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性犯罪の被害者名、被告が暴露 警告を無視、退廷命じられる 福岡地裁公判

6/8(金) 10:07配信

西日本新聞

 面識のない女性に乱暴しようとしたとして、強制性交未遂の罪に問われた住所不定、無職の男(45)の公判が7日、福岡地裁であった。公判の最後に意見を求められた男は、二次被害防止などのため、公にしないことが決められていた被害女性の名前を口にしたため、中田幹人裁判長から退廷を命じられた。男は前回の公判でも繰り返し名前を呼んでいた。

 男は1月22日夕、福岡市中央区で女性にはさみを突き付け「騒いだら殺す」などと脅して乱暴しようとしたとして起訴された。裁判では、被害者特定事項を秘匿する決定に従い、起訴状の朗読では記載されている被害者の名前を読み上げず男に黙読させて確認させたり、審理でも「被害者」などと呼称したりしていた。

懲役6年を求刑

 ところが、男は5月16日の被告人質問で突然、女性の名前を複数回叫ぶと、7日の最終意見陳述でも再び声に出した。弁護人によると、地裁から事前に警告を受けており、男に注意したが従わなかったという。

 検察側はこの日の論告で「全く反省しておらず再犯の危険性も高い」として懲役6年を求刑した。判決は7月11日。

起訴状に実名、割れる議論

 法廷で性犯罪被害者の名前を明らかにして被告人の男が退廷を命じられた。弁護人によると、男は起訴状で初めて被害者の名前を知ったという。起訴状の実名、匿名を巡っては被害者保護と被告が反論する権利の保障とで議論が割れている。

 刑事訴訟法は起訴状について、犯罪事実をできる限り特定して明示しなければならないと定める。原則に基づいて「実名記載がほとんど」(検察庁関係者)とされるが、性犯罪被害者が匿名になるケースはあり、最高裁も「匿名の起訴状を許容するかどうかは、事案に応じて各裁判官が判断すべきことで統一ルールはない」とする。

法曹三者や警察庁などで議論が続く

 元裁判官の陶山博生弁護士は「事件が特定されなければ、公正な裁判はできない。実名記載は不可欠」との立場。被告が同じ日に複数犯行しているような場合、匿名では事件を区別できず被告が反論できないという。その上で、被害者保護は「裁判所が被告に制裁を科すなど積極的な訴訟指揮をすることで被害者の人権も守ることができる」と強調する。

 一方、元検事で弁護士の吉沢徹岡山大法科大学院教授は匿名化を主張。名前の代わりに被害者の身長や被害時の服装などの特徴、生年月日を併記すれば事件特定は十分だと指摘。「実名記載は絶対に不可欠なケースに限定すべきだ」と語る。

 この問題を巡っては2016年の刑訴法改正の際も今後の検討課題とされており、法曹三者や警察庁などで議論が続く。吉沢教授は「被害者保護の観点に立って、柔軟な運用ができるよう法改正すべきだ」と訴える。

=2018/06/08付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞社

最終更新:6/8(金) 10:32
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