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トランプのバラマキによる「悪い金利上昇」を抑えられるか

5/28(月) 17:04配信

ニュースソクラ

FRBの利上げ方針に市場はやっと同調

  最近の米国金融市場の動きをみると、連邦準備制度理事会(FRB)が利上げへの強い決意を示す情報発信にようやく市場の方が追いついた感がある。

 債券市場では米国債10年物がようやく一時3%の大台に乗せ、為替相場も対円で一時110円台に戻すなどドル高方向に動き出した。 市場ではFRBのパウエル議長の発言やFOMC議事録などで明らかにされた「タカ派」的な金融政策運営スタンスに対して、「物価・賃金が上がりそうもないので、FRBは利上げに慎重にならざるを得ない」とタカをくくっていた節がある。

 しかし、第一四半期の民間部門勤労者の賃金が前年比2.9%とほぼ10年ぶりの高水準となったことや失業率(4月)も3.9%と17年ぶりの3%台まで低下したことをきっかけに市場の見方も次第にFRBの見方に近づいてきた。

 市場筋の間でも、インフレ率が2%に戻る経路にあり、政策金利(FFレート)の適切なパスは従来予想していたより若干強いとの見方が勢いを増してきた。FRBの利上げペースは年内3回でなく4回との見方が強まっている。

 FRBの利上げ加速観測をもたらしたのは、トランプ政権の財政政策が過剰に米国景気を刺激すること、それに伴う金融面の行過ぎ(financial excess)是正の必要性が高まっていることにもある。

 すなわち、米国経済がほぼ完全雇用を達成したなかで、トランプ大統領による10年間で1.5兆ドルに及ぶ大型減税や同1兆ドル規模のインフラ投資拡大が景気過熱に結び付くおそれが意識されつつある。

 ちなみに議会予算局(CBO)では、今年第4四半期の実質成長率は潜在成長率を大きく超える3.3%と予測している。2021年の政策金利はFRBの見通しである2.9%から3%以上(CBOでは4%を予測)に達する確率が高まっている。

 米国の株価はグーグル、アマゾンなどのテック企業の業績拡大から上伸を続けてきたものの、株価収益率などの指標面からみて割高感が強まっている。

 信用・貸出市場をみても、米国企業は長らく続いた超金融緩和のなかでエネルギー、不動産業などを中心に債務残高が膨らんでいる。株式トレーダーや不動産仲介業者は反対であろうが、こうした局面では利上げを通ずるユーフォリアへの牽制が不可欠であろう。

 グリーンスパン元FRB議長が「債券バブル」と指摘した債券相場では、短期債への売りが始まっている。すなわち、金融政策の動向をビビッドに反映する2年物国債金利は、2.5%程度と16年夏の0.5%程度から急速に上昇(価格は下落)してきた。

 最近ではまだマイルドな動きながら10年物国債もほぼ7年ぶりに3%の大台に乗せた。市場が次第にFRBの見方に同調を示してきた証左である。

 最後に市場ではやや軽視されている財政資金の調達と金融政策運営の関係について触れてみたい。米国では大型減税を通じる「トランプ景気」につながっている反面で、今後予想される米国財政赤字の未曽有の拡大による長期金利の大幅上昇が織り込まれていない、と批判する識者が多い。

 米国の今年度の連邦財政赤字は完全雇用経済の下では異例のGDP比5%に達する。議会予算局(CBO)によれば、2020年には米国債の発行残高のGDP比は100%を超える。この水準は軍事費調達で国債発行がかさんだ第2次大戦直後の1946年以来の高水準である。

 連邦債の累増から利払い費も2024年には国防支出をも上回ると見られる。利払い費はその後も増加を続けて、2028年にはGDP比3.1%と2018年の2倍の水準となる見通しである。

 さらに悪いことには、ベビーブーマー世代の引退とともに労働力人口の伸び率が低下する。米国の潜在成長率は2018年から10年間の平均で1.9%とリーマンショック前(1981年~2007年平均3.1%)を大きく下回るとみられる。

 トランプ大統領は、高い経済成長で税収を増やして財政赤字は増やさない、と楽観しているが、財政資金の大量調達により民間設備資金がクラウドアウトされて、一段の金利上昇を招く恐れが強い。

 そもそも、財政赤字の拡大は国内貯蓄の減少につながり、経常収支の赤字とあわせた「双子の赤字」をファイナンスするため、海外借り入れが増大していくことになる。基軸通貨国でいくらでもドル紙幣を印刷できる特権があるとはいえ、通貨の信認を維持する観点からおのずと限界がある。

 FRBは当面は景気の過熱を抑えるために、インフレなき持続的成長につながるように景気拡大に見合った均衡金利水準まで金利を引き上げる「良い金利上昇」を目指している。しかし、FRBは中長期的には無節操な財政刺激策のツケともいえる「悪い金利上昇」を抑えていかねばならない。

 FRBは第二次大戦中、軍事費調達のために大量発行された長期債の価格支持を狙った長期債買い入れを停止するという「アコード」を財務省との間で成立させた。これにより確立した戦後の金融政策正常化が再び崩れるようなことになってはならない。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:5/28(月) 17:04
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