブの臨場感を体験!!

 いよいよ、実証実験を行なったライブコンテンツを聴かせていただいた。配信実験でも使われたNTTぷららの視聴室には、ヤマハのAVアンプ「RX-V581」や、同じくヤマハのホームシアター用スピーカーを使った5.1.4構成のスピーカーがセットアップされている。ディスプレイはLGエレクトロニクスの有機ELテレビ「OLED65C7P」だ。

 「実際の家庭環境では、セットトップボックス(STB)からのHDMI出力を、ドルビーアトモスに対応したAVアンプに接続すれば、ドルビーアトモスの再生が楽しめます。セットトップボックスのドルビーアトモス対応については、後日、ファームウェアアップデートを行なう予定です」(NTTぷらら 中川伸朗さん)

 視聴では、まずはその音の生々しいほどの鮮度の高さに驚かされた。大勢のメンバーの歌声もそれぞれの声がくっきりと前方に定位し、音がぐっと前に迫ってくる感じがある。場内の声援も視聴位置をぐるりと包囲し、ライブ会場にいる雰囲気がよく伝わってくる。ドルビーアトモスならではといえる高さ方向の音の響きもなかなかにリアルで、会場の天井の高さがわかるような広々とした響きが感じられる。

 視聴では、ステレオ音声とドルビーアトモス音声を切り替えながらその違いを確認したが、ステレオ音声になると一気に音が寂しく感じてしまう。音場が前方だけにしぼんでしまうし、立体感のない平板な印象になる。それ以上に、歌声などが遠ざかった印象になるし、それぞれの音の定位も弱まり、ひとりひとりの声の鮮明さも薄れてしまったように感じる。

 サラウンドというと、声援やホールの響きに包まれているような感じを連想する人は少なくないと思うが、ドルビーアトモスはそれを超えて、ひとつひとつの音が実に鮮明に浮かび上がり、目の前に迫ってくる。周囲の声援は大きすぎるくらいなのだが、それでも前方からの演奏や歌が埋もれずにくっきりと聴こえてくる。この感じはまさに立体音響だ。コンサート会場の雰囲気が実に豊かに再現されている。実際にコンサートに足を運んだ人ならば、こんな音響で楽しめれば、コンサートの興奮がリアルに蘇るはずだし、コンサートに行けなかった人も、その雰囲気を存分に味わえるはずだ。


■実験だけでは終わらない。今後はさらにさまざまなライブイベントに挑戦したい

 実証実験を行なったコンテンツは、残念ながらドルビーアトモス音声による配信の予定はない。だが、これから実際の配信に向けて、さまざまなライブイベントの収録に挑戦していくという。そこで、実際に配信がスタートするとどうなるのかなど、気になった点について聞いてみた。

Q.まずはコストについて。ドルビーアトモス音声の収録ということで、コストはそれなりにかかるようだが、将来的にはより多くのライブで収録(配信)できることも期待できるのだろうか?

A.「コストとしては、ドルビーアトモス用ミキシングのための機材やエンジニアが追加で必要になりますが、ミキシング作業自体はライブ会場現地で行なう必要はありません。ピョンチャン(平昌)冬季オリンピックでは、現地の音を米国東海岸へ伝送し、ミキシングしてから世界へ放送していました。ドルビーアトモスのミキシングができるスタジオが増えれば、コストも抑えられると思います」(ドルビージャパン 近藤広明さん)

Q.続いては映像についても聞いてみた。ドルビーアトモスでここまで臨場感が豊かになると、映像もHDRの採用などを期待したくなる。このあたりについてはどうだろうか?

A.「ドルビーには独自のHDR技術であるドルビービジョンがあり、ひかりTVでもご対応いただいています。今後はドルビービジョン+ドルビーアトモスで最高のライブ配信をぜひ実現したいと思います」(ドルビージャパン 川上信明さん)

Q.最後は映画のような音の移動感などの演出について。ライブでは不要かもしれないが、音が前後左右に移動するような効果を再現することは可能なのだろうか?

A.「歌い手がステージを動き回る様子を再現するとか、クレーンなどを使って客席の上を移動しながら歌う様子を音も一緒に移動させるといったことは可能です。このあたりはライブコンサートの演出次第でもありますが、いろいろな手法にも挑戦してきたいですね」(ドルビージャパン 近藤広明さん)

 ライブコンサートでは、あまり派手に音を移動させる必要はないかもしれないが、演劇などのライブ中継ならば、そんな演出も大きな魅力になりそうだ。映画に比べるとライブイベントはまだまだ経験が足りないので、ドルビーとしても今後もNTTぷららと協力して、いろいろなイベントに参加していきたいとのこと。

 ドルビーアトモスによるライブコンサートは、映画とはひと味違った臨場感を味わうことができ、ライブ作品がますます楽しくなると実感できた。それが、パッケージソフトだけでなく、ライブ配信も可能になるとますます魅力的になる。NTTぷららの「ひかりTV」ならば、こうしたライブ配信ももっと臨場感のある映像と音で楽しめる。

 ホームシアターは映画だけのものという考えはもう古い。これから続々と登場する最新のコンテンツを、ドルビーアトモスの立体音響と4K&HDRの高画質で存分に味わいたい。

Stereo Sound ONLINE / 鳥居一豊

最終更新:5/16(水) 17:03
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