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『あなたには帰る家がある』に見る“演者バトル”ドラマの妙 

5/25(金) 8:40配信

オリコン

 現在放送中のドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系)。“豪華キャストがお送りする大人のドラマ”と銘打っているが、その冠自体はよく聞く宣伝文句。だがSNSに目を向けると実際に俳優陣の凄まじい演技が大きな話題となっており、「鳥肌がえぐい」「怪演が冴え渡りすぎて震える」など芝居を称賛する声が多数挙がっている。昨今はドラマ、映画ともに監督や脚本家の名前が先行することが多くなっているが、役者の名前を前面に押し出すことが本懐だったはず。同作は、久しぶりに演出や脚本の妙とは別枠で盛り上がれる“演技で楽しむドラマ”のようだ。

【写真】主演の中谷美紀、特別試写会に華やかな赤いドレス姿で登場


■危険水域ギリギリにまでドロドロ感漂う、四つ巴の“演者バトル”から目が離せない

 同作で四つ巴の“演者バトル”を繰り広げているのが、主演の中谷美紀、玉木宏、ユースケ・サンタマリア、木村多江だ。設定自体は“ドロドロの不倫ドラマ”として王道かつ“ベタ”なのだが物語は回を重ねるごとに過激に。そんななかにも、どの家庭でも起こりうる夫婦の危機もリアルに描かれており、それらバランスを主演4人が支え、さらには類稀なる演技力で“ドロドロ”を致死量ギリギリの危険水域にまで高めている。

 佐藤真弓(中谷美紀)と夫・秀明(玉木宏)は、どこにでもいる平凡な夫婦。そんなある日、秀明が務める住宅販売会社に、茄子田太郎(ユースケ・サンタマリア)と妻・綾子(木村多江)が家を買いに訪れる。モンスター夫・太郎の言葉の暴力に耐え忍ぶいじらしい綾子。秀明は綾子への同情から、綾子は寂しさから、ホテルで男女の関係を。しかもそれは真弓と秀明の結婚記念日だった。

 やがてその逢瀬は真弓の知るところとなる。許しを請う秀明と、もう一度家族で暮らすことを決める真弓。しかし綾子は秀明に執着し、不倫をにおわせて真弓にマウンティング。綾子の不貞を知った太郎は佐藤家を壊すためにストレートな攻撃を開始する。また、綾子は真弓と秀明の娘・麗奈(桜田ひより)に近づき、“インスタ映え”ツーショット写真を撮影するなど画策を始めるなど、正体を現す…。彼女は女性が最も忌み嫌う“生来の魔性の女”、男からすると“最も手を出してはいけない女”。太郎だけでなく、綾子もまたモンスターだったのだ。


■フィクションの“嘘”を昇華し、観るものを恐怖に陥れる4人の演技

 「本作が凡百の不倫ドラマで終わらないのは、登場人物それぞれの人間らしさもしっかりと描かれているから」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「そしてなにより、主演陣の芝居によって、フィクションの“嘘”をカモフラージュし、“嘘”を最大限楽しめるまでに昇華していることが大きい」(同氏)

 佐藤夫妻(玉木&中谷)2人のシーンではホームコメディのように演じられていることが多い。だが茄子田夫婦(ユースケ&木村)が絡んでくると物語は一気にホラーと化す。その恐怖の一端を担うユースケは、妻・綾子にいちいち「いい生活ができるのは誰のおかげだ?」と聞いてくるモンスター夫を怪演。裏表あり、セクハラあり、モラハラあり。『火の粉』(フジテレビ系)のストーカー男でも見せた気持ち悪さを存分に発揮し、見る人に嫌悪感を覚えさせることに成功している。

 木村も哀しきサイコ妻を強烈に演じている。初回はSNS上で「薄幸美人役がハマっている」などのコメントが多く見られたが、綾子の執着ぶりが明らかになるにつれ、「これ、絶対に手を出しちゃいけないやつ」「ガチ鳥肌」などその異常性に震え上がったとする声が増加。その茄子田夫婦を全力で受け止める中谷の真っ直ぐかつ繊細な演技も言うに及ばず。『ケイゾク』(TBS系)や『ゴーストライター』(フジテレビ系)など、これまでのキャリアに裏付けもされた天才的芝居で、視聴者の気持ちを代弁している。玉木は、『残念な夫』(フジ)などで見せた男の情けなさ、脆さを今回も見せる。鬼気迫る上記3人の芝居へのリアクションも、ともすればギャグとなりそうなものだが、しっかり恐怖へと視聴者を誘導している。

 「SNS上でも“2組の夫婦の演技合戦がやばい”“演技がうますぎて(共感しすぎて)イライラ”“茄子田夫婦の演技が恐怖すぎる”など、演技についての声が最多。監督や脚本など、スタッフが話題に上ることが多い昨今、これほどまで役者の芝居にスポットが当たるのは最近では珍しいことでは」(衣輪氏)


■“演技で楽しむドラマ”は、業界全体の勢いを取り戻す起爆剤にもなり得る

 “演技で楽しむドラマ”も過去にはたくさんあった。直近では『半沢直樹』(TBS系)。信念を曲げない男・半沢(堺雅人)と迎え撃つ大和田(香川照之)の演技合戦は、今も語り草だ。社会現象ともなった“土下座シーン”はもちろん、半沢のうすら笑いには背筋が凍ったし、大和田が荒ぶるシーンはネタの定番としてキャプチャー画像を、今もネットで目にすることができる。

 このほか『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)の浅野温子、武田鉄矢。『ずっとあなたが好きだった』(TBS系)の冬彦さん(佐野史郎)。『ファーストクラス』(フジテレビ系)の沢尻エリカや菜々緒をはじめとする共演者の悪女ぶり、映画では『デスノート』『カイジ』の藤原竜也。同じく『デスノート』では松山ケンイチも。『愛のむきだし』満島ひかり、『告白』松たか子の怪演もそう。「枚挙に暇がありません。ポイントは“パロディになりやすい”“ものまねしたくなる”で、実際に上記の芝居はものまねされることが多い。そのインパクトは、見れば即座にどの作品のどのシーンか思い出すことができるほどです」と衣輪氏。

 「演者だけでも作品たりうるものは、その化学反応で制作者の意図を超えて名作になることがしばしば。銀幕の時代から演者とスタッフが化学反応を起こすのは制作者が意図するところであり当然とされてきた。プロデューサーと談笑していると、現在のドラマ現場でもそれを狙ってはいるようなのですが、ドラマ不振の時代と言われるせいか、俳優・スタッフとも冒険しづらい状況にあるように感じます。そんななか“あな家”は挑戦的であり、今話題になっているからこそ、業界全体の勢いを取り戻すためさらなる秀逸なお芝居を期待したいところ。俳優の演技次第で、作品は何倍にも面白くすることが可能なんです」(同氏)

 スタッフも重要だが彼らはあくまでも裏方であり表に立つのは役者。役者の演技を楽しむ作品が今後、ますます活性化していくことを望みたい。

(文/中野ナガ)

最終更新:5/28(月) 17:25
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