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ガス代が月1,800円! メリットが多くても「太陽熱温水器」が普及しないワケ

5/17(木) 7:00配信

Impress Watch

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

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 今、太陽光発電におけるエネルギー変換効率は15%前後、筆者が太陽電池に初めて興味を持った37年前でも10%前後だったので、それほど大きく進化していないのが実情。しかし、太陽光から40~60%のエネルギーを取り出す、圧倒的に変換効率の高い方法があるのをご存じだろうか? それは最先端の技術でもなければ、新デバイスの登場でもない。昔からある「太陽熱温水器」だ。

 仕組み的にも太陽からの熱で水を温めるだけと簡単だし、導入価格も安く、再生可能エネルギーの活用、地球温暖化防止という意味では、非常に有意義なものなのだ。ただ、残念なことに、日本国内では太陽光発電ばかりが注目されていて、太陽熱温水器は廃れてしまっているといっても過言ではない状況。その背景には国のエネルギー政策や、補助金といった制度的なことも絡んでいるようだ。

 実は筆者自身、自宅を建てた2004年に太陽光発電のための3.6kWのパネルを搭載すると同時に、240Lの太陽熱温水器も屋根に乗せており、ともに現在もフル稼働してくれている。そこで、太陽熱温水器でどんな恩恵があるのかということについて、紹介してみることにしよう。

■太陽熱でお湯にする、エネルギー変換効率が良い太陽熱温水器

 最近は太陽熱温水器というモノ自体をご存知ない方も多いようだが、これは名前の通り、太陽熱で水を沸かして温水にする装置だ。基本的な仕組みは至って簡単。ビンや缶を真っ黒に塗って水を入れて太陽の下に置いておけば温かくなる、ただそれだけのこと。シリコンウエハもいらなければ、直流を交流に変換するパワコンも不要。ものすごく単純な仕組みでありながら、最新の太陽電池よりもはるかにエネルギー変換効率が高く、うまく作れば60%近いエネルギーを取り出すことができる。

 この太陽熱温水器は、日本でも1960~1970年代に広く普及し、農協などが積極的に展開したこともあって、農村の家庭で利用するケースが非常に多かったようだ。石油ショックでエネルギーの枯渇が叫ばれる中、石油もガスも不要で、晴れればタダで熱いお湯が沸かせるということで幅広く使われていた。実際、今も地方に行った際、古い家の屋根を見ると太陽熱温水器が設置されているのをよく見かける。もっとも、これらを現在も使っているのかどうかは怪しいところではあるが……。

 農村というわけではなかったが、山口県にあった筆者の祖父母の家にも30~40年前に、太陽熱温水器が使われていた記憶がある。朝に蛇口をひねって水道水を屋根に上げておき、夕方に風呂場の専用蛇口を開くと熱湯が下りてくる。そこに水を混ぜて温度調整をするという使い方だったと記憶している。これが「汲み上げ式」というものなのだが、こうした方式の太陽熱温水器は平成時代に入るころには販売されなくなっていたようだ。

■現在の太陽熱温水器は設定温度で給湯できる

 では、現在はどうなっているのか? 太陽熱温水器の業界団体である一般社団法人ソーラーシステム振興協会に伺ってみた。

 「現在は自然循環型の『太陽熱温水器』と強制循環型の『ソーラーシステム』という大きく2つに分類することができ、さらに『ソーラーシステム』は液体式と空気式の2つに分かれています」と話すのは、技術部長の夏目 貴史氏。それぞれで使い方などが異なってくるのだが、筆者が2004年に導入したのは自然循環型の一種である真空式ソーラー温水器というものだった。

 とにかく、子供のころからの夢であった「太陽光発電で生活できる家を作りたい」という思いを実現するため、2004年に太陽電池を乗せた家を建てた話は、このソーラーリポートの連載をスタートさせる前の2010年に4回分の記事として書いているが(「家庭向け太陽光発電システムって実際どう?」)、この時に同時に導入を決めていたのが太陽熱温水器だった。やはり太陽光発電より断然エネルギー変換効率が高く、自然エネルギーの取り入れという意味で非常に有利であったからだ。

 当時いろいろと検討した結果、導入したのは日本電気硝子の「サンファミリー」という製品。構造としては、魔法瓶のようなガラスの二重管構造のパイプが屋根の上に乗っていて、これで太陽熱を集熱する一方、ここで沸かしたお湯を貯蔵するが、魔法瓶構造だから保温性もしっかりしている。どのくらいの量のお湯を利用するかによって、サイズが選択できるようになっていたのだが、5人家族なので240Lのシステムを導入した。

 残念ながら日本電気硝子は2008年にこのサンファミリーの生産を終了してしまい、家庭用の太陽熱温水器から撤退してしまったのだが、ウチでは現在も問題なくお湯を沸かしてくれており、晴れていれば夏はもちろん冬でも風呂炊きにガスなどのエネルギーを使わないで済んでいる。

 では、大昔の汲み上げ式の太陽熱温水器と何が違うのか? 実はユーザーとしては、お湯を何で沸かしているのかなど、まったく意識せずに使える構造になっているのだ。つまり、風呂場のリモコンで「42℃に設定して、お湯張り」とすれば自動で風呂が沸かせるし、「40℃で給湯」と設定して、シャワーを出せば40℃のお湯が出てくるようになっている。

 というのも、屋根から降りてくるお湯が、スカイブレンダーという装置を通じてノーリツの給湯器に入ってきているからで、もし屋根から降りてきた水温が設定温度より高ければ水を混ぜてその温度にするし、低ければガスを点火して設定温度まで上げる、という仕組みになっているからだ。

 そのためには、スカイブレンダーに対応したガス給湯器の導入が必要となるが、当時それなりの選択肢があったので、普通に導入することができたのだ。探してみたら当時の見積書が出てきた。これによると、本体価格にスカイブレンダーなどの機材価格、さらに工事費まで入れて52万円。当時の5%の消費税を入れても54万6,000円という価格だった。

 実は当時、経産省では「住宅用太陽熱高度利用システム導入促進対策費補助金」というものがあり、このサンファミリーもその対象になっていたことも導入の決め手となっていた。一般の自然循環型太陽熱温水器が30万円程度であるのに対し、倍近い価格ではあったけれど、かなり効率が良く、しかも補助金が出るということで、これを選んだのである。ちなみに、補助金交付額は76,999円。つまり約47万円で設置できたわけだ。

■太陽熱温水器があればガス代はほとんどかからない!?

 では実際の効果はどうなっているのか? 太陽熱温水器の場合、太陽光発電と違って売電できるわけではないから、金額的にいくらに相当する熱を作り出したのかを測定する手段はないのだが、たとえば昨年7月11日~8月8日の1カ月で使ったガスは8m3で、基本料金を入れたガス料金は1,819円。東京ガスの場合、使用料に応じて単価が変わるA~Fまで段階がある中の最低ランクであり、4人家族の一般家庭の1/5程度だ。

 一方、真冬の1月13日~2月8日においても、使用量は44m3で5,959円。これも4人家族の冬場1か月の平均のガス代が21,000~23,000円というところから考えると1/4程度だ。追い炊きではガスを使うし、調理にもガスを利用している。また冬場は暖房にもある程度ガスを使っているので、筆者の家庭においてもガスは必須ではあるが、かなりの節約ができていることはわかるだろう。

 家を建てたときから太陽熱温水器があるため、ない状態との比較はできないので、厳密な計算はできない。しかし一般家庭の平均との比較で考えると、年間で10万円以上は節約できており、初期コストは5年程度で元が取れているのではないだろうか。

■なぜ太陽熱温水器は普及していないのか

 これだけ導入効果の高いシステムなのだから、環境保護、再生可能エネルギー導入が叫ばれる現在、爆発的な普及があってもいいと思うのだが、現実はそうなっていない。先のソーラーシステム振興協会によると、太陽熱温水器の導入は1980年の80万2,516台をピークに年々下がっており、2017年には2万328台となっているという。住宅用の太陽光発電が毎年10万件以上で、その累計が2016年に200万件を超えたのとは対照的な状況となっている。

 「太陽熱温水器のほうがエネルギーの利用効率から考えて圧倒的に良いのは確かです。ただ、太陽光発電では電気を発生できるため非常に汎用性が高く、太陽熱温水器の場合、熱しか利用できません。また国の政策として、電気は買い取ってくれるから経済的なメリットもわかりやすく、一般の方の目が太陽光発電だけに向いてしまった、ということがあるかもしれません。

 生活スタイルの変化や経済的な発展というものも、影響していると考えます。オイルショックの頃は、まだガスが普及していないところも多く、太陽でタダでお湯が沸かせるということで広がりました。しかしガスが通り、さらには電気で安くお湯が沸かせるエコキュートが出てきた時点で、状況は大きく変化したように思います。より便利で使いやすいものがいいと、太陽熱温水器からシフトしたのではないでしょうか」(夏目氏)

 もうひとつ、太陽熱温水器に追い打ちをかけたのが、訪問販売問題だ。1990年代後半、太陽熱温水器のテレビCMを派手に打つ一方、強引な訪問販売を行なう業者がいたことで社会問題となり、太陽熱温水器が敬遠されるようになったのだ。

■太陽熱と太陽光を組み合わせた新たなシステム「PVT」で巻き返せるか

 もっとも太陽熱温水器の業界も、ただ指をくわえて見ているだけではない。最近は、太陽熱利用システムと太陽光発電システムを組み合わせた新たな太陽エネルギー利用システム「PVT(Photovoltaic thermal collectors)」を打ち出し、巻き返しを図っている。

 「太陽熱集熱パネルと太陽光発電パネルを組み合わせて、ひとつのパネルにしたPVTパネルを屋根に設置することで、発電も太陽熱利用も行なえるシステムを各社が打ち出してきています。都心の狭小地では太陽光発電の搭載量が限られてしまいますが、PVTなら太陽熱も利用できるので、省エネ効率を向上できます。また、太陽光発電パネルの温度は上昇すると発電効率が下がってしまいますが、PVTパネルなら太陽熱集熱部が太陽熱を吸収するため、太陽光発電の発電効率を高められるという副次的な効果もあるのです」と夏目氏は解説する。

 ただ、PVTとして統一された規格ができあがっているわけではなく、メーカーによって仕様は異なるようだ。実際、OMソーラーのPVTシステムだと売電が可能となっている一方、他社のものは電力系統への連携はできず、蓄電池に貯めて使う形になる。この辺にはまだ課題もありそうだ。

 「環境省が進める2018年度のZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)支援事業では、ZEHを建築する際に、太陽熱による先進的な再生エネルギー技術を活用した場合、一戸当たり90万円の追加支援が設けられる制度が確定しました。この『太陽熱による先進的な再生エネルギー技術』については、PVTも対象となることになり、5月26日から公募が始まるところです。現在の予定だと、これが5年間行なわれるとのことなので、ぜひこうした制度を起爆剤にして普及促進できれば、と考えています」(夏目氏)

 個人的な経験からいえば、無理に複雑なシステムを作らなくても、単純に太陽光発電と太陽熱温水器を並べて導入すれば両立は可能だし、比較的安価な導入もできる。

 もちろんPVTが、より安いシステムになって系統連携も可能になるならば、それに越したことはないのだが、そのためには太陽熱温水器、太陽熱利用が広まらないと難しそうだ。国の政策としても、FIT終了など太陽光発電にメドが立ってきた今、もっと太陽熱利用に積極的になってもいいように思う。

家電 Watch,藤本 健

最終更新:5/17(木) 7:00
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