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え!? これクラウンだよな?

6/25(月) 6:58配信

ITmedia ビジネスオンライン

 「BMWが欲しいなら一度クラウンに試乗してから決めるべし」。

 いやいや、クルマ好きな人に非常識に聞こえることは重々承知している。もちろんクラウンにはキドニーグリルは付いていないし、何より外車じゃない。望むものがそっちなら言っても仕方ないが、今まで「国産車は走りの面でレベルが低い」とBMWを買っていた人にとっては、コストパフォーマンスがはるかに高いスポーツセダンの選択肢になる可能性が十分にある。特に全幅を1800mmに収めた使い勝手の良さを考えると、新型クラウンは得難い1台であるかもしれない。

デザインのディティールが強すぎて男性権威の象徴と言われてしまった旧型クラウン

 価格はまだ正式発表になっていないが、トヨタは従来据え置きでいきたいと言う。現行モデルを見ると、下は400万円から上が620万円あたりである。パワートレインは2.0ターボと2.5ハイブリッド、3.5ハイブリッドの3種で、それぞれに全く性格が違う。繰り返すが全く別物だ。

 お勧めのど真ん中は、大型セダンらしさと高運動性能を両立した2.5ハイブリッドのAWDである。これは文武両道の見事な優等生。一方で「これがクラウン?」と思うようなライトウェイトスポーツ的ハンドリングが欲しければ2.0だ。これまで「そんなことはクラウンに求めていない」と思われていたような走りが2.0ターボにはある。最後に残った3.5のハイブリッドは、良く言えばバンカラ。悪く言えば粗雑。だいぶレベルが落ちる。

 話の骨子は以上である。長い記事が嫌いな人はここから先は読まなくて良い。

●変わらなければならない理由

 さて、15代目クラウンの成り立ちを理解するためには、やはり背景の理解が重要だ。クラウンはこれまで、ショーファー向けのマジェスタ、法人向けのロイヤル、パーソナル向けのアスリートの3つのラインで構成されていたが、今回これを1本化した。

 すでに2000年代始めからクラウンは毎年オーナーの平均年齢が1歳ずつ上がっていくという悩みを抱えていた。アスリートシリーズの登場で多少はユーザーの高齢化に歯止めがかかったのだが、トヨタが考える水準には到達できておらず、今世代で一気にそれを何とかしたいと考えた。

 主査の説明によれば、調査の結果、クラウンにはファンも付いているが、同時に悪い印象もあったのだという。特にロイヤル系はパトカーや運転手付きの法人車両のイメージが強いらしい。重厚長大、役所や財閥の類に共通する古く保守的かつ権威的なイメージだ。20年代に向けてそれらを振り払って、もっと新鮮味のある製品へと脱却しなくてはならない。このままいけば販売台数はジリ貧で、いつか臨界点を迎えてしまう。もはや既存オーナーに拘るばかりに、キープコンセプトで開発している段階ではない。

 そう問題を定義した上で、開発陣が決めた改良の重点ポイントは2つある。1つは歌舞伎の隈取のようなフロントデザインのアクの強い押し出しだ。販売現場からはこれが男性権威の象徴のように見えるのだそうで、せっかく気に入ってくれたお客さんがいても奥方の拒否権発動で契約非成立ということがあるらしい。

 もう1つは、日本専売(例外的に中国では販売している)のドメスティックカーとして、追い上げる競合もなくぬるま湯の中にいたクラウンの運動性能を世界で戦えるレベルに高めることだ。端的に言えば、ベンツやBMWと互角以上に戦えるクルマを目指した。幸いなことにシャシーもエンジンもTNGAへの移行世代となり、特にシャシーはFR用TNGAの頭出しになる。トヨタは当然このシャシーをレクサスにも適用していくだろうから、世界レベルを狙うという目標も承認されやすかったに違いない。

●クーペデザイン時代のセダン

 まずはデザインだ。これまでのクラウンは「いかにクラウンであるか」をテーマにしてきた。しかし、これまで述べたように、マジェスタ/ロイヤル/アスリートを統合する以上、そのための新しい形を模索しなくてはならない。これまで前後を貫く水平なウエストラインと箱型スタイルいう、オーセンティックなセダンの文法に則ってきた基本形を、根本的に改めた。その方向性はドイツで大流行中のクーペ的セダンである。

 今や懐かしい言葉となったが、ボーダレス後の欧州では交通量の増大によって実用巡航速度が大幅に下がった。その結果、時速200キロオーバーでの巡行と居住性の両立のために求められてきたセダンというパッケージの優位性が失われ、ピープルムーバーと呼ばれるエアボリュームの大きいクルマに移行しつつある。日本のミニバンブームから10年遅れて欧州も似たようなクルマが流行り出したのである。

 こうした背景を受けてセダンの意味が急速に変わった。高速性能と居住性の最良のバランスポイントとしてのセダンではなく、スーツと同じく、フォーマルなプロトコル性のための車種になった。エアボリュームでピープルムーバーと競っても勝ち目がないセダンは、徐々にリヤの居住性を犠牲にしてスタイルに特化する方向に進む。メルセデス・ベンツCLSなどのクーペ型セダンのヒットによりそれは加速し、現在ダイムラーやBMWは箱型セダンとクーペ型セダンの両方をラインアップしているが、クーペ型セダンの勢力は増すばかりである。

 欧州以上にミニバンの普及率が高い日本で、セダンの先行きを考えれば、よりクーペ型セダンの方向に進むのはロジカルには正しいはずで、クラウンの6ライトクーペ風セダンという方向性は世界のトレンドを汲んだものになっている。

 デザイン的に問題があるとすれば、そうした新しいセダンの形に対して、旧来からのクラウンらしさを無理やりに接ぎ木したフロントデザインで、せっかく三次元の塊としてデザインしたクルマに、二次元的発想時代の「クラウンらしい」フェイスを何とかなじませようとデザイナーが悪戦苦闘した痕跡が残っている。例えば、フロントフェンダーアーチの一部を無理やり二次元の平面で切り取ったヘッドランプなどは、三次元の形として表現しきったテールランプとは呼応しているとは言い難い。

 ただし、クラウンが欧州の流行にそのまま乗っかっているのかといえば、そこは芸の細かさで定評のある日本の寄木細工のような繊細さも持ち合わせている。例えば、カップホルダーなどの可動物の動きを滑らかでゆっくりした動きにチューニングしている。桜や雪の舞い散るような「秒速5センチメートル」な動きのもてなしがそこに用意されているのだ。

●圧倒的な接地感と濃厚なステアフィール

 さて、肝心の走りだ。今回の試乗ではクローズドコースの山岳路が用意された。それはトヨタの自信の表れだろう。着座するとシートがだいぶ良くなっている。主査は「目の位置を動かさない」ことに留意したと言うが、実際走ってみてそういうものになっていた。

 まずは2.5リッターハイブリッドAWDである。タイヤのひと転がり目からトルクが意図通りに綺麗にかけられる。走行中のきめ細かい加減速の自由度も十分にあるように感じた。ただし本当は、前走車の意図しない加減速に追従するようなモードで走ってみないと断言はできない。自分で設定した加減速よりそういうモードの方が複雑だからだ。そのあたりの評価は後日公道での試乗会があるとのことなので、そこで再度確認したい。

 走り出してすぐに感じたのは4輪の圧倒的な接地感だった。失礼ながらトヨタとは思えない。まっすぐ走っているだけで鮮やかに感じるほど接地感は優れており、またフロントタイヤからの情報のフィードバックも豊かである。後に主査に確認したところ、ステアリングシャフトの途中に設けるゴムカップリングを廃止して直結したのだという。これは前輪が路面の不整などを受けたとき、嫌な振動がステアリングに戻ることを防止するものだ。これを取っ払えばそれはダイレクトになるだろう。

 しかし、ゴムカップリングは要らないのに付いていた部品ではない。ちゃんと振動吸収という機能があった。それをなくしても振動が入ってこないのはどういうことかと聞けば、フロントの転舵軸(キングピン軸)の延長とタイヤの接地点の距離、つまりキングピン・オフセットを減らしたのだという。

 転舵軸と接地点の関係は、風見鶏の軸と尾っぽのようなもの、これが長いほど操舵中に中央に戻ろうとする力(セルフセンタリングトルク)が強くなる。ゼロにしたら当然フィールはなくなる。だからキングピンオフセットを減らしたら本当はフィールは薄くなるのだが、ゴムカップリングがなくても振動が入らないギリギリのポイントを見つけ出してチューニングを出した。これによって、操舵にゴムのねじれによる遅れ感がなくダイレクトでありながら、情報フィードバックも豊かで、かつ振動も上手く抑制する操舵系ができた。

 下り坂の中速コーナーに強くブレーキを残しながら進入していっても、リヤタイヤは落ち着いている。フロントのインフォメーションの豊かさもあって、前荷重を掛けたタイヤを最大に使って鼻先を入れられる。そこからトルク制御の正確なパワートレーンを生かしてロールを後ろへ移動して旋回、出口へ加速という一連の動作がとても綺麗にできる。

 一度、意地悪にブレーキを強めてアンダーを出してみたが、アクセルに踏み替えてやると何事もなかったようにノーズがインに引き込まれる。理屈的にはAWDの仕事だと思われるが、体感的にその介入は分からない。グリップの低い路面でもしものとき、自然でドライバーの邪魔をしないAWDシステムは強い味方になるだろう。スポーツセダンとしてとても頼もしく、信頼できる。

●ライトウェイトスポーツになったクラウン

 次に乗り換えたのは2.0ターボである。正直な話、ダウンサイジングターボに関してはあまり良い印象はない。大排気量エンジンのエミュレーションとして低い回転数だけ使うなら良いかもしれないが、往々にして上がだらしない。それならやはり大排気量が本物だろうと思う。その評価そのものは変わらないが、今回のクラウンのスポーツセダン専用の使い方はちょっと面白かった。

 2.5と3.5はハイブリッドで鼻先が重い。そこにとにかく軽いユニットとして2.0ターボを当て込んだ。下のトルクで1勝、上の伸び感で1敗、鼻の軽さで1勝という具合で2勝1敗。ただしそれが評価できるのは、今回のクラウンの中で最もスポーティなハンドリングに躾けるという明確な意図があってのものだ。やはり総合的には2.5ハイブリッドがセダンとして優れている。それは先に述べたタイヤのひと転がり目の正確なトルクデリバリーなどを見ても明らかだからだ。

 ただ、運動性能に特化したスポーツセダンとしてみると2.0ターボは面白い。高いシャシー性能と軽いフロントを生かした自由度の高いハンドリングでスポーツカーのように走れる。主査によれば、これは今までクラウンに見向きもしなかった客層を取り込むための飛び道具と考えているグレードだという。

 最後に3.5リッターハイブリッド。トヨタがマルチステージハイブリッドシステムと呼ぶ10段変速を模した動きをするパワートレーンだが、まだ熟成が不足している。本来2.5以上の豊かな低速トルクがあるはずだが、動き出しから唐突感が消せていない。肝心のコーナリングでも、ブレーキで鼻を押さえつけてターンインした後、スロットルをパーシャルにして平行ロールに持ち込みたいだけなのに勝手にシフトダウン動作をする。その結果、フロント荷重が抜けてアンダーステアに移行する。ドライバーはもう一度ターンインからやり直さなくてはならない。どうやらアップダウンのあるコースでは登降坂制御が介入して強制的にシフトダウンするらしい。

 全体にまだ荒々しさが残っており、洗練度が低い。本来マジェスタの後継となるべきグレードだけに実力不足を感じた。

 ひとまずクローズドコースでしごいたクラウンの実力評価は以上である。実用セダンとしての総合的な評価は改めて公道で試乗できる機会があるそうなので、そこでもう一度確認したい。

 限られた状況、それは言わばサーキットのようなコースでみた新型クラウン、そしてTNGAのFR専用シャシーの実力はトヨタの言う通り、世界水準になっていると言えるだろう。トヨタの2大名跡であるクラウンとカローラが相次いで、印象を刷新するほど素晴らしい変貌を遂げた。クラウンはドメスティックカーだが、同じシャシーがレクサスに導入される。これらはやがて世界におけるトヨタの評価を大きく書き換えることになるだろう。

 何しろ豊田章男社長自らが、2.5ハイブリッドAWDに試乗して「え!? これクラウンだよな? 俺のラリーカーよりこっちの方が良いや」と言ったというくらいだから。

(池田直渡)