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クレディセゾン社長、「私が全員を正社員にしたわけ」

6/10(日) 15:01配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 林野宏クレディセゾン社長(1)

 クレジットカードなど金融関連の多様な事業を営むクレディセゾンは、常に新しいサービスを開拓して成長し続ける。昨年9月には、総合職、パートタイマーなどの社員区分を統一して、いわゆる全社員正社員化を実行した。創造的破壊に余念のない林野宏社長が、「サービス先端企業」を理念に掲げる同社の経営の神髄を語る。

 ――職務に限定のある「専門職社員」やパートタイマーの「メイト社員」など約2200人を、「総合職社員」約1600人と一本化して、すべて同一労働同一処遇の正社員にしたのは、政府が進める働き方改革を先取りしていますね。

 私は大学を出て西武百貨店の人事部に入りました。それが私の最初のキャリアで、旧西武流通グループを率いた堤清二さんの薫陶を直接受けるポジションでした。

 そんなこともあり、社会がいくら「平等」「平等」といっても、企業の中には身分制度があるというのが私の考え方で、いつか何とかしたいと思っていたのです。

 日本は最も平等な社会だと、ヨーロッパなんかに行くと言われます。しかし企業に入ってみると、単なる役職によるヒエラルキー(階層)ではなくて、身分制度があるわけです。

 男尊女卑に始まって、学閥や派閥でがんじがらめです。その中に、嘱託やパートタイマーなどのいわゆる非正規といわれる人たちがいる。メーカーには、ブルーカラーとか作業職とか、事実上、身分で差別する制度がビルトインされています。

 「正社員」というのがあるのなら、それ以外は「不正社員」とでも言うのですか。「非正規」とか、いろんな否定的な言葉をつけて、決められた通りのことしかやらせない。管理監督、指示命令で自由を奪うことが日本の人事制度の根幹をなしています。

 それに忠実な人が優秀な社員なんですか。バカげているじゃないですか。若いときが、能力が一番伸びて発揮したいのに、自分の意思を出すには課長か部長にならないと駄目です。

 民主主義、平等主義に反することを企業がやりながら、平気でいられる感覚を否定したいというのが私の根底にある哲学なんです。

 ――最初に人事の仕事に就いたときからなのですね。

 当時、人事制度の改善に努めました。出退勤のタイムカードをなくして、早く週休2日制をやろうとか、社員のための人事部を目指しました。

 現在、最も重要なのは格差社会の問題です。格差を生み出しているのは企業ではないですか。政治にも責任があるけど、経営者にも責任がかなりあると考えるべきです。

 史上最高益だとか内部留保が史上最高だとか言って、若い人たちの給料を上げない。若い人は、結婚できない、子供も産めない、その結果、結婚年齢が上がっていく。あらゆる意味で少子高齢化を加速する一端を企業が担っています。

 ――このタイミングで実行したのは、なぜですか。

 やっぱり機が熟してきたからですよ。私は経済同友会で一生懸命に活動しましたが、限界がありますね。同友会は個人参加ですから、自分の意見を活発に言えます。

 同友会で答申を一杯作りました。でも全然、効果が無い。「答申自殺」だと私は言っているんですよ。だから自分でやるしかない。ああいう団体を通じて、世の中を動かそうと思っても動かない。

 ――経営者としてできることは自分でやらなければと。

 それで誰かが真似してくれればいい。日本は模倣社会ですからね。早くやれば、ニュースになり、本来の意味での広報効果が期待できます。

 要するに、お客様である国民、市民の方から支持されるような施策を打って行くことが、企業として重要なのだろう。だから思い切って一歩踏み出したわけです。

 ――人件費は上がりますね。それで企業は非正社員の正社員化に慎重になるようですが。

 上がりますよ。当たり前じゃないですか。4%くらい人件費は上がったのではないかな。そんなことよりも、我々のビジネスではシステム投資の方がよっぽど多くのカネがかかります。

 私が社会に出たころは、会社がまさに経済の主役でした。会社が利益を上げて、それをなるべく公平に社員に分配する。私は人事部にいて、なるほどなと思いました。西武百貨店の池袋店が膨大な利益を上げて、それを社員に分けているんだとね。

 しかしだんだん組織が利益を上げるように変わってきた。事業部制のようなものをやって、儲けた組織の社員にボーナスを多く払う。組織ごとの生産性が重要になってきたわけです。

 そして今や個人とかチームが生産性を上げていく時代になりました。そのカギになるのはイノベーションです。日本では「技術革新」と言われて、長い間、理工系の人たちの仕事と思われてきましたが、実際は違います。

 私なんか、最初に西友でクレジットカードをサインレスで使えるようにしました。サインしなくていいというだけで、特別な技術は要りません。ためたポイントを無期限に消えなくしたのも、よそでは消えるのだから、これもイノベーションでしょう。

 こうしたイノベーションは誰がいつ思いつくかわかりません。「こうやった方がいいんじゃないですか」と言ってきたとき、「それいいいね。やろうよ」と、すぐに実行に移せる仕組みが必要です。

 だから変な身分制度はない方がいい。みんなが平等で、当社が「言論の自由を保証します」と行動指針にうたっているように、発言の自由が無いと、イノベーションは起こりにくくなるのです。

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:6/10(日) 15:01
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