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「白い製品」に「白いケーブル」を添付できないメーカーの裏事情

6/17(日) 7:20配信

ITmedia PC USER

連載:牧ノブユキのワークアラウンド(PC周辺機器やアクセサリー業界の裏話をお届けします)

「白い電源ケーブル」を用意するメーカー

 「なぜ日本のメーカーは、海外のメーカーのように、白いボディーの製品に白のケーブルを添付することができないのだろう」──このような趣旨のツイートが話題になった。同じような疑問を持つ人は多いようで、何千件とリツイートされるとともに、メーカーで開発に従事していると思われる他のユーザーが、さまざまな視点からの回答を寄せていた。

 この疑問はSNSで1~2年周期で話題になる、一種の「あるある」ネタである。中には、自分で製品を使っていればこのくらいのことは気付いて当然で、それはつまり自分で開発した製品を使っていないのではないかと、とっぴな方向に考えを飛躍させる人もいるようだ。

 とはいえ、少なくない数のユーザーが気が付くようなことを、製品にずっと携わっている企画担当や開発担当が気付かないということは、まずあり得ない。もし「それは気付きませんでした、参考になります」などと答える担当者がいたとしても、それはユーザーの機嫌を損ねないための模範解答で、裏では「いやそんなことは先刻承知だから」と苦笑いしているのがオチだ。

 つまるところ冒頭のような疑問は、メーカーの企画担当や開発担当にとっては「気付いているが優先順位が低い」か「気付いているが解決すべき問題とは考えていない」のどちらかということになる。なぜそうした考え方に至るのか、メーカー側の事情を詳しく見ていくことにしよう。

●ケーブルやACアダプターの色替えは簡単ではない

 まず大前提として知っておきたいのは、ケーブルやACアダプターは、特定の製品のためだけに作られるケースは、ごくまれだということだ。他製品に使われている既存の部材を流用できないかをまず検討し、それが不可能と判断された場合のみ、新規に設計、生産を行うというのが一般的なスキームだ。

 つまり既存部材を流用する場合は、既に色などが決まっているものを、そのまま用いることになる。部材を共通化すれば、生産コストは言うに及ばず、在庫コストなども圧縮が可能になるし、生産終了後に修理・交換用に持っておくストックも共通化できる。これらをいかに効率化できるかは、製品を企画開発する側にとっては、製品そのものの開発と同じくらい、腕の見せ所となる。

 とはいえ、既に部材自体は存在しているのだから、せめて本体のカラーくらいは変えられないものか……と思うかもしれないが、色の変更というのは、単に成型色を変更すればOKではない。社内で仕様書を作って各部署に指示を出し、生産ラインの調整を行い、それが外注の品であればロットを決めて見積もりを取り、価格交渉を行い、まとまれば生産指示書を作り……と数え切れないほどの手間が発生する。

 さらにこれがACアダプターだと、色の変更で耐久性や放熱面などの特性が変わってしまう場合もあり、そうなると電気用品安全法(PSE)に従った検査を再度行わなくてはいけなくなるなど、手間だけではなく実費も掛かってしまう。これに対して、色を変えずに既存の部材を流用すれば手間も費用も不要になるわけで「やーめた」となるのも、ごく自然な判断だろう。

 これはOEMの場合も同様で、完成品として調達可能なケーブルやACアダプターをどこかから探してくるわけで、見つかった時点で色を変えたものの生産を依頼するといった考え方にはならない。もちろん、色も含めてぴったりの部材があればそれを使うことになるが、別の色の方がコストが安ければ、そちらの方が優先されるのがオチだ。

 「でも海外のメーカーはできている例があるじゃないか」という指摘もあるだろうが、それは単に生産数が桁違いに多いため、コストを償却しやすいというだけにすぎない。

 加えて、海外メーカーでもそのほとんどはコストを優先し、ケーブルやACアダプターの色は黒をベースに使い回している。ケーブルやACアダプターの色を本体機器の色に合わせている一部のメーカーが、たまたま海外メーカーである、といった方が実態に近い。

●どうして「黒」が選ばれがちなのか

 といったわけで、ケーブルやACアダプターの色が機器本体の色とマッチしない理由の大部分はコストに関連しているわけだが、色を統一するにしても黒ではなく、白など別の色を選んでおくという選択肢もあるように思える。黒が選ばれるのは、どのような理由によるものだろうか。

 1つは汚れが目立ちにくいことだ。ケーブルにせよACアダプターにせよ、直接フロアに触れることが多いため、使い続けていると汚れが目立つようになる。その点、黒であれば白などに比べて、汚れてもあまり目立つことがない。フロアや壁面と同一の色でないにもかかわらず、黒ばかりが採用されるのには、この特徴に負うところが大きい。劣化による黄ばみなども同様だ。

 では白以外の中間色、例えばグレーはどうかというと、これは別の理由でNGとなる。それは樹脂を使っている場合、生産のたびに色の濃淡をぴったり合わせるのは、調合が意外に難しかったりするからだ。黒であれば、ロットによって色味がちょっとずつ変化していても、そうそう分かるものではない。

 黒の場合、製造過程で不純物が混じっても分かりにくいという利点もある。白など明るい色の場合、わずかなゴミであっても目立ってしまい、神経質なユーザーが交換を要求してきたりする。黒をはじめとした濃い色を選んでおくことは、それらのリスクヘッジもなる。

 また、本体機器がカラーバリエーション展開を行う場合、最も合わせやすい色が黒であるという事情も大きい。「日本人の黒髪はどのようなファッションにも合う」などといわれることがあるが、それと全く同じで、本体のカラーバリエーションがどれだけ色とりどりでも、黒であればまず安全牌だ。

 もう1つ、PC周辺機器は、その名の通りPCなど別のデバイスにつなげて利用する。つまり接続先となる相手機器が必ず存在しているわけで、仮に本体とケーブル、ACアダプターの色をそろえても、それをつなぐ相手先の機器と色が一致するとは限らない。

 それならば、最初からマッチしないことを前提に、ベストではないがベターな選択肢として、黒を選ぶというわけだ。要するに「PC周辺機器」であること自体が、黒を選ぶ理由になっているというわけだ。

●気にならなくなるのは「感覚のマヒ」なのか

 実際のところ、PC周辺機器などの開発に長年携わっていると、機器本体とケーブル、ACアダプターの色が一致していないことは、たとえ気付いてはいても、ほとんど気にならなくなってくる。

 しかもよりによって、それらの変更に携わることが可能な企画担当者や開発担当であるほど、その傾向が強い。それは場数を踏むごとに、ここまで述べたようなハードルの高さを実感する機会が増え、いつしか考慮すべき対象からも外れてしまうからだ。

 一般のユーザーから見るとこれは「感覚のマヒ」と捉えるかもしれないが、メーカーの側にいると最適化と効率化を突き詰めた結果でもある。ケーブルやACアダプターの色を統一することで原価が上がり、販売価格も上がっても、販売数量が逆に2割や3割増えるのか、という視点で考えるメーカーに対して、一般ユーザーはそうした視点を持たないというだけだ。

 もし、これらの問題を度外視できるとすれば、それは製品をトップダウンで作れるメーカーくらいだろう。ずばり言うとAppleがそれに当たるわけだが、これにしても同社がそうした取り組みで実績を作り、ブランドイメージを構築できていることがバックボーンにあるからで、あるメーカーが突然同じ取り組みを始めても、目に見えて売り上げに影響を与えることはないだろう。

 余談だが、Appleの製品の中でも、ケーブルやACアダプターと本体の色が統一できていない製品は存在している。つまり目立たないところはきっちり抜いているわけで、むしろそうした例外に目を向けてみる方が、ケーススタディーとしては面白いだろう。

最終更新:6/17(日) 13:45
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