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<生物ゲノム編集>遺伝子削除、規制せず 環境省原案

7/11(水) 21:03配信

毎日新聞

 遺伝子を効率よく改変できる技術「ゲノム編集」で作られた生物について、環境省は11日、遺伝子組み換えの農作物などと同様にカルタヘナ法による規制の対象に加えるかどうか専門委員会で議論を始めた。同省は規制対象の線引きの原案を示し、遺伝子の機能を失わせ新たな品種を作る手法については規制対象外とする方針を示した。今秋にも結論をまとめる。

 ゲノム編集は医学研究を含め幅広い分野で技術が利用されているが、法規制の検討は初めて。環境省はゲノム編集で作られた農作物が拡散し環境に与えるリスクを議論するが、結論によっては食品の法規制などにも影響を与えそうだ。

 ゲノム編集は、特定の遺伝子に狙いをつけて切断し、その遺伝子の機能を失わせたり、外来の遺伝子を組み入れたりする技術。従来の外来遺伝子を細胞に注入する遺伝子組み換え技術より、狙った遺伝子を改変する精度が高い。

 遺伝子組み換え生物については、交雑し在来種に影響を与える可能性があることから、2004年施行のカルタヘナ法で屋内での栽培など自然界との隔離や有害性の評価が義務付けられている。ゲノム編集は新しい技術のため規制対象なのか明確ではなかった。

 環境省の原案では、外来の遺伝子を組み入れる手法については規制対象とした。一方、遺伝子を切断して機能を失わせる手法については、「自然界でも遺伝子が突然変異で欠落することがある」などとして規制の対象外とする考えを示した。

 遺伝子の機能を失わせる場合でも、想定外の遺伝子を改変するミスは起こりうる。その結果、有害な生物を作り出す可能性もあり、委員から「環境に影響を与える可能性があるか議論すべきだ」との意見も出た。【五十嵐和大】

 【ことば】ゲノム編集

 生物の遺伝子に狙いをつけ効率よく改変する技術。「クリスパー・キャス9」という手法が2012年に開発され、使いやすさから農畜産物の品種改良や実験用動物の開発目的で急激に広がった。細胞内で遺伝子を切断する酵素を道具として使う。人の疾患の治療に向けた研究も進むが、倫理的問題も指摘されている。

 ◇食品の安全性 厚労省も検討へ

 ゲノム編集を巡っては、特定の栄養素を増やしたトマトの開発など農作物の分野で国内でも研究が進む。政府は6月にまとめた統合イノベーション戦略で環境影響に加え食品としても今年度中に法的な取り扱いを明確化するよう求めており、厚生労働省も食品衛生法で遺伝子組み換え食品と同様に規制すべきかどうか検討を始める方針だ。

 環境省が11日示した法規制の原案では、遺伝子の機能を失わせる手法で開発された品種は規制対象外とした。農業・食品産業技術総合研究機構(茨城県つくば市)が開発したもみの多いイネは対象外ということになる。ただ、厚労省は食品としての安全性を検討するため、環境省の規制と枠組みが異なる可能性もある。

 ゲノム編集の農作物の規制を巡っては諸外国で対応が分かれる。

 環境省などによると、農業大国で遺伝子組み換えも盛んな米国では、植物の病害虫被害につながらない限りは、食品も含め規制対象にしていない。アルゼンチンは別の生物種の遺伝子が残らなければ栽培について規制対象としないスタンスだ。一方、ニュージーランドなどでは遺伝子組み換えとほぼ同じ扱いで規制対象としており、欧州連合(EU)は各国間で意見が割れているという。

 石井哲也・北海道大教授(生命倫理)は「日本で法規制の検討を始めたことは評価するが、自然界や健康へのリスク、望ましい表示方法など課題は多い。短期間の議論で、一部の遺伝子改変生物を規制対象外とした場合、国民に信頼してもらえるか疑問だ」と指摘する。【五十嵐和大】

最終更新:7/12(木) 1:11
毎日新聞