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[大弦小弦]100年前の報告書が色あせることなく迫る…

5/18(金) 8:20配信

沖縄タイムス

 100年前の報告書が色あせることなく迫る。「この国に生まれた不幸」はなぜ変わらないのか

【写真】沖縄に残る私宅監置跡。中は暗く、頑丈な鉄の扉が付いていた

▼完成試写会で見た66分のドキュメンタリー映画「夜明け前」は、いや応なく私たちに問いを突き付ける

▼東大医学部教授だった呉秀三は、精神疾患のある人々が自宅の檻(おり)などに隔離された私宅監置の実態を調べ、1918年に報告書をまとめた。「わが邦十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸の他に、この邦に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」。有名な一節もそこにある

▼教え子の証言や欧州留学先の現地取材などを通して、精神障がい者の救済に生涯をささげた呉の人間像が浮かび上がる。撮影班は座敷牢(ろう)の跡が残る沖縄でもロケを考えたが、米軍統治下で私宅監置が本土復帰まで続いた歴史や、遺構を所有する遺族の複雑な心情に接し、勉強不足を感じて撮影を控えた

▼最近でも、精神疾患のあるわが子を自宅の小部屋に監禁したとして大阪や兵庫で刑事事件になった。変わらぬ現実の根底に流れるのは、人に優劣をつける優生思想か、それとも、効率性や生産性がもてはやされる現代社会のひずみか

▼有名な一節には続きがある。「精神病者の救済・保護は(略)わが国目下の急務と謂(い)わざるべからず」。焦眉の急と言われて1世紀。夜明けはいつ訪れるのか。(西江昭吾)

最終更新:5/18(金) 8:25
沖縄タイムス