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なぜパタゴニアはトランプ大統領に「宣戦布告」したのか

5/17(木) 7:45配信

ITmedia ビジネスオンライン

 先日、米アウトドア用品大手パタゴニアのローズ・マーカリオCEOがオレゴン州のITカンファレンスに登場した。

【米国の他のアウトドア企業も活動に動いている】

 そこでマーカリオCEOは、トランプ政権について「最低だ」「信じられない」と発言し、メディアでも話題になった。というのも、今パタゴニアはドナルド・トランプ大統領とライアン・ジンケ内務長官と「戦争状態」にあり、マーカリオCEOの発言は注目されていたからだ。

 なぜパタゴニアは、トランプ政権と対立しているのか。

 実は、パタゴニアはトランプ大統領を提訴している。人気アパレル企業が国を訴えるとは穏やかではないが、その背景には米国の企業に見受けられる活動主義(アクティビズム)がある。トランプのケースから企業の活動主義を見ていくと、アクティビズム的な動きが今後、ビジネスに重要になってくる可能性が見えてくる。

 まず、トランプはいったい何をしでかしたのか。

 日本でも人気の高いパタゴニアは、そもそも環境保護の旗手として、米国ではよく知られている活動主義的な企業だ。

 これまでも環境問題を提起するような話題を振りまいてきた。例えば、2011年に自社のフリースを「購入するな」というキャンペーンを張って話題になったり(洋服を作るのにも温室効果ガスを排出するから)、16年には米国のクリスマス商戦の初日となる「ブラックフライデー」の売り上げの全てを環境保護活動をする団体に寄付したこともある。

 また1985年から、年商の少なくとも1%を環境団体などに寄付しており、現在までにその額は9000万ドルほどにもなっている。

 パタゴニアの公式サイトを見れば、自分たちが「アクティビスト企業」であると喧伝(けんでん)しているのが分かる。「私たちは、環境危機が重大な転換点に来ていると考えている。温室効果ガス排出を減らし、きれいな水や空気を守り、(環境によくない)汚れたテクノロジーを捨てるといったコミットメントがなければ、人類全体が、地球の自浄能力を破壊してしまうだろう」と主張する。

 そして18年2月には、環境問題の情報交換ができるプラットフォーム「パタゴニア・アクション・ワークス」を立ち上げている。

 過去40年にわたって環境問題を提起している筋金入りの企業だけに、相手が誰だろうと間違っていると思う相手には立ち上がる。それが米大統領であってもだ。

●トランプ政権に「宣戦布告」

 パタゴニアは17年12月、トランプ政権に対して「大統領が私たちの土地を盗んだ」というキャンペーンを開始した。その理由は、トランプが発表した方針にある。

 トランプはユタ州にあるナショナル・モニュメント(国定記念物)指定保護地域2カ所で、保護地域の範囲を大幅に縮小すると発表。そして2月2日には、ベアーズ・イヤーズ地域の保護区が実際に約84%縮小され、グランド・ステアケース・エスカランテ地域も約47%縮小された。

 この決定がなされた12月、パタゴニアはトランプとジンケ内務長官、農務長官、土地管理局の局長、森林局の局長を訴えた。パタゴニアの主張は、法律によれば大統領には国定記念地域を指定する権限はあるが、削減・縮小する権利はない、というものだ。また、この指定範囲縮小の本当の理由は、政府による天然資源の採掘にあると指摘。縮小により、石炭なら114億トン、ウランは50万トンが得られ、9万エーカーで石油または天然ガスの採掘の可能性があるという。そしてこの事実を政府は明らかにしておらず、うそをついている、とも批判している。

 この「宣戦布告」に、下院天然資源委員会が反撃。Twitterでパタゴニアを批判し、その後にパタゴニア製品の不買を示唆するような情報が出てくるなど大騒動になった。

 ただ皮肉なことに、この一連の騒動の「おかげ」なのか、パタゴニアの売り上げはこれまで以上に好調になっているという。実はこれまでの奇抜なキャンペーンも売り上げ増に貢献してきた実績を、パタゴニアはよく分かっている。11年のフリース不買キャンペーンの後、12年は売り上げがそれまでより30%も増えている。16年のブラックフライデーでも、パタゴニアは1000万ドルを売り上げ、店舗の売り上げは76%も増えたという。さらにブラックフライデー前後数日でFacebookのフォロワー数が6万人増え、オンライン購入者の70%は新規購入者だったと報じられている。

 環境保護の活動がパタゴニアの売り上げに貢献していることは間違いなさそうだ。また今回問題になっている国定記念地域についても、国定公園などと関係が深いスポーツのクライミングなどに関連する製品は、パタゴニアのビジネスに貢献している。今回の訴訟は、そんなビジネス的な動機があるとの批判も一部で聞かれる。そうしたビジネスの売り上げ増が、パタゴニアの環境保護活動の本当の動機なのかどうかは定かではないが、そう見る向きもあるということだ。

●活動的な企業が珍しくない米国

 今回の国定記念地域の問題では、他のアウトドア系企業も活動に動いている。例えば、日本でも人気のザ・ノース・フェイスや、オスプレー、ブラックダイヤモンドなどもベアーズ・イヤーズ地域の保護を支持する教育施設を立ち上げている。

 パタゴニアのような政治的に「活動的」な企業は米国では珍しくない。そうした自分たちのアイデンティティーを積極的にPRすることで、消費者や「信者的」な支持者をつなぎとめる手段にもなっている。もちろんこうした企業の活動が、消費者の購買活動に直接作用するのも事実で、日本でも環境問題に意識のある人なら、環境問題に一切関わらない企業の製品よりは、パタゴニアのような企業のアイテムを購入しようと思うこともあるだろう。

 また消費者側のプレッシャーから、政治的な議論で立場を表明しなければならなくなるケースも米国ではある。例えば、米国で関連事件が多発している銃規制について、企業が銃規制の賛否の立場の公表を迫られることも。大手小売りのウォルマートや、ホテルチェーンのベストウェスタン、航空会社のデルタ、レンタカー会社のハーツなどは、度重なる銃撃による殺傷事件によって消費者からの批判が押し寄せ、全米ライフル協会(NRA)との関係を切る発表をしている。

 こうした消費者側から活動する人たちは「消費者アクティビスト」と呼ばれる(活動自体は「消費者アクティビズム」という)。これは、トランプ大統領が就任したばかりの頃にも話題になった。トランプの人種差別的な発言や、女性軽視の言動を背景に、トランプの家族のビジネスをボイコットしようとする動きが起きたのである。

 例えば、トランプの娘のイヴァンカ・トランプ大統領秘書官の手掛けるブランドを取り扱っていた大手デパートには批判が殺到し、デパートなどが取り扱いをやめると発表する事態になった。トランプ関連製品の取り扱いをやめたことで、逆にトランプ支持者からボイコットを受けるというケースもあった。

●若者を引き付けるアクティビズム

 パタゴニアやイヴァンカの件で見られたような企業や消費者によるアクティビズムへの興味は、米国の若い世代に顕著だという。米国の13~25歳(Z世代)を対象にした米コンサル会社「DoSomething Strategic」の調査によれば、製品を購買する際に、彼らが信じている価値観を持ったブランドに親しみを覚えるという。またZ世代で回答した人の76%が、何かの問題について自分たちの立場を明確にしているブランドを支持するために製品を買ったことがあるという。消費者として製品をボイコットしたことがあると答えた人は40%だった。

 この調査からは、米国ではビジネスにアクティビズムが重要になりつつあるということが分かる。そして言うまでもなく、Z世代は今後の消費を支えていく存在だ。

 日本も今後、世代が変わっていくにつれ、そうした消費者の動きが起きる可能性はある。米国を見る限り、この先、若い世代を取り込むキーワードは「アクティビズム(またはアクティビスト)」なのかもしれない。

(山田敏弘)