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100年前のレシピがクラウドでよみがえる――「あずきバー」井村屋の働き方改革とは?

6/15(金) 10:12配信

ITmedia エンタープライズ

 「メール添付ファイルの暗号化は、一体うちではどうなっているんだ。企業として、ちゃんと対応はしているのか」

【マイクロフィルムに保存されていたような昔のレシピなども、PDF化してBoxで共有しているという】

 アイスキャンディー「あずきバー」や、「肉まん」「あんまん」などのロングセラー商品で知られる老舗企業、井村屋グループのシステム部に大西安樹社長の一声が響いたのは、2016年のことだった。

 井村屋グループは、1896年に三重県で創業して以来、小豆を中心としたさまざまな食品を扱ってきた。日本全国をはじめ、中国や米国などの海外にも製造拠点を持つ。現在は、食品や調味料製造、不動産など幅広い商材を手掛け、1000人以上の従業員を抱えている。

●社長の一言から発覚した「深刻な課題」

 そんな同社で例の一言が持ち上がったのは、大西氏が付き合いのある他社から「井村屋さんは、メールの添付ファイルを暗号化していないんですね」と指摘された直後だったという。企業がメールでやりとりする添付ファイルは、機密情報を含むケースがあり、攻撃者から狙われやすい。そうした観点でも、添付ファイルのセキュリティは重要だ。

 ふたを開けてみると、たちまち深刻な事実が発覚した。同社でシステム部の部長を務め、2018年6月に「Box World Tour Tokyo 2018」で講演した岡田孝平氏は、「ほとんどの社員は、添付ファイルの暗号化など気にも留めていなかった。一部の社員は、社外の無料ソフトを使ってファイルを暗号化しており、いわゆる『シャドーIT』が横行していた」と振り返る。当時、同社は自社サーバを運用していたが、長年の使用で老朽化し、業務用ファイルを暗号化するには容量不足だった。

 社長の一声を受けて、「メールの添付ファイルを暗号化し、パスワードを発行するツールを探し始めた」という同社は一転、2017年にBoxを導入し、各拠点間の書類のやりとりから製造現場で使うマニュアル管理まで、業務の大幅な電子化やクラウド化に成功した。現在は、全国の社員がオンラインでいつでも、どこでも作業できる環境づくりを行う「働き方改革」のツールとしてBox活用を進めている。

 「当初は、Box導入の検討さえしていなかった」という同社は、一体なぜBox導入を決断し、社内のIT環境を刷新するに至ったのか。

●「完全に検討リスト外だった」Box導入を決めた理由

 社内調査でオンプレミスサーバの容量不足を痛感した同社は、オンラインストレージの導入を検討し始めた。「ランニングコストが安く、暗号化やファイルのバックアップ機能、多要素認証機能など、必要な一連の機能を備える製品」が選定の条件だった。そんな時、同じ三重県内にある企業同士の交流を通じてBoxを知り、導入目的そのものが変わり始めたという。

 「シンプルで使いやすく、容量が無制限な点や、細かい権限設定や柔軟なプレビュー機能が魅力的だった。特に、複数の拠点がある中国でも利用できる点は、導入を検討する上で外せない条件だった」(岡田氏)

 ファイルの共同編集機能やコラボレーション機能など、Boxは明らかに同社が求めていた機能よりも多く機能があり、想定コストを超えるかもしれないという懸念があった。しかし、5年スパンで導入コストを試算したところ、Boxの導入コストは、新たにサーバを購入して旧サーバを置き換えるコストとほぼ変わらなかったという。

 そこで同社では、これを機にセキュリティ要件を担保しつつ、社内業務のペーパーレス化やファイルの共同編集、遠隔作業の実現など、クラウドで社員がより働きやすい環境を作る「働き方改革」に乗り出そうと、Boxの「Businessプラン」とNTTコミュニケーションズのシングルサインオン(SSO)サービス「IDFederation」との連携ソリューション導入に踏み切った。また、社内ネットワークをNTTコミュニケーションズの「UniversalOne」に切り替え、クラウド利用に備えた通信の高速化を行った。

 多くの拠点が東海~中部地方の太平洋側にある井村屋グループでは、今後30年間で必ず訪れるといわれる「南海トラフ地震」に備え、災害時の事業継続計画(BCP:Business continuity planning)を刷新する必要があり、この点も導入を後押ししたという。

●「Boxって何?」から「便利だから使わなきゃ」に変えるまで

 無事にBoxの導入を果たした同社だが、今まで紙媒体やオンプレミス環境での業務に慣れた社員がスムーズに使えるようになるまでには、さまざまな課題があったという。「当時、ほとんどの社員の反応は『Boxって何?』というものだった。全社でメールへのファイル添付を廃止し、代わりにBoxで暗号化したファイルのURLを共有する方針を決めたが、最初はまるで広まらなかった」と、岡田氏は話す。

 そんな逆境を打開したのは「積極的に使ってくれる部署からの情報発信」および「社用ガラケーからスマートフォンへの全面移行」だった。

 同社では、頻繁に中国へ出張していた部門が、出張先での資料の共有や遠隔作業などの用途で、積極的にBoxを使い始めた。そこで、同部門に社内向けのBox説明会を実施してもらい、「どの業務にどのようにBoxを活用すれば便利なのか」という具体的な情報の共有を進めた。

 また、従来使っていたガラケーからスマートフォンへの移行も、Box浸透の起爆剤になったという。それまで同社では、社員が手作業で書類をスキャンし、そのデータをサーバで管理していた。ところが、Boxの「Box Capture」を使うことで、スマートフォンで撮影した書類や画像が、自動的に補正されてBoxで共有できるようになり、社員の作業が効率化した。こうした機能が社内に広まり、「便利だからBoxを使うべき」という雰囲気が生まれていったという。

 当初は「Webブラウザでの操作が面倒」「レスポンス速度がオンプレミスサーバより遅い」などの不満を訴えていた社員たちも、デスクトップからフォルダの検索を行う「エクスプローラ」機能を使ってBox内のファイルを検索できる「Box Drive」の導入を機に、Boxを使うようになった。

 さらに同社は、全国の拠点にある複合機とBoxとの連携に取り組んだ。Box導入を機に、社内の複合機を全て刷新。メーカーのリコーと共同で検証と通信スピードの改善を進め、全国の拠点どこからでも、複合機へログインすれば、Boxで共有したファイルを印刷できるようにした。

●Box導入で実現した各拠点での「働き方改革」

 現在、井村屋グループでは、こうした機能の他にも、Boxの各アプリケーションを使った業務効率化を進めている。

 例えば、会議中に「Box Notes」で議事録やメモを作成し、動画やURLなどを張り付けて共有するのもその1つだ。複雑な機械が稼働する製造現場では、「Box Capture」を活用。各機械に貼ったQRコードをスマートフォンでスキャンすれば、誰でもその場で動画マニュアルを閲覧できる仕組みを作り上げた。また、現場のセンサーから収集した室温のデータをBoxに集約することで、品質の分析にも役立てている。

 井村屋のBox活用は、社外とのやりとりにまで及ぶ。例えば、食品のパッケージデザインを印刷会社と話し合う際や、外部のベンダーに問い合わせを行う際、Boxで書類や画像を共有することで、迅速なやりとりができるようになったという。

 このほかにも、120年の間に蓄積したレシピや技術的なノウハウを、Boxでいつでも、どこからでも社員が閲覧できるようにする取り組みが始まっている。こうしたノウハウは、かつてマイクロフィルムに保存されていたが、いったん専用の閲覧機器が壊れてしまってからは、忘れ去られていたという。こうしたデータをPDF化し、Boxに共有することで、「先人の知恵をこれからの商品開発に生かしていきたい」と、岡田氏は語る。

●井村屋グループが進めるBox活用の展望と、今後の課題

 井村屋グループでは今後、Boxを活用した働き方改革をさらに進めていくという。「例えば、社内の基幹システムとの連携や、同じくBoxを導入している外部のパートナー企業と連携した業務の効率化、製造現場のIoTセンサーで集めた情報の活用、複合機を使ったFaxのペーパーレス化をさらに進めたい」と、岡田氏は話す。

 今後Boxを使う際の改善点について、岡田氏は「挙動のスムーズさなどの面で、BoxとIE(Internet Explorer)の相性がさらに良くなるといい」と話す。

 同社は2018年4月から、社員によるインターネットを使ったテレワークを本格的に開始。Boxを通じて、社員がいつでも、どこからでも必要な業務をこなせる環境づくりを進めるとしている。