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【木内前日銀政策委員の経済コラム(17)】 消費増税の反動減対策は必要ない

6/6(水) 13:00配信

ニュースソクラ

増税は金融政策正常化を妨げない

 2019年10月に予定される消費増税が国内経済に与える悪影響については、金融政策の行方を展望する観点からも、金融市場は大いに関心を寄せている。政府は消費増税後の反動減対策の議論を始め、住宅ローンと自動車関連の減税がその対策の柱となる模様だ。減税策の制度設計は年末までに詳細を詰めるが、6月にまとめる骨太の方針にその基本的な考えが盛り込まれる。

 さらに政府は、反動減対策として2019年度当初予算にも経済対策を盛り込む方向だ。この結果、予算規模は当初予算として初めて100兆円を超える可能性が高まっている。景気対策としては、消費増税後にしか使えない商品券の配布、省エネの家電や住宅などのエコポイント付与、などが検討されている模様だ。

 しかしこのような対策が本当に必要なのだろうか。消費増税後の反動減をちょうど相殺するように、政策で需要を作り出すことなどはまさに至難の業だ。政策効果が反動減に遅れて出れば有効な反動減対策とならない一方、政策効果が反動減よりも早く出れば、不要な需要を作り出すだけでなく反動減を増幅してしまう。さらに政策効果が出尽くす時点では、新たな需要の落ち込みを生じさせる。このように、消費増税後の反動減を打ち消して景気の振幅を小さくするどころか、逆に大きくしてしまう可能性が十分にある。政策効果が出尽くす時点で新たな需要の落ち込みを作り出してしまうことを防ぐためには、恒久的な対策とするのが有効となるが、その場合、消費増税による財政赤字削減効果を大きく損ねてしまう。

 2019年10月に消費税率は現行8%から10%へと引き上げられる予定で、それによる増収額は年間5.6兆円程度である。しかし軽減税率の導入と教育無償化といった恒久措置によって、このうち計2.4兆円程度が使われると見られる。残りの3兆円程度を財源として反動減対策が実施されれば、財政赤字削減効果は一層小さくなってしまう。これでは、何のための消費税率引き上げなのか、との疑問が生じるのは自然であろう。

 ところで日銀は、2019年10月の消費増税による家計の負担額を、2.2兆円と試算している。これは、1997年の消費税率引き上げ時の8.5兆円、2014年の8.0兆円と比較して格段に小さい。それは、1)税率の引き上げ幅が2%(8%から10%)と前回の3%よりも小さいこと、2)軽減税率導入など恒久的な措置が家計の所得負担減に寄与すること、によるものだ。

 政府が消費増税後の反動減対策にことさら注力するのは、2014年の消費増税が景気をかなり悪化させた、との認識に基づいたものだ。しかしこの点についても再検討が必要だろう。2014年度の実質GDP成長率は当初は-1.0%(実質個人消費は-3.1%)であったが、その後の統計改定を受けて現時点では-0.3%(同-2.5%)とマイナス幅はかなり縮小している。消費増税の景気への悪影響については、政府や国民はそれを過大に評価しているのではないか。

 日本銀行は、次回の消費増税が経済に与える悪影響を深刻には捉えておらず、そのため、金融政策を決める上でも消費増税をそれほど重視していないだろう。政府あるいは国民の懸念に配慮して、消費増税の直前、直後の政策変更は控えるとしても、消費増税がなされるがゆえに金融政策正常化に向けた動きが当分の間封じ込まれる、との見方は誤りであろう。日本銀行は今秋にも、正式な正常化策実施の前提条件となる、2%の物価安定目標の柔軟化に向けた市場との対話を始める可能性が考えられる。

■木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。

■木内氏の近著
1)『金融政策の全論点: 日銀審議委員5年間の記録』(東洋経済新報社、2月16日出版)。
2)日銀の金融政策についての見解をまとめた『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社、2017年11月17日出版。

最終更新:6/6(水) 13:00
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