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【木内前日銀政策委員の経済コラム(16)】 日銀の政策正常化での円高に、日本は耐えられる

5/25(金) 13:08配信

ニュースソクラ

米国からの円高圧力強まる恐れも

 米財務省が先月公表した為替報告書では、日本の実質実効円レートは過去20年間の平均値から25%近くも円安水準にあること、名目円レートは2013年前半から歴史的な平均値を下回っていること、が指摘されている。

 こうした記述から、米政府は、2013年4月の日本銀行の量的・質的金融緩和導入以降、円の価値が大幅に下落したとの認識を持っていることが窺い知れる。

 円の実質実効レートとは、各通貨と日本円との間の為替レートを両国の物価指数の比率の変化で調整したうえで、さらに貿易額で加重平均して算出したものだ。これは日本の国際競争力を測る指標の一つと考えられる。

 日本銀行自身もBIS(国際決済銀行)の統計に基づいて、円の実質実効レートを公表している。それによれば、現在の水準は、米財務省の為替報告書の指摘と同様に、変動相場制移行後の歴史的平均値をちょうど25%下回っている。

 この先円安がさらに進む局面や、日米貿易摩擦問題が激化する局面などでは、米政府は、日本銀行の金融政策が事実上の為替操作であるとの批判を始め、円安牽制あるいは円高誘導をしかけてくる可能性も考えられる。その場合、日本銀行による金融政策の正常化に向けた動きが、より促されることもあり得るだろう。

 ところで、日本銀行がこの先、金融政策の正常化を進める過程では、為替市場で円高傾向が強まる可能性は否定できない。2014年後半から2015年にかけてドル高傾向が強まり、また昨年はユーロ高傾向が強まったが、いずれも金融政策正常化への期待が影響している。

 主要中央銀行が金融政策正常化に踏み出す初期段階では、自国通貨高が生じやすいのだろう。日本銀行が正常化策を進める、あるいはその可能性が市場で意識される局面では、同様に円高傾向が一時的に強まる可能性は十分にありそうだ。

 円高が進行する過程では、輸出に与える影響を懸念する声が企業、政府から高まりやすい。しかし現在の円の実質実効レートは、歴史的平均値を25%も下回っているのである。日本企業の国際競争力が顕著に低下して、輸出や景気全体に深刻な悪影響を与える水準までには、まだかなりの距離がある。

 円の実質実効レートの現在の水準と歴史的平均値との乖離から概算すると、経済に中立的なドル円レートの水準は80円台前半となる。当然ながら、自ら統計を公表している日本銀行はこのことを認識している。

 急速に進む円高は、株価下落など金融市場の安定を損ねることから、日本銀行は急速な円高が生じることを回避しつつ、慎重に正常化のプロセスを進めていくことを強いられるだろう。

 それでも日本銀行が、実体経済への深刻な悪影響を生じさせることなく正常化を進めることができる余地は、為替水準の観点からはかなり大きいのである。

木内氏の近著

1)『金融政策の全論点: 日銀審議委員5年間の記録』(東洋経済新報社、2月16日出版)。
2)日銀の金融政策についての見解をまとめた『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社、2017年11月17日出版。

■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

最終更新:5/25(金) 13:08
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