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米朝に翻弄、在日コリアンの思い「難しい時代の幕開け」

6/12(火) 19:03配信

朝日新聞デジタル

 米国と北朝鮮の70年にわたる対立は、家族、そして民族を分断し、翻弄(ほんろう)し続けてきた。双方にゆかりのある在日コリアンは、史上初の米朝首脳会談が、悲劇の歴史に終止符を打つ出発点となることを願った。

【写真】ヤン ヨンヒさん


■「分断、破壊の方がよっぽど楽」

 「ここまで来て本当によかった。でも、ここからが本当に難しい時代の幕開け」。映画監督で作家のヤン ヨンヒさん(53)は12日午前、米朝の首脳が握手するテレビの中継放送を、祈るような気持ちで見つめた。米朝首脳会談で議題にのぼる非核化や朝鮮戦争の終結は、「相いれない相手と何かを構築し、分かち合う作業。分断、破壊の方がよっぽど楽だったろう」と感じるからだ。「それでも、前に進まないといけない。大きく一喜一憂はしないけど、意見が合わない時こそ冷静になって、未来への大きな一歩になってほしい」

 大阪・鶴橋で、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の幹部の家に生まれた。父は北朝鮮の指導者を熱烈に支持し、ヤンさんの3人の兄は帰国事業で北朝鮮へ。統制国家で自由や精神的な健康を失った兄たちと、ほぼ全財産を兄へ仕送りした両親。ヤンさんにとって、家族のことはずっと重荷だった。

 転機はヤンさんが朝鮮学校の教師を辞め、ラジオや海外での映像取材の仕事に就いたこと。「在日社会や自分の家族を、遠くから冷静に見つめたい」と、ジャーナリズムや映像制作を学ぶために1997年、米ニューヨークに旅立った。

 「米帝国主義から何を学ぶと言うのだ!」と父に猛反対された。ただ、その父も2000年、初の南北首脳会談のときには、韓国人留学生たちと祝杯を挙げていたヤンさんに電話をかけてきて一緒に喜んでくれた。「同じ家族に異なる思想や国籍があってもいい。私が米国で学んだのは、そうした多様性でした」

 北朝鮮に住む兄たちや、父の生き様を記録したドキュメンタリー映画「ディア・ピョンヤン」や、北朝鮮から一時再来日した兄を描いた劇映画「かぞくのくに」は国内外で高い評価を得たが、ヤンさんは北朝鮮を訪問できなくなった。長兄は会えないまま亡くなった。現在、戦後に済州島から日本に渡った母をテーマに映画の撮影を続けている。

 「多くの人が家族に会えず、故郷に行けず死んだ。自由に行き来やメールができるようになってほしい」と心から願う。(吉野太一郎)

朝日新聞社

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