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農家、農業法人に足を運び、汗をかきます

7/4(水) 16:01配信

ニュースソクラ

農林中央金庫 奥和登・新理事長インタビュー

 農林中央金庫(農中)の新理事長に奥和登氏(59)が就任した。河野良雄前理事長(69)に続き、2代目の生え抜きトップとしてJAバンクグループの舵取りを担う。リーマンショックという未曽有の金融危機を乗り越え、農中をどん底から復活させた河野氏から「非常に重いタスキを受けた」と語る奥氏。インタビューで強調したのは、食と農の未来に向け、現場に足を運び、地域、農業者、消費者と対話し、共に汗をかく、協同組織の原点を大切にする姿勢だった。(聞き手は経済ジャーナリスト、森岡英樹)

 ーー農協制度の見直しが俎上にのぼっています。政府が求める農協改革では全国の農協の金融事業を分離・再編するか、1年後に答えが出されようとしていますが。

 制度論云々というよりも、農協という組織が本当の役割なり価値を発揮して行けるかというのが真のテーマだと思っています。改革論に関し不合理に感じることは、金融事業を分離・再編して、何がどうよくなるのか、決定的には分かりづらいところにあります。分離したら何がどうよくなるのか、一緒では何がダメなのか。

 制度の疲労なり、駄目なところがあれば変えていけばいい。いま言われているような改革論が、はたして本当に農協価値を発揮していくうえでボトルネックになっているのか、総合事業が代理店になったからといって本当に解決策になるのかは疑問です。それはあくまで手段であって、目的ではありません。総合事業を代理店化すればJAバンクが提供する価値が増えるというものではないと思います。

 大切なことは、JAグループが本来の価値である営農なり農業振興に、もっともっと汗をかくことにあります。改革論はそういう機能を発揮していけないのであれば、ガサっと変えるよと言っているものだと認識しています。その意味で、いまは外に出て実行する時だと思っています。

 つまり、農家、農業法人、消費者のところに足を運び、私たちグループがどういう役割を担い、果たしていくかということを実践する時だとも思います。内部の建付けがどうこうという時期ではないのではないでしょうか。

ーー改めて協同組織と株式会社の違いが問われているのでは。

 協同組織と株式会社の違いは多岐にわたります。根本的な部分において、株式会社の目的は営利で、トップダウンですべて決めていけますが、協同組織では、メンバーそれぞれの意見を集約し、最大公約数的に進めていきますので、確かにスピード遅い。

 フォワードルッキングなことを出していくのは非常に難しく、合意形成に2~3年と時間がかかかってしまいます。ですが大多数の意見を反映していますので、プロセスにおいていろいろなことを議論していますので、大きく間違えることは絶対ありません。協同組織でも十分効率化する運営はできます。引き続き協同組織という優れた形態を堅持していきたい。

 ーー農中、JAバンクグループには様々な機能面がありますが。

 まさにいろんな機能がありますが、主に3つの側面で整理すれば、まず海外の富を日本に持ち帰って、一次産業のために役立てようという運用の面があります。それから食農という面では、日本の食と農のバリューチェーンをどうやって太くしていくかということです。現在も注力していますが、そこではアジアの成長やインバウンドなどをどう取り込んでいくかなど、あらたなビジナス領域に挑戦していく必要があります。

 そしてリテール、会員の側面では、健全に農協が機能を発揮できるよう、企画機能を強化すべきところは果断なく進めます。この3つがうまくコンビネーションとってJAグルーが地域の農業者や住民の方々、消費者にちゃんと役割を提供できるよう尽力していきます。一次産業があるから、地域や国土が維持されている点は忘れてはなりません。

 ーー昨年、初めて開示されたバリューレポートにも見て取れますが、農業向け新規融資は増えていますね。

 農業向け新規融資の額は着実に増えています。農家、農業法人のところに足を運んで、どのくらい会話の量が増えたかが如実に数字になって表れています。嬉しい成果です。

 バリューレポートは今年も7月末に発行する予定ですが、その中で、IPS細胞でノーベル生理・医学賞を受賞された山中伸弥教授と「医療・食糧そして生命(いのち)」をテーマに対談させていただきました。医療から見た生命、食糧からみた生命を通じ、一次産業の重要性を再認識するかけがえのない機会となりました。

 --農業法人が拡大する中、既存の農家と競合することはありませんか。また農中にとってどちらが大切ですか

 家族農家と農業法人は、ある意味で補完関係にあります。家族農家が老齢化する中にあって、減少する労働力を農業法人が補完するというのは自然な流れです。当金庫にとってともに大切な存在であることに変わりはありません。特に農業法人では「組織知」と言われる組織としての運営の知恵が貯まっていきます。

 金融として対応する余地はより広くなっていくと思います。例えば、農協がやっている直売場というのは、キラーコンテンツだと思っている。直売場に出される農産物は非常に新鮮で、農家の方も評価が分かり、自分で「値付け」ができる利点があります。

 --キャッシレス化の波が急ピッチで金融界を席巻しています。JAバンクグループではどう受け止めていますか

 農家の方々は現金主義で、ドイツのように現金決済への思い入れが強いところがあります。簡単にはJAバンクグループがキャッシュレス化に移行するとはみていません。ただ、個人的にはキャッシュレス化は大変、合理性のある仕組みだと思っています。金融機関だけでもキャッシュのコストが1兆円との推測もありますし、産業界全体でもキャッシュを扱う規模が数兆円のコストになっていると試算されています。

 いずれ時間がかかってもキャッシュレス化へ向かうことになるでしょうが、ただ、実際問題として組合員の方々のスマホ慣れをどう普及させていくかなど、時間がかかることは確かです。また、より研究が必要な残された課題もあると見ています。

 二つあって。まず中央銀行の決済の機能ところが本当にキャッシュレスになってどうなるのか、例えば、スウェーデンのようにほとんどキャッシュレス化していますが、その時、中央銀行の役割がどのようなものになるのか、たぶん日銀さんは、いろいろと研究されていると思いますが、そこが非常に関心のあるところです。

 もう一つは、現金で買うのと、クレジットと買うのとでは、購買意欲がクレジットの方が2~3割高いと言われます。財布の紐が緩むということですが、キャッシュレスになって払っていることの手触り感がなくなることで、消費者の過剰消費を招かないか危惧されます。

 ーーメガバンクなどでATMの共同利用構想も浮上していますが、JAグループのスタンスは。

 日本の金融界は各行でATM網を構築されたこともあり、全体のコストは相当膨らんでいます。金融システム全体のコスト下げていく方向でお互いが協力するATM共同化や決済の共同化は、大きな流れだと思います。全銀協に加盟する当金庫としても前向きにとらえています。

 --河野理事長から引き継いだ思いは。


 河野理事長は相当なご苦労をされました。初代の生え抜きトップとして、プロパー職員を育てるということにも相当なエネルギーを費やされた。非常に重たいタスキを受けたと痛感しています。その後を引き継いだ者として、いろんなことに挑戦していかなければなりません。

 その過程の中では失敗もあるかと思いますが、その失敗を生かす、「失敗知」というものをちゃんと積み上げられる組織にしていかないといけないと肝に銘じています。変化の激しい世の中ですから、こうすればいいというような正解というものはないと思いますが、金庫本体、さらにグループ全体で、いまより難しいことに挑戦したい。

 そうしたJAグループの活動について、広報にも力を入れます。理事長就任にあたり職員に対する私のコミットメントとして、「トップ自らが広報する」と宣言しました。JAバンクグループをより広く知ってもらえるよう自ら動きたいと思っています。

■森岡 英樹(経済ジャーナリスト)
1957年生まれ、 早稲田大学卒業後、 経済記者となる。
1997年米国 コンサルタント会社「グリニッチ・ アソシエイト」のシニア・リサーチ ・アソシエイト。並びに「パラゲイト ・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年 4月 ジャーナリストとして独立。一方で、「財団法人 埼玉県芸術 文化振興財団」(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

最終更新:7/4(水) 16:01
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