ここから本文です

患者の自殺は、残された人たちの心を壊す

6/3(日) 13:02配信

BuzzFeed Japan

(この話に登場する人物にモデルはいますが、仮名を使うなどご本人とわからないように詳細は変えて書いています)

「きゃー」

ある日の午後、いつも静寂で包まれているホスピスの病室から、二人の叫び声が聞こえました。廊下には明るい日差しが差し込み、いつも通り明るくそして変わらない風景でした。丁度私も病棟にいたので、直ぐに声の聞こえた病室に駆けつけました。

一目で何が起きているかを理解しました。そして、「ああ、自分もついにこの体験をする日が来たのだ」と悟りました。

その部屋に2週間前から入院していたケンさんは、興奮した口調で、「自分で病気を治すために、自分で腹を切った」と私に告げました。その傍らでは、ケンさんのパートナーのミワさんと、看護師のオオノさんが、青ざめた顔で立ち尽くしていました。

ケンさんは、いつも通りミワさんが付き添い、昼食後におやつとしてリンゴを食べるために、ナイフで皮むきをしていたのです。その最中に、前触れもなくミワさんとオオノさんの目の前で、ナイフを自分の肝臓に向けて突き刺したのです。

肝臓には幾つものがんがあり、ケンさんは、そのがんのために残りわずかとなった時間を過ごすためにホスピスに入院していました。
【寄稿:新城拓也・在宅緩和ケア医 / BuzzFeed Japan Medical】

凄惨な状況で冷静に対処

私は、現場の状況に圧倒されながらも、妙に冷静になりました。若い時に、脳外科医として修行をしたため、白衣を着ていると、どんな凄惨な状況であっても、冷静に頭が動く能力が身についているのです。

今までも交通事故、自殺、転落事故のために救急車で運ばれた患者を何度も診察し、処置してきました。原形をとどめないほど破壊された肉体を目の前にすると、最初は動揺しますが、直ぐに職業的な本能の目が開き、周囲に的確に指示を与えつつ、自分も手を動かし始めます。

この時もそうでした。オオノさんが既にナイフをその手から取り上げていましたが、青ざめて病室にへたり込んでいました。ミワさんは目の前で何が起きたのか分からないまま、「すみません、すみません」と私とオオノさんに謝り続けていました。

私はまず、ミワさんとオオノさんを部屋から外へ出しました。そして代わりの看護師を呼び、まず部屋にナイフのように自分を傷つけてしまうものがないかを確認するように指示しました。

1/5ページ

最終更新:6/3(日) 13:02
BuzzFeed Japan

あなたにおすすめの記事