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命を救う再生医療の試金石 高難度、安全面で慎重対応

5/17(木) 7:55配信

産経新聞

 ◆年間20万人死亡

 iPS細胞を使った大阪大チームの治療計画が了承された心不全は、国内で年間20万人が死亡する心臓病の中で最も死者が多い病気だ。iPS細胞による再生医療は患者の命を救う領域に初めて踏み出すことで、本格的な幕開けを迎える。

 人のiPS細胞は京都大の山中伸弥教授が平成19年に世界で初めて作製。多様な細胞を作り出せるため、病気やけがで失われた組織や臓器に目的の細胞を移植し、機能を回復させる再生医療への応用が急ピッチで進んだ。

 患者に細胞を移植する臨床研究は、26年に理化学研究所などが加齢黄斑(おうはん)変性という重い目の病気を対象に世界で初めて実施。これと比べ今回の計画は、はるかに難度が高いという。

 大阪大チームを率いる澤芳樹教授は「疾患が重篤で生死に関わる点が、眼病と異なる難しさだ」と話す。生死と向き合いながら心臓の機能を改善しなければならず、安全面でより慎重な対応が求められる。開胸手術を伴うことから、患者の負担も少なくない。

 ◆がん化リスクも

 移植に使用する細胞の数も、桁違いだ。加齢黄斑変性では患者1人当たり数万個だったが、今回は患部が大きいことから約1億個にも跳ね上がる。

 iPS細胞は、移植に使った細胞の一部ががん化する懸念があり、使う細胞が多いほどリスクが高まる。心筋細胞にきちんと分化しているかを確認し、未分化の細胞を取り除く手間のかかる作業も増える。分化しなかった細胞がシートに混じってしまうと、がん化したり不整脈が発生したりする恐れがあるためだ。

 また、目は術後に外部から患部を検査できるが、心臓は直接診察できない。がん化など何らかの不具合が生じると迅速な処置が難しく、成功へのハードルは上がる。このため澤教授は「最も安全に配慮した形で実施する」と強調する。

 チームは心不全のブタの心臓にiPS細胞から作った心筋シートを移植し、心臓機能を改善させることに成功している。ただ人での効果は未知数だ。澤教授は「初めてのケースなので、病気の進行を食い止める程度を目標にしている」と話す。

 ◆脳・肝臓でも計画

 iPS細胞を使った臨床計画は今後もめじろ押しだ。慶応大は今回とは異なる方法による心筋細胞の移植や、脊髄損傷の治療を計画。京大も難病のパーキンソン病患者の脳に、神経細胞のもとになる細胞を移植する計画で、いずれも年内の実施を目指している。

 その先には、細胞レベルではなく組織や臓器の移植研究が待っている。横浜市立大は肝臓のもととなる立体的なミニ肝臓を作製し来年度以降、肝不全患者に移植する計画を進めている。

 心臓や脳、肝臓などは人間の生命を維持する上で重要な臓器で、その治療は再生医療の本命ともいえる。大阪大による臨床研究の成否は、再生医療の将来の普及に向けた試金石になりそうだ。(伊藤壽一郎)

最終更新:5/17(木) 8:50
産経新聞