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イタリア経済の先行きに期待は抱けるか?

7/10(火) 15:02配信

ニュースソクラ

イタリア新政権と経済問題

 五つ星運動と同盟の連立政権は3か月余りの迷走の末、6月1日に法学者のコンテ首相の下、同盟のサルビーニ書記長が副首相兼内務相、五つ星運動のディマイオ党首が副首相兼産業相として入閣する形で発足した。広く指摘されているように、この連立政権では1)公約に掲げた減税と歳出拡大により財政収支の一段の悪化が免れないこと、2)ユーロ離脱などの脅しを持ち出してEUとの関係が悪化しかねないこと、の二点にあろう。しかもこの二点は密接に深いつながりがある。

 まず、イタリアの財政事情を見ると、国債残高/GDP比は132%と日本、ギリシャに次ぐ高水準となっている。連立政権は、貧しい南部を最大の地盤とする五つ星運動が月額780ユーロ(約10万円)の最低所得補償を打ち出した。この公約は、五つ星運動がトップの支持率をあげた原動力となったものである。一方で、裕福なミラノ、フィレンチェなどを基盤とする同盟は、富裕層の大幅減税につながるフラット・タックス(15%、20%)の導入について連立文書でも合意した。貧困層、富裕層の双方に大幅減税を実施するという前例のない財政政策が実施されることになる。

 この大幅減税に加えて、1家族当たり3,000ユーロの所得控除や雇用対策に20億ユーロの支出をあてるなどの歳出増、家計への打撃が大きいとして付加価値税(VAT)の自動的引上げにつながるセーフガード条項を停止することなどを合わせると、年間1,000億ユーロ、GDP比6~7%も財政赤字が拡大する、との試算がなされている。

 さすがにコンテ新首相も月額780ユーロの最低所得補償などの実施を遅らせることなどを通じて年間の財政赤字額増加を300億ユーロ程度に圧縮したが、それでも財政ポジションは着実に悪化する。

 ローマの債券市場では、連立瓦解を噂された5月29日に二年物国債の利回りが前日の0.903%から一挙に2.766%まで急上昇(価格は急低下)、10年物利回りも2.461%から3.164%に跳ね上がる混乱を招いた。その後コンテ新首相の下での連立政権発足、などで落ち着きを取り戻したものの、10年物で2.863%(6月11日)と高止まりが続いている。イタリアの国債利回りの上昇は、イタリアの国債を大量に抱えているイタリアの脆弱な銀行システムを直撃する。イタリアの銀行が抱える不良資産は3,800億ユーロ、GDP比25%とEU最大の規模に達している。

 世界最古の銀行であるモンテ・デ・パスキが公的資金注入による不良資産の償却を図ったのは記憶に新しい。国際金融関係者の間では、イタリアの銀行システムが不良資産と国債含み損のダブルパンチで不安定化していくことを恐れる向きが多い。そうなれば信用収縮が生じて中小・中堅企業の倒産が増加、イタリア景気が一段と落ち込むおそれがある。

 このようにイタリアの銀行システムを支えるために公的資金注入が必要となれば資金調達のために国債の発行がさらに膨張して財政赤字が膨らむ、信用収縮が景気を一段と落ち込ませるという「破滅の輪」の存在がイタリア経済の最も弱いところだ。

 余談になるが、公的資金注入を通じるベイル・アウトを制限するために、債権者にも損失負担を担わせる、いわゆるベイル・イン規則が導入された。しかし、イタリアの個人は銀行システムに対する政府による暗黙の保証を信じて、銀行が発行する利回りの良い大量の劣後債を保有しているのでベイル・インで債券保有者に損失を負わせるのは政治的に困難である。連立政権は大衆迎合的にこのベイル・イン規制の抜本的見直しを迫っている。

 EUとの関係では、懸念されたようなEU離脱についてはコンテ首相自らが否定した。通貨ユーロにかえて国内ではリラを通用させるという併行通貨制(パラレルカレンシー)の導入にも踏み込んでいない。しかし、新首相はEUの財政・金融ルールとガバナンスを見直すように強く求めている。例えば、マーストリヒト条約上、財政赤字のGDP比を3%以下にするという財政ルールの変更を求めている。連立政権の財政バラマキができなくなるからだ。

 イタリア国民は、ユーロ導入による競争力の低下とEUによる緊縮政策の押し付けが長期にわたる低成長をもたらしたとして、ブラッセル(EU)とドイツに対する反感が募っている。それが構造改革を重視するレンツィ政権への見限りとポピュリズムの連立政権の誕生につながった。たしかに財政面では18年連続で基礎的収支は黒字であり、貿易収支も自動車、工作機械など北部の製造業のブランド力に支えられて黒字を続けている。ドイツのシュピーゲル紙が「物乞いのイタリア人」と罵倒を浴びせていたが、EU予算でも自国の受け取りより他国への補助金支出が上回り、欧州の他の農業国のように補助金で潤っているわけでもない。しかし、こういう部分的な良き側面も財政赤字、欧州一の不良資産残高などの難点が大き過ぎて覆い隠されてしまう。

 しかし、イタリア経済の長期低迷の根本的な原因は生産性を上回る賃金上昇にある。一単位の生産を行うのに必要な労働コストはハルツ改革と呼ばれる労働市場の弾力化を図ってきたドイツに比べて3割ほど高い。いまイタリアで最も必要とされているのはレンツィ政権が途中で挫折した労働市場の改革、社会保障制度の見直しなどの構造改革を通じて生産性を高め、生産性に見合うところまで実質賃金を引き下げるという辛い政策である。連立政権はまさしく耳心地の良いことを言いつのり真逆のことをしようとしている。そうした中で連立政権はEUに責任を転嫁する安易な逃げ口上を巧みに使って大衆の批判をそらそうとしている。現実への直視をさけるポピュリスト連立政権が運営するイタリア経済の先行きに大きな期待を抱くことはできない。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:7/10(火) 15:02
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