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中国人民元と株価の下落、どう見る?

7/11(水) 14:01配信

ニュースソクラ

米中貿易戦争より中国経済の減速が原因では・・・

 中国の人民元は下落傾向が続いており、11日も1ドル=6.66元台に下げた。株価も上海総合指数が先月末で2,847.42と6月中だけで1割ほど下落、その後も下落傾向は変わらない。11日も米国の対中輸入での高関税の追加措置の発表を受けて下げている。

 上海株価の大幅下落は東京市場や他のアジア市場へも連鎖した。この株価下落については、米中貿易戦争が激化の一途をたどっているためだと解説されている。

 しかし、仔細に見れば、今後はともかく、現時点では中国の輸出は前年比13%増と2017年中(同8%増)と比較しても好調を持続している。

 一方で、CSI300指数(中国A株市場の300銘柄で構成される株価指数)の消費材関連指数がピーク比12%強の大幅落ち込みとなっているように、株価下落は実は中国の内需を中心とした景気スローダウンの影響が大きい。

 中国の対米黒字は最大といわれるが、同国の経常黒字のGDP比は1.3%に過ぎず、7割強を占める個人消費の影響の方がアリババ、テンセント、中国移動通信などの消費関連企業の業績に大きく跳ね返ってくる。

 内需の減速は中国にとって貿易戦争よりも長期的な成長維持という観点からは大きな脅威であるともいえる。中国だけでなく中国の国内需要の伸びに依存している世界経済にとっても大きな脅威といえよう。

 中国の小売売上高は今年に入っての5か月累計で前年比8.4%増と2003年以来の低い増加ペースに落ち込んでいる。中国の高度成長の原動力となってきた都市部固定資産投資(新規の建設、設備機械、インフラ投資の総計)も5月には前年比6.1%と1999年以来の低い伸びにとどまっている。

 このような国内需要のスローダウンには、「市場主義型社会主義」を標榜する国だけあって、共産党・政府の国家運営方針の変更が大きく響いている。すなわち、中国当局は2008年の金融危機後、4兆元に及ぶ景気対策を実施した。その過程で、国営企業を中心とした大規模投資、シャドーバンキングを通じた土地開発など、安易な信用膨張を生んだ。

 その結果として過剰設備、過剰開発投資や地方政府、国有企業の債務償還問題など、信用膨張の副作用が大きな問題となった。

 このため、中国当局では近年、「デレバッジ政策」(債務負担の軽減策)と呼ばれる信用膨張の軌道修正に動いた。IMFなど国際機関が長らく警告を発してきたこともあり、習近平国家主席ら共産党トップは、債務返済にあえぐ国有企業の整理・淘汰や地方政府の債務削減に取り組み始めた。

 つまり、GDP比240%に達する総債務のデレバレッジを通じて金融危機を生じかねない大きなリスクをコントロールすることと、いたずらに高成長を追わない「成長の質」を重視する道を選んだ。現に今年に入って、国有企業などが発行した債券25銘柄、総額で250億元余りがデフォルトしている。かつてはデフォルトを回避するために銀行に追い貸しを強いていたのと比較すると様変わりだ。

 先日、中国人民銀行が預金準備率を0.5%引き下げて7月5日より実施することになった。一般に預金準備率の引き下げは政策金利の引き下げと同様に金融緩和効果を生む。中央銀行に預け入れを義務付けられた預金が少なくて済むのだから資金が解放され、その分が貸し出しや証券投資に使われるためだ。

 今回も大手銀行にとっては5,000億元規模の資金開放となったが、人民銀行はこれを国営企業の債務返済の軽減に通じる債務の株式化(デット・エクイティ―・スワップ)に充てるように指導した。必ずしも景気浮揚を狙ったわけではなく、デレバッジ政策の一環でもあるようだ。

 繰り返しになるが、中国の内需のスローダウンの背景は、まず個人消費がシャドーバンキングに対する規制強化などから消費者信用が急速に絞られてきたためだ。また地方政府によるインフラ投資などの支出が急速に減少したため、固定資産投資も伸び悩みを示している。つまり、デレバッジ政策が効いてきたともいえる。

 ただ、中国の社会科学院では債券のデフォルト、人民元の切り下げ、米国FRBによる金利引き上げ、ワシントンとの貿易摩擦が複合して金融パニックがおこりかねないことを警告している。すでに内需のスローダウンも目立ってきているうえに7月6日に米中双方で高率関税の適用をきっかけに貿易戦争が深まった場合、中国当局はどういう政策を選択するのであろうか。

 FRBが利上げに踏み込むときに中国人民銀行が景気刺激のために金融緩和政策をとれば、大量の資本流出を招くであろう。人民元も急落して為替市場での大規模介入が必要となる。貿易戦争についても中国が通貨安を武器にすることはないとみられるが、報復合戦が強まれば、市場圧力で人民元安が加速しかねない。このシナリオが中国人民銀行にとっては最悪のシナリオであろう。

 従って、中国人民銀行は金利を引き下げる、非公式な貸出の割り当て政策で国営企業に資金を供給する、といった金融危機後の2010年、最近では2015年にみられた広範な金融緩和策は採れないであろう。預金準備率の再引き下げくらいが精一杯であろうか。

 財政面でも金融危機後に採用した地方政府による支出増大を通じる景気刺激も債務累増の中で不可能である。むしろ習近平政権は、デレバレッジ政策を最優先課題とするスタンスを維持していき、過剰債務や不良資産問題をそのまま放置すれば金融危機が起きかねない事態になるのを防いでいくであろう。

 このことは、株式市場、為替市場に今後も下方プレッシャーがかかりやすいということを意味するのではないか。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:7/11(水) 14:01
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