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ラグビー日本代表、3年でキック倍増 変わる戦術

7/12(木) 5:27配信

朝日新聞デジタル

 2019年秋に自国開催のラグビーW杯を控える日本代表は、6月のテストマッチ3連戦を2勝1敗で終えた。イタリアに1勝1敗、スクラム強国のジョージアには完封勝ち。「非常にいいテストマッチシリーズだった。W杯に向けて、チームのキャラクター(特徴)が確立してきたのはうれしい」とジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)は手応えを口にした。

【写真】6月のテストマッチでは代表に一体感が出てきた=6月23日のジョージア戦、上田潤撮影

 日本の戦いで目立ったのはキックの活用だ。インプレー中のキック数は、最も多かったジョージア戦で46回に上った。南アフリカを破るなど健闘した15年W杯の日本は、1試合平均16回だった。今回は平均36回。この3年で2・2倍に増えた。

 日本のラグビーではかつて、「不用意に蹴るな」とキックの多用を戒める風潮があった。今でも球を保持するより、運任せに見えるキックを否定的に捉える見方は一部にある。

 なぜ、今の代表チームはキックを多用するのか。球を一度、相手に渡す可能性が高いキックをあえて選ぶ利点はどこにあるのか。日本初のプロキックコーチ、NTTコムなどで司令塔を務めた君島良夫氏(34)にその理由を聞いた。


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 雨の中で行われたジョージア戦(6月23日)で、日本が46本のキックを蹴ったのは作戦として常道だ。球がぬれて滑りやすくなれば、捕球ミスを起こしすいからだ。それでもジョージアは34本。日本がキックを意識的に多用していたことが分かる。

 キックの活用は、今の防御システムと密接に結びついている。

 グラウンドの横幅約70メートルを11人ほどが平面になって素早く押し上げるのが今の防御の主流。一方、その横一線の防御の後方にある空間を守るのは、だいたいSHとバック3(両WTB、フルバック)の4人だけ。攻撃側は、平面的な「2D」でなく立体的な「3D」の視点を持ち、広いスペースに精度の高いキックで球を運んだ方が効率的だ。日本はそのゲーム構造に従って、キックの選択肢を増やしている。

 日本のキッカーはSHの流と田中、SO田村が右利きで、CTBのラファエレ、トゥポウが左利き。一般的に右利きの選手が多いから左サイドへのキックは課題となるが、両CTBや流の逆方向への巧みなキックで、両サイドに蹴り分けていた。バランスの良さは日本の強みだろう。

 日本に思いつきのキックは皆無だった。誰がどのスペースに蹴るか、チームで明確に決めているように見えた。あえて田村をSOの位置に置かず、2番目の受け手にするなど、彼の重圧を減らす工夫もあった。

■課題はハイパント

 日本のキックの種類は主に三つ。(1)オープン方向のハイパント(2)SHのキック(3)両端のWTBの背後を狙った斜め方向へのキック。課題は(1)か。自陣からのハイパントは、再獲得率を50―50にすることが狙いだが、ジョージア戦の前半はおよそ30―70で相手優位になっていた。いずれのパントも距離は約20メートル、高さもあって質はよかった。ただ、大柄の欧州勢が相手だと競り合いで分が悪くなっていた。

 日本は後半からキックの種類をがらりと変えた。ハイパントでなく、ロングキックで相手を背走させる戦いに切り替えた。試合中の修正力から、チームの成熟がかいま見えた。

 11月のニュージーランド戦や来年のW杯を考えると、ハイパントやロングキックなどを相手の戦術や時間帯によって使い分けることができるようになるといい。ロングキックの場合、直前の攻撃で相手のWTBを前に引き出すなどの工夫は不可欠。もちろん、チーム全体としてキックの追い方の精度も高めたい。

 ジョセフ態勢になって成長を感じるのは(3)だ。WTBの背後はどのチームにとっても弱点となる。イタリアとの第1戦でトライにつながったキックパスや裏に転がすキックは、今後も有効になるだろう。

 キックをトライにつなげるには蹴り手の精度だけでなく、外側の選手の声出しや追い方も重要だ。いわゆる「あうんの呼吸」、アイコンタクトによる以心伝心といった選手間のリンク(連係)を深めていく。日本の伸びしろはそこにあると思う。そのために、代表やサンウルブズである程度選手を固定化することが有効ではないだろうか。

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 きみしま・よしお 元NTTコム、日野自動車。豪州協会公認コーチライセンスのレベル1、2を取得。キックを専門的に指導する「ジャパン・エリート・キッキング」代表。(野村周平)

朝日新聞社

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