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なぜNFC決済を導入? マクドナルドがモバイル戦略で目指すもの

6/12(火) 6:10配信

ITmedia Mobile

 読者の皆さんで、これまでマクドナルドを利用したことがないという人は少ないのではないか。世界中どこでも手頃な値段で期待された味を楽しめるマクドナルドは、海外出張の多い筆者にはなくてはならない存在で、決済まわりの記事では毎回といっていいほど取り上げる定番のお店でもある。最近では電子マネー、特に筆者が主力としているモバイルSuicaにも対応したことで、日本で行く機会も非常に多くなった。

マクドナルドの「見せるクーポン」

 気になるのは、同社のテクノロジーやモバイル戦略だ。

●マクドナルドが導入したNFC決済(NFC Pay)とは

 日本マクドナルドは3月13日に、直営とフランチャイズを含む全国約2900店舗でNFCを使った決済サービスの提供を開始した。NFC決済とは、日本で普及しているFeliCa技術を使った非接触決済サービスとは異なり、いわゆるType-A/B方式と呼ばれる海外で一般的な技術を用いた非接触決済サービスで、MastercardやVisaといった国際ブランドが提供する「EMV Contactless」と呼ばれるものだ。マクドナルドはこの2ブランドに加え、American ExpressとJCBの2ブランドにも対応している。

 ここでNFC決済導入の意味は大きく2つある。1つはモバイルや新技術への対応だ。マクドナルドでは既に日本国内のFeliCa系サービスとして、iD、楽天Edy、Waon、nanaco、QUICPay、そして各種交通系電子マネーに対応している。これらはおサイフケータイ対応端末や国内で発行されるクレジットカードをApple Payなどに登録したユーザーであれば問題ないが、多くの海外端末にとって利用可能な非接触決済サービスはType-A/B方式のEMV Contactlessに限られている。

 ゆえにNFC対応によるモバイル端末の取り込みは、キャッシュレスが進む世界事情を鑑みれば重要なものだ。今後はさらにリストバンドやスマートウォッチを使った決済なども登場することを考えれば、より決済の間口が広がる。実際、GPSウォッチを販売するGarminがVisaとの提携で5月に「Garmin Pay」を国内で開始している他、フィットネストラッカーのFitbitが2018年内にも日本で決済サービスを開始することを予告している。

 2つ目はインバウンド対応だ。日本国内では現在NFC決済を利用する方法が限られており、今回の対応で最も恩恵を受けるのは海外からの旅行客だ。例えば国策としてクレジットカードやデビットカードへのNFC機能搭載を推進したオーストラリアでは、同国のカード保持者の8~9割程度がNFC決済を利用可能な状態で、店舗での非接触対応が進んでいる。同様にカードを発行するイシュアのほとんどがNFC搭載を必須とした英国やフランスでも急速に非接触対応が進んでおり、2020年までには欧州圏で全ての決済端末が非接触対応を義務付けられていることもあり、そう遠くないタイミングでオーストラリアに近い普及度合いを見せるだろう。

 一方で日本国内では、Visaがイシュアが発行するカードのNFC対応を半強制化したことで、今後はVisaデビットなどを中心に対応カードが増えてくるとみられる。日本において、現時点ではAmerican Express、JCB、Mastercardのブランドが付いたカードをApple Payに登録することがNFC決済利用の一番の近道だが、今後は豪欧のように物理的なカードを使ったNFC決済が身近なものとなるかもしれない。いずれにせよ、外国人にとってFeliCaベースの日本独自のサービスではなく、普段使いの決済手段を使えるのは、利用する側と店舗の両方にとってメリットがある。

 今回は、このあたりの新しい決済とモバイル対応についてマクドナルドに質問し、最新状況を整理した。

●米国では同業他社と比較してもNFCへの取り組みが早かった

 NFC決済導入の狙いについて日本マクドナルド広報に尋ねたところ、「お客さまの利便性の向上のための取り組みの一環です。日本ではまだそれほど普及していませんが、今後の普及や海外からのお客さまの利便性を向上させるため導入しました。数値的な目標は設けておりませんが、多くのお客さまに利便性を実感していただければと考えております」との回答だった。

 インバウンドを主眼に、今後のNFC決済普及を見込んでの先行投資というスタンスだ。2020年の東京五輪開催に合わせ、公式スポンサーでもあるVisaは日本でのNFC決済環境整備に向けた取り組みを進めているが、まだ追いついていないというのが現状だ。

 日本での大規模チェーン導入事例は現時点ではマクドナルドが最初で、つい先日は流通大手のイオンが2020年3月までにグループ各社の10万台のPOSレジを“Visaタッチ”、つまりNFC対応にすることを発表したばかりだ。

 コンビニ大手のローソンも今年2018年秋以降に各店舗での新型POS入れ替えのタイミングに合わせてNFC決済に対応していく意向で、まずは大手チェーン店を中心にした対応となる。とはいえ、業界最大手の各社がNFC対応を表明するインパクトは大きく、マクドナルドを皮切りに、この動きは加速していくものとみられる。

 米国のマクドナルド店舗ではもともと百貨店のメイシーズ(Macy's)などと並んで2010年代初期から決済手段にNFCを導入しており、業界での取り組みが最も早い会社として知られていた。最近では欧州方面で広く導入が進んでいたEasy Orderと呼ばれるキオスク型注文端末の米国店舗への展開や、それに伴う注文会計と受け取りレーンの分離による店舗オペレーションの改善が進みつつある。

 キオスク型端末について、東京の大森駅北口店などに設置されていた端末は残念ながら実験は終了となり、現在では撤去されている。日本マクドナルド広報は、このテスト結果や今後の計画については公表できないとコメント。ただ、店舗改善戦略の一環として分かりやすくメニューを紹介できるよう「デジタルメニューボード」の導入を加速していくという。これはデジタルサイネージの一種で、カウンターや客席に設置される動的に変化するメニュー表として機能し、既に一部店舗で設置されていると同社では説明する。

●事前注文やデリバリー、モバイルアプリのサービスにも注力

 モバイルアプリを使った戦略にも注目したい。日本では公式アプリを使ったクーポンによる来店誘導戦略が好評で、昼時のラッシュ時などには行列で待っている間にスマートフォンを操作してクーポン画面を開いている客の姿をよく見かける。日本マクドナルド広報によれば、2017年12月末現在で公式アプリのダウンロード数は約4200万件で、クーポンを通じた商品選択の他、2017年10月以降に対応した「dポイントカード」「楽天ポイントカード」との連動で、よりお得感の高いものとなったという。

 なお、公式アプリのクーポンには「かざすクーポン」と「見せるクーポン」の2種類があるが、前者はおサイフケータイ搭載機種のみの対応となる。かざすクーポンでは事前に利用したクーポンを登録しておくことで、店頭のリーダー端末に“かざす”だけで注文ができる仕組みだ。見せるクーポンは画面を見せた後、飲み物を改めて注文する仕組みとなっている。

 いずれにせよ、端末で公式アプリを操作した時点で来店客は注文内容を決めており、並んでからメニューを見て悩むことはないだろう。これにより、来店客の待ち時間が縮小されるだけでなく、店舗全体の回転率も改善する。特にかざすクーポンの場合はカウンターでのクルーの作業がほとんどなくなるため、注文作業にかかる時間が非常に短くなる効果がある。

 この公式アプリは来店誘導と店頭での注文時間短縮の役割が大きいが、2017年春に米国での広域展開がスタートした「Mobile Ordering」サービスの場合、注文と決済をモバイルアプリ上で済ませてしまい、後はピックアップ方法(「“カーブサイド”と呼ばれる店舗横の駐車場」「ドライブスルー」「店舗カウンター」の3つのいずれか)を指定するだけだ。

 同時期には似たようなモバイル注文サービスをStarbucks Coffeeが開始しており、「モバイルアプリ内で決済」「店舗は商品受け取りのための窓口」という取り組みが小売業界やレストラン業界で大きな話題となった。日本マクドナルドによれば、国内では2018年内にもこのモバイル注文サービスのテストが始まるとのことで、マクドナルドを含むファストフード店舗の利用スタイルが近い将来変化するかもしれない。せっかく便利で高機能なモバイル端末が手元にあるのだから、誰もが嫌な待ち行列を事前注文で回避したいと考えるのは自然な流れだ。

 店舗での体験だけでなく、オンラインでの注文を経由したデリバリーサービスの利用も広がっている。日本マクドナルドでは2018年2月の決算発表で、今後の成長戦略の1つに「デリバリーへの注力」を挙げている。マックデリバリー(McDelivery)による特定エリアでの店舗からの配達の他、Uber Eatsとの提携による委託配達と、モバイルアプリを通じた注文配達サービスが利用できる。

 アプリからの注文は、ハンバーガー1個単位でも可能なので、1人でも比較的気軽に頼めるだろう。モバイルとデリバリーを組み合わせたサービスは特にアジア地域で急成長中だが、前述の最新テクノロジーを活用した店舗体験と合わせ、モバイルの仕組みを通じて、マクドナルドという店舗をさまざまな形で利用できるようになりつつあることが分かるはずだ。

●顧客との対話にソーシャルネットワークも活用

 近年、FacebookやTwitterなどソーシャルネットワーク系サービス利用の増加に伴い、顧客対応窓口としてこれらサービスのインタフェースを活用する企業が増えている。例えば、ユーザーの何気ない公開ツイートに対して反応してきたり、あるいはトラブル時などにチャットのインタフェースを開いて個別に対応したりといった具合だ。マーケティングとサポートの両面があり、手動とチャットボットを駆使して顧客満足度を高める狙いがある。

 Deloitteの調査報告によれば、ミレニアル世代、つまり若年層ほどソーシャルネットワーク系サービスの滞留時間が長い傾向があり、モバイル利用時間の3分の2程度をこうしたサービスの利用に費やしているという。つまり、効果的なキャンペーンの適用や顧客意見の適切な吸い上げにはソーシャルネットワークの仕組みの活用が必須となる。

 日本マクドナルド広報によれば、現在同社では顧客から直接意見を聞く場として「KODO」というアプリを、マーケティングツールとしてTwitterを活用しているという。また、[今年3月に実施されたハイアリングキャンペーンでは、LINEで公式アカウントを通じてアルバイトに応募できる仕組みを導入している。情報が拡散しやすく日本国内のユーザーが多いTwitter、それに若年層の利用人口の多いLINEをうまく活用することで、こうした業界トレンドを取り込んでいる。

 中でも興味深いのは「KODO」で、AndroidまたはiOS向けアプリをダウンロードして2分ほどのアンケートに答えることで、ポテトSやドリンクSなどの商品がもらえる無料券が利用できる仕組みになっている。2015年の導入以降、2018年3月までに約900万件の意見が寄せられていると同社では説明する。この声は店舗側で確認でき、単純な感想から店舗改善につながるものまでさまざまで、顧客との対話の場として大いに役立っているようだ。デジタル化と効率化が進むことで、店と顧客の接点が少なくなって関係が希薄になる印象もあるが、ツールも使い方次第で逆に密な関係を実現するものとなるのかもしれない。

最終更新:6/12(火) 6:10
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