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今後5年以内にビジネスと社会を根本的に変える“5つのテクノロジー”は?

6/15(金) 6:00配信

Impress Watch

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は、年次イベント「Think Japan」を、6月11日・12日の2日間、東京・高輪のグランドプリンスホテル新高輪で開催した。

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 その2日目、「Business and Solution Day」の基調講演を、クラウド Watchでは2回にわけてレポートする。

 なお、前半部分のレポートはこちら。



 日本IBM セキュリティー事業本部長の纐纈昌嗣執行役員は、「サイバー攻撃に対するレジリエントな組織をつくる」をテーマに講演した。

 「2017年度は、ハッカーの攻撃手法が変化し、セキュリティ担当者にとっては大変な1年であった。また、個人情報の漏えい件数は90億件に達しており、世界の人口よりも多い。そのためハッカーは個人情報を高い値段で売りさばくことができない。だが、WannaCryは身代金を請求し、80億ドルも稼いでいる」と指摘。

 「しかし問題となっているのは、パスワードがそのままだったり、ファイアウォールの設定が間違っていたり、最新のパッチが当たっていなかったり、という点である。防御が不十分であるという実態に加えて、検知にかかる日数が平均で200日、日本の企業では900日という調査結果もあり、発見したときにはすべてが終わっているという状況であることも課題だ。そして、セキュリティ対策の計画がない企業が77%に達している実態も問題である」などと述べた。

 さらに、「インシデントが発生する前と後では、考え方を変えなくてはならない」とし、「インシデントが発生したあとでは、IT部門だけでは解決できない問題ばかりになる。法務や人事、経営幹部が主導で進めなくてはならず、株価への影響や評判といった不確実性領域にも、会社全体として対応していく必要がある。だが、インシデントが起きた後の対策をとっていない企業がほとんどであり、人とテクノロジー、プロセスを有機的に結びつけなくてはならない」といった問題点を指摘する。

 その上で、「IBMではこれをオーケストレーションと呼ぶが、ここにAIを活用して、オーケストレーションを手伝うためのツールIBM Resilientを提供している。また、X-Force Redと呼ぶホワイトハッカーのチームや、インシデントが発生したあとの対応を専門に行うX-Force Irisと呼ぶチームもいる。全世界130カ国で、一日350億件以上のセキュリティイベントを監視している部隊もいる。IBMが高度なセキュリティスキルを活用してもらいたい」と、自社のソリューションを紹介し、その活用を呼びかけた。

 あわせて、ケンブリッジに設置しているX-Forceのコマンドセンターでは、実際のマルウェアを活用したインシデント対応演習を行え、年間1400社が訪れて学習していることや、Watsonを活用して、インシデントが発生する前に対応するためのセキュリティ免疫システムを提供していることも紹介。

 「IBMは、エンタープライズセキュリティのトップベンダーである。全世界で8000人のセキュリティ スペシャリストがおり、133カ国の1万7500社をサポートしている実績がある。またIBMはセキュリティに関して、3500の特許を持っており、これはWatsonに関する特許よりも多い」と説明。「日本のセキュリティスペシャリストおよびコンサルタントを、2020年までに倍増する。日本の企業に対して、サイバーセキュリティによる安心感を提供することに力を注ぐことになる」とした。

 再び登壇した日本IBMの三澤取締役専務執行役員は、「IBMは全世界8カ所にセキュリティオペレーションセンターを持っている。世界規模でのSOCと、X-Forceによるトップエキスパートチームを有しているクラウドベンダーはIBMだけである」とまとめた。

■今後5年以内にビジネスと社会を根本的に変える5つのテクノロジー

 続いて、米IBM コグニティブ・ソリューション兼リサーチ担当のジョン・ケリー シニアバイスプレジデントが、「Explore the Power of Innovation」をテーマに講演。将来の技術進化について説明した。

 IBM基礎研究所が、今後5年以内に、ビジネスと社会を根本的に変える5つのテクノロジーについて予測している「5 in 5(ファイブ・イン・ファイブ)」をベースにした内容となった。

 ケリー シニアバイスプレジデントは、「私は、40年間ほど、IT業界に身を置いているが、いまの変革は、これまでとは比べものにならないスピードで、大きな変化が生まれている。誰もが、初めて見ることになる大きな変化になるだろう」と切り出す。

 「ムーアの法則で示されたように、1980年代のCPUのトランジスタは10万であったものが、いまでは100億になっている。またメトカーフの法則によって、インターネットを活用した企業は大きな成長を遂げることになり、それがデジタル革命を引き起こした。技術の指数関数的な変化は、技術のリーダーになるか、技術によって殺されるかのどちらかを企業に迫ることになった。そして、いま訪れている3つの目の指数関数的な変化は、Watsonの法則と呼ぶものであり、データは12カ月~18カ月で倍増し、データから知見や洞察を引き出すことで、企業は指数関数的な改善が可能になる。人類の歴史のなかで初めて、人の学習速度を指数関数的に伸ばすことができるものになる。そこには、人と機械の連携が重視される」とした。

 こうした点に触れたケリー シニアバイスプレジデントが、「ビジネスを変え、社会を変える5つのテクノロジー」として掲げたのが、「インテリジェンス」「トランザクション」、「マン・マシン・インターフェイス」「量子コンピュータ」「セキュリティ」である。

 「AIは人間の知性を拡張するものであり、これによって、社会やビジネスが変わることになる。これまでは、画像認識などの狭いAIが活用されており、一方、数十年先の将来には、すべてを知っている汎用的なAIが登場するだろう。だが、いまはその中間にある広いAIが存在し、これが数10年間にわたって活用されることになる。多くの価値がここから生まれ、すべての業界が変革することになる」とした。

 ここでは、がん治療にWatsonが貢献している例を挙げる。16種類のがんのタイプを学習して世界中の5万症例に対応し、最適な提案によって医師を支援しているほか、がんの再発を止めるための研究も行っていることを示した。

 また「トランザクション」では、クラウドのなかにあるAIを、エッジで利用する動きについて説明。自動運転やドローンなどにインテリジェンスを持たせるためには、小型化とともに消費電力を引き下げる必要があるとし、「IBM基礎研究所では、マイクロプロセッサが持つ機能を塩一粒のサイズにまで小さくし、医療機器、リモートIoTデバイス、センサー、アクチュエータに搭載することを目指す」と述べた。

 また、ブロックチェーンについては、「インターネットが情報分散の仕組みを変えたのと同じように取引そのものを変えることになる。そして、この技術は、地球上のすべてのトランザクションにかかわるようになる。それはそんなに遠い時期ではない」とし、「その世界に向けて、IBMでは、ブロックチェーンに接続しているデバイスがなんであるのかを特定する技術を開発した。この技術をブロックチェーンに活用することで、モノを追跡できる環境を作ることができる」と説明した。

 「マン・マシン・インターフェイス」では、「調査によると、人間と機械が一緒に行った意思決定のほうが、人間単独や機械単独で行った意思決定よりも優れていることがわかっている。今後は、さらに深く人間と機械が連携することになり、機械が人間の表情や思考、感情などを理解するようになる。そうなると、われわれも機械を理解しながらやりとりをしなくてはならない。それに向けた研究を行っている」とした。

 「量子コンピュータ」では、「2年前には将来の技術だったが、いまは科学ではなく、エンジニアリングの世界に入ろうとしている」と前置き。

 「コンピュータは、1940年以来、1と0の組み合わせで成り立っている。だが、量子コンピュータは、まったく異なる仕組みであり、2つのQbitだけで、何百万のトランジスタよりも大きなパワーを発揮する。Qbitが増えれば、性能は指数関数的に高まっていくという特徴もある。ムーアの法則を超える進化を遂げ、本当の意味で世界を変えることになる。AIとの組み合わせによって、それはさらに加速することになる」と述べた。

 「セキュリティ」では、「いまは、最先端のアナリティクス技術を使って、マルウェアを阻止し、侵入しないようにしているが、今後2年間で、これらすべての暗号化手法やデータ保護手法は無意味なものになる。それは、今後、AIがあらゆるところで利用されるなかで、AIに対して、ノイズがあるデータを少し挿入すれば、混乱させることができるからだ。小さなデータで侵入し、AIを侵害することができる」という。

 そしてそれに対抗するため、「IBMでは、まったく新しい方法でこれを阻止できる仕組みを考えている。暗号鍵を見つけにくいものにする技術であり、さらに、暗号化されたデータを解読することなく、処理ができる。この技術は実証済みであり、今後数年間で商用化する予定である」と語った。

 このほかケリー シニアバイスプレジデントは、いま利用可能な技術として、先週発表した「Summit」について説明。「これは、人間が作った最もパワフルなスーパーコンピュータであり、米国政府のために構築した。1秒間に20京回(200PFLOPS)の計算を実行できるものであり、世界最大規模のAIシステムでもある。人間が一生かけても導き出せない答えを導きだすことができる」と語った。そして、「これをさらに小型化し、手のひらに置くことができるようにしたい」と述べた。

■Watsonの最新動向を紹介

 最後に登壇した日本IBMの吉崎敏文執行役員 ワトソン&クラウドプラットフォーム事業部長は、Watsonの最新動向について説明した。

 「第4の資源と言われるデータを競争優位のために活用することで、自らを変革していくことができる。AIを利用してデータを価値に変えていくこと、AIをあらゆるプロセスに埋め込んでいくことに加え、複数のプラットフォームを活用して変革を進めることが大切である」と前置き。

 「データを活用したプラットフォームを構築するために、IBMは、Watson Studio、Watson Services for Core ML、Watson Assistantの3つのサービスを発表した。日本では、本田技研工業、楽天が、これらのサービスを利用し、エンジニアが個別に分析に活用したり、自動応答サービスを38種類も立ち上げたりといった成果が出ている」と説明した。

 また、「Watsonは、ビジネスのためのAIであり、さまざまなビジネスプロセスにAIを組み込めるほか、少ないデータセットで学習することができる。Wikipediaなどの一般的なデータに加えて、医療専門用語や金融法規制などの業界辞書を学ぶことで学習効果を加速させている」などとした。

 さらに、IBM Cloudライト・アカウントでは、Watson APIやデータベース、IoT、セキュリティなど、40以上のサービスを無料提供していることを紹介。「昨年は15個だったが、これを倍増以上にした。開発に必要なもの、そして、すぐに使えるものを用意している」と述べた。

 加えて、ベアメタルサーバー仮想サーバーを、1カ月分の料金で2カ月間利用できるキャンペーンや、1TBのブロックストレージやファイルストレージを2カ月間無料プロビジョニングするキャンペーンを用意。「いまあるアプリを、そのままベアメタルや物理サーバーで利用してもらうためのキャンペーンである。クラウドを使ってもらうための機会になる。まずトライしてほしい」と呼びかけた。

■インダストリーソリューションの取り組みを説明

 一方、基調講演後に行われた報道関係者向けのセッションでは、日本IBM 事業開発担当の松永達也取締役常務執行役員が、インダストリーソリューションの取り組みについて説明した。

 ヘルスケア分野においては、2018年7月から日本において、IBM Cloud上でヘルスケアソリューションの提供を可能にすることを発表した。

 また、10以上の国内医薬品メーカーや学術団体において、Watsonを使用した創薬支援に利用されていること、がんのゲノム医療を実現するAIクラウド基盤の提供のほか、がん患者の電子カルテ情報を解釈して、最適な治療法を提示するといった動きがあることを示しながら、「がん患者の最適な治療法の提示については、日本では、研究、教育目的として、大学などが利用している。多くのがん患者の治療に向けて、医師を支援していく」と述べた。

 製造業およびIoT活用では、安川電機が、製造現場でのリアルタイム解析および分析処理を行うエッジコンピューティングの事例を紹介。「エッジで分析エンジンを動かすほかにない仕組みであり、現場での自律的な稼働をサポートして、生産性倍増を目指している」とした。

 そのほか、食のトレーサビリティや、金融機関における金融リスク対策などにおいて、ブロックチェーンを利用した取り組みを行っていることを示した。

クラウド Watch,大河原 克行

最終更新:6/15(金) 6:00
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