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【ライブレポート】クレイドル・オブ・フィルス、まさに神業、悪魔業

5/21(月) 18:31配信

BARKS

イギリスが誇るブラック・メタル界のスーパースター、クレイドル・オブ・フィルスの来日公演に行ってきた。昨年の<ラウドパーク>から約半年での再来日というのも驚きだが、単独公演はいつ以来だっけと思って調べてみると、前回は何と2001年、17年も前ではないか。となると、若いクレイドル・ファンの中には、前回来日時にはまだ生まれていなかったなんていう人もいるのかもしれない。

◆クレイドル・オブ・フィルス映像&画像

場所は東京恵比寿のリキッド・ルーム。半年前に来たばかり、しかもゴールデンウィークの谷間の平日。にもかかわらず、開演前にすでに会場はブラック・メタル・ファンでギッシリ。さすが、根強いファン層を持つクレイドル・オブ・フィルスである。映画『オーメン』のテーマ「Ave Satani」が流れ、メンバーが続々とステージに現れる。当然大歓声で応えるオーディエンス。オープニング・ナンバーは、<ラウドパーク>のときと同じ、2004年の6枚目のアルバム『Nymphetamine』の「Gilded Cunt」だ。ちなみに『Nymphetamine』というアルバムは、これまでに100万枚近いセールスを記録しており、バンド史上最大のヒット作である。2曲目もラウドパークのときと同じく「Beneath the Howling Stars」。1998年のサード・アルバム『Cruelty and the Beast』からの楽曲だ。まあとにかくダニのヴォーカルが凄いこと。いわゆるホイッスル・スクリームを連発したかと思うと、低音域では仮声帯を鳴らしまくってドスをきかせる。通常声というのは年齢とともに出にくくなっていくものだと思うのだが、ダニに関してはまったくの逆を行っているのだから凄い。MCでは「今日はゴジラ、ラドン、モスラもゲストリストに入れておいたのだけど」なんていう、いまいち日本人にはピンと来ないブリティッシュ・ジョークも織り交ぜる。ソプラノ・ヴォーカルが美しい「Blackest Magick in Practice」、わざわざ私に捧げて頂いた「Heartbreak and Séance」と、7分クラスの複雑な展開を持つ楽曲を連発したところで、とどめの「Bathory Aria」。リリース20周年記念となる『Cruelty and the Beast』収録のこの曲は、3部からなる11分にも及ぶ大曲だ。

それにしてもやたらとぐるぐる回っているギターが目を引く。数回転ではない。10回も20回も、それも相当のスピードでぐるぐると回ってみせているのだが、ほんのちょっともふらつく様子を見せないのだ。彼の三半規管はどうなっているのだろう。その後も1996年のセカンド・アルバムのタイトル曲「Dusk and Her Embrace」、ジル・ド・レに捧げる「The Death of Love」、昨年リリースのニュー・アルバム『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』から「You Will Know the Lion by His Claw」と披露されたところで前半終了。すでに1時間が経過しているが、演奏された楽曲は8曲のみ。単純に平均すれば、1曲7分強ということになる。しかしクレイドル・オブ・フィルスのような、映画的要素、物語的要素が強いバンドの場合、必然的に曲は長くなる傾向にあるのだろう。ストーリーを伝える歌詞的にも、雰囲気を作り上げる音楽的にも、ある程度の長さがないと、その世界観に没入できないからである。それにしてもダニのヴォーカリスト、そしてストーリー・テラーとしての力量の高さには驚かされる。彼は一体何通りの発声ができるのだろう?

イギリスには、Hell→Sabbat→クレイドル・オブ・フィルスという、ストーリー・テリングを軸としたエクストリーム・メタルの伝統がある。さすがハマー・ホラーを生み出した国だ。Hellは1982年結成の、もともとはNWOBHMに属するバンド。ギター、ヴォーカル担当のDave Hallidayが1987年に自殺、Hellも一旦はその活動の幕を閉じたという悲劇のバンドだが、今をときめくあのアンディ・スニープにギターを教えたのが、Dave Hallidayなのだ。このHellのストーリー・テリング的要素を見事に継承してみせたのが、そのアンディ・スニープがギターを弾いていたスラッシュ・メタル・バンド、Sabbat。Sabbatの音楽性は、スラッシュ版Hellと言っても良いほど。そしてそのSabbatのヴォーカリストMartin Walkyierのヴォーカル・スタイルを継承したのが、ダニ・フィルスというわけなのだ。ちなみにHellはアンディ・スニープがギタリストとして加入し、2008年に復活。これまでに『Human Remains』と『Curse and Chapter』という素晴らしいアルバムを2枚リリースしている。で、ご存じのとおりアンディ・スニープは、クレイドル・オブ・フィルスのプロデュースもやっているわけだから、この3バンドにはとてつもなく太い絆が存在しているのだ。2001年の来日公演を見たときに、ダニの歌い方がMartin Walkyierそっくりだったので驚いたことを覚えている。だが今回は、ところどころMartinっぽいなという部分はあったにせよ、彼のヴォーカル・スタイルははるか別次元の高みに達しているという印象を受けた。いくつもの声色を使い分け、しかもそのどれか1つだけをとっても、簡単にはできない発声方法。HellやSabbatの世界観を踏襲しつつも、ダニはまったく新しいストーリー・テリングのテクニックを開発してみせたのだ。

ライヴ後半は、「The Promise of Fever」でスタート。一度舞台裏に引っ込んでから出てきたダニは、おなじみの鎧(?)を脱ぎ捨て、軽装になっていた。さすがに暑かったのだろうか。続く「Nymphetamine(Fix)」、「Her Ghost in the Fog」は、どちらもイントロから大歓声が巻き起こる。「Born in a Burial Gown」は、とにかくブラストビートが凄まじい。気付けばラストの「From the Cradle to Enslave」。90分はあっという間に過ぎ去ってしまった。

今回は2017年リリースの最新アルバム『クリプトリアナ~腐蝕への誘惑』に伴うツアーとのことだったが、蓋を開けてみれば新作から演奏されたのは2曲のみ。初期から最新作まで、各アルバムから1~2曲ずつという、彼らの長いキャリアを一望できる選曲であった。それにしてもダニは一体どんな喉をしているのだろう。一切セーブしている気配のない、あんな叫び声を出しまくっていたら、ライヴ後半にまったく声が出なくなってしまっても何ら不思議はない。ところが彼はせいぜいMCで多少声がかすれる程度。しかもツアー中、連日あの声で叫び続けているのである。とても人間ワザとは思えない、まさに神業、悪魔業である。

【メンバー】
ダニ・フィルス(ヴォーカル)
リチャード・ショウ(ギター)
マレク “アショク” シュメルダ(ギター)
マーティン “マルテュス” スカロウプカ(ドラムス/キーボード/オーケストレーション)
ダニエル・ファース(ベース)
リンゼイ・スクールクラフト(女性ヴォイス)

文:川嶋未来 / SIGH
写真:Mikio Ariga

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最終更新:5/21(月) 18:31
BARKS