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やまゆり園入所者が地域生活 事件後の意向確認で初

6/1(金) 5:30配信

カナロコ by 神奈川新聞

【時代の正体取材班=成田 洋樹】2016年7月に19人が刺殺される事件があった県立障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)の入所者1人が31日、家庭での暮らしに近いグループホーム(GH)での生活を始めた。県によると、施設を出て少人数のGHなどで暮らす「地域生活移行」は、県が事件後に入所者の意向を確認する機会を設けてから初めて。

 同日、横浜市港南区にある同園の仮移転先「芹が谷園舎」から横浜市内のGHに移り住んだのは、平野和己(かずき)さん(28)。重度の知的障害があり、支援の必要度を示す「支援区分」は最重度の6。10歳から14年間にわたって県内の障害児施設で暮らし、14年6月から同園に入所していた。

 GHを運営するのは、社会福祉法人「同愛会」(同市保土ケ谷区)。同市内のGHでのやまゆり園入所者受け入れに名乗りを上げていた障害者施設団体「横浜知的障害関連施設協議会」に所属している。運営する入所施設を最期まで暮らす「ついのすみか」とはしない方針で、重度障害者の地域移行に力を入れている。

 平野さんは昨年11月から12月にかけて、同愛会の入所施設で宿泊しながら通所施設で軽作業を行う生活を計10日間体験。ことし2月と3月にはGH生活を計8日間送るなど、地域での生活体験を重ねてきた。今後、日中は同愛会が運営する通所施設で軽作業を行う。

 この日、父の泰史さん(67)=相模原市中央区=は「入所施設では自由な暮らしを送ることは難しく、施設を出て息子も心なしかうれしそうに見える。手探りのGH生活では楽しいこともつらいこともあるかもしれないが、見守りたい」と目を細めた。地域生活を支援する同愛会関係者は「どんなに重度の障害があっても地域で暮らせるということを示していきたい」と話した。一方、やまゆり園の入倉かおる園長は「利用者の気持ちを丁寧にくみ取りながら意思決定支援を引き続き行っていきたい」としている。

 やまゆり園入所者が望む暮らしの場についての意向確認を巡っては、当事者と家族、園職員、相談支援専門員らが話し合う「意思決定支援検討会議」が昨年12月から県主導で個別に開かれている。県によると、事件当時の入所者126人のうち13人については立ち上げ済みで、意向確認を続けている。残りの113人については19年度までに順次開催する予定。

◆「これ、僕のうちだよ」 地域生活へ第一歩
 津久井やまゆり園に入所していた平野和己(かずき)さん(28)が31日、グループホーム(GH)での生活を始めた。タンスと布団を量販店で買い求め、6月1日から日中通う施設に立ち寄り「よろしくお願いします」と仲間たちにあいさつ。地域生活への第一歩を刻んだ。

 「これ、僕のうちだよ」。支援者から示されたGHの写真に、平野さんが答えた。全国的に重度知的障害者の地域移行は障害の重さや支援の担い手不足などを理由に進んでいない。そんな中でGHでの生活を始めたことは、現状に風穴をあける大きな一歩だ。

 平野さんを支援する社会福祉法人「同愛会」が26年前から横浜市内で運営する入所施設からはこれまで250人が地域生活に移行し、9割近くが「障害支援区分5、6」の重度障害者という。「重度の障害があっても街中で自由に暮らせるようにさまざまな立場の人が支えることこそ、障害者の存在を殺傷という形で否定したあの事件を乗り越えていくことにつながるのではないか」。GHでの受け入れに奔走した同愛会関係者の問い掛けは、事件発生から2年を前にして惨劇の記憶の風化が急速に進むこの社会に突き付けられているものだ。

 住まいの場を巡り、やまゆり園入所者の意向確認は手探りで進められている。地域で生活するのか、園で暮らすのか。どちらが選ばれても、家族らをサポートしながら障害当事者の視点に立った支援が求められていることに変わりはない。