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【木内前日銀政策委員の経済コラム(15)】 日銀は2%物価目標を修正せよ

5/23(水) 14:05配信

ニュースソクラ

達成時期削除の次にすべきこと

 いまさらと思われるだろうが、日本銀行が新執行部体制のもとで4月下旬に開いた金融政策決定会合について振り返ってみたい。

 大方の予想通りに、金融政策の変更は実施されなかった。他方でやや驚きであったのは、会合後に公表された展望レポートのなかで、前回1月分では「2019年度頃」としていた、消費者物価上昇率が2%程度に達する時期(以下では「達成時期」)の見通しに関する文言が、削除されたことだ。

 これは、2%の物価目標達成が相当難しいと日本銀行、あるいは黒田総裁が実際には考えているということ、つまり自信のなさを裏付けるものだろう。またそのもとで、2期目に入っても達成時期の見通しを先送りし続けることから予想される、外部からの強い批判を多少とも和らげる意図がある。

 しかし、消費者物価の年度ごとの予測値は今後も公表を続けることから、「達成時期」の見通しが事実上先送りされたことは、その予測値から容易に類推されてしまうだろう。

総括的検証で達成時期の見通し先送りと追加緩和措置を切り離す

 2013年4月に量的・質的金融緩和が導入された際には、2%の物価目標を、2年程度を念頭に達成を目指すとされた。その後、展望レポートで達成時期の見通しが、毎回示されるようになった。しかし実際に物価上昇率が2%に達することはなく、黒田体制1期中に、達成時期の見通しは合計で6回も先送りされた。

 当初は、達成時期の見通しを先送りすることで、2%の物価目標達成に向けた日本銀行の強い意思に疑念が生じることを避けるという理由で、追加緩和措置が合わせてとられていた。また金融市場も、達成時期の見通しが先送りされるタイミングで、追加緩和措置がとられるとの観測を強めていったのである。

 そのため、日本銀行が追加緩和措置を見送ると、予想を裏切られた金融市場が悪く反応し、金融市場が不安定化する、という事態も生じていた。

 そこで、2%の物価目標の達成が当初考えたよりも難しいことを正直に認め、達成時期の見通しを先送りしても、それに合わせて自動的に追加措置を実施するようなことはしない、という意思を市場に暗に示したのが、2016年9月の総括的検証であった。

 このことは、日本銀行が追加緩和の効果が実際には限られること、追加緩和による副作用の拡大を実際には警戒したこと、を示すものであったと言えよう。それ以降日本銀行は、「物価上昇のモメンタムは維持されている」という決まり文句を繰り返すことで、達成時期の見通しが先送りされるもとでも追加緩和を見送ることの口実としてきた。

達成時期の見通しは遅くても10月には事実上先送り

 従って、先行き、2019年度の物価見通しが現在の+1.8%から大きく下方修正され、達成時期の見通しが2020年度へと事実上先送りされても、それに合わせて追加緩和措置が実施されることはないだろう。既に見たように、黒田体制1期目の5年間で、先送りは6回も行われたが、これは1年弱に1回の頻度である。

 前回先送りされたのは2017年7月の展望レポートであったことから、次回の今年7月分では、2019年度の消費者物価の予測値が+1.8%から大きく下方修正され、達成時期の見通しが事実上先送りされる可能性はあるだろう。

 ただし、足もとで原油価格が上昇していること等から、その時期は今年10月分の展望レポートとなる可能性の方が大きい。

 2期目の黒田体制のもとで再び達成時期が事実上先送りされることは、市場や国民の間でかなりの失望を生じさせ、日本銀行の政策運営に対する批判が一層強まるきっかけとなることも考えられる。

 この点を踏まえれば、達成時期の見通しを次に事実上先送りする時こそ、2%の物価目標達成を短期間で目指すという現実味を欠く方針を修正、柔軟化し、金融政策の正常化へと道を開く絶好のチャンスでもある。実際、2%の物価目標の柔軟化に向けた市場との対話を、そのタイミングで始めるべきであるし、その可能性はあると思う。

 またその際、現在の政権がより弱体化している、あるいは政権が交代されている場合には、日本銀行の金融政策運営の自由度は高まり、2%の物価目標を柔軟化していくことは、より容易になるのではないか。

 【編集部からの注記】木内氏はプロフィールにあるとおり、黒田氏が総裁に就任する約半年前の2012年7月に日銀政策委員会の審議委員に就任し、2017年7月まで務めた。その間、一貫して「2%のインフレ目標達成は困難だ」として、実現可能なレベルとするよう主張していた。

木内氏の近著
1)『金融政策の全論点: 日銀審議委員5年間の記録』(東洋経済新報社、2月16日出版)。
2)日銀の金融政策についての見解をまとめた『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社、2017年11月17日出版。

■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

最終更新:5/23(水) 14:05
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