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これからのオーディオ、音・技術に注目のAVアンプ。山之内正×本田雅一【'18夏音響機器編】

7/12(木) 8:00配信

Impress Watch

 春・夏モデルのオーディオ&ビジュアル機器の新製品が出そろった7月。AVアンプの注目製品やオーディオ関連のトピックも目白押し。オーディオビジュアル評論家の山之内 正氏と本田雅一氏が、この夏の注目製品・トピックについて語り合う。前編(テレビなどのビジュアル機器)に続き、後編ではAVアンプやホームオーディオを中心にお届けする。

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■AVアンプ:デノンX8500HとヤマハのSURROUND:AIに注目

本田:AVアンプに関しては、このところ大きなニュースはありませんでしたが、今年は二つの注目される動きがあったと思います。ひとつめは、デノンが久々に放った高級機のAVC-X8500H。この製品の音はイイですね。

山之内:他社製品も含めて現行モデルのなかでは飛び抜けた存在で、特にオブジェクトオーディオの立体的な空間表現力、イマーシブオーディオのリアルな立体音場は別格と言ってもよい。一体型のAVアンプでここまでのクオリティ感を実現したことに驚きました。

本田:デノンは音質調整を担当するサウンドマネージャーが世代交代し、音質傾向がこの数年、ガラリと変わりました。低価格帯で音質改善のトライアルをいくつかやってきて、ここに来ての高級機。セパレートでなくても、ここまで音楽的に優れた表現力ができるということで、内蔵アンプの改良で、まだまだ魅力を引き出せることを思い知らされました。また、同じサウンドマネージャーが一貫して担当することで、下位モデルのAVR-X2500H、AVR-X1500Hまで音を揃えている点も評価します。

 もう一つの注目すべき動きがヤマハAVENTAGEシリーズに搭載された「SURROUND:AI(サラウンドAI)」ですね。RX-A3080、RX-A2080、RX-A1080を発売しますが、いずれもシネマDSPを進化させた「SURROUND:AI」を載せてきました。

山之内:シーンごとに音響を解析して最適な音場をシームレスに適用する技術ですね。元を正せばサラウンド音場のDSP処理はヤマハが作り出したもの。実にヤマハならではのアプローチとして楽しみです。

本田:入力されるサラウンド音声を、200ミリ秒単位のウインドウに分割。各ウインドウごとに”どんな特徴のサラウンド音声か”を検出して、DSPプログラムを少しづつ変えていきます。“どんな特徴か”は、特徴的な音を抽出してその位置や音場内での分布などを調べ、あらかじめ作り込まれたデータベースを参照して判断しています。急に変化するとおかしな事になるので、”DSPプログラムの違い”が各要素同時にクロスフェーダーで少しづつ変わっていきます。200ミリ秒単位で”どの方向に動くか”を判断しているので、特定の音場モードになるわけではないんですね。

 周りが静かでセリフ中心、BGMがないシーンだとスーッと音場全体が静かになってセリフが際立つようになったり、セリフを立たせつつも前面に展開する音場を豊かにしたり、あるいは全方位を取り囲む音を圧倒的なスペクタクルで包んだり。「スペクタクル」や「Sci-Fi」なんてプログラム、あまり常用はしないものですが、そうしたプログラムの特徴をただ観ているだけで、シーンごとに不自然さなく楽しめるのですから画期的な体験でした。

山之内:ヤマハは音場創技術の研究を30年以上続けてきて、ホールの音場測定を地道に積み重ね、音響シミュレーションの精度を確実に高めてきました。今回のSURROUND:AIはその膨大なデータベースがあったからこそ実現できたものです。反射波の測定など、現実には手間のかかる地味な作業だけど、今回の技術はその延長上に結実した集大成と言えそうですね。

本田:一昨年まではAVENTAGEの中でも1000番台、2000番台、3000番台で音質傾向が異なっていたのですが、昨年は各機種の音の質感が一貫していました。さらに遡ると、数年前にサラウンドプログラムを更新して、各DSPプログラムが自然なものになった。こうした取り組みは、今年のSURROUND:AIと関連した動きなのか? と尋ねたら、ヤマハの担当者は“その通り”と。場当たり的ではなく、戦略的にこの機能を導入したのでしょう。

 ヤマハは他社があまり更新していない自動音場補正機能も、多点測定による高さ方向の角度測定や反射波の打ち消しなど、継続的に改良を進めてきています。そうした音場を整えるという部分があるからこそ、SURROUND:AIのような細かなDSP効果が生きてくるのだと思います。

山之内:フランスのSTORM AUDIOが日本にも導入され、デジタルプロセッシングのプリアンプとマルチチャンネル仕様のパワーアンプがまもなく登場します。同社はAuro 3Dを開発したAuroテクノロジーのグループ会社なので、Auro3Dの再生クオリティが高いのは当然として、他方式も含めてクオリティの高さが抜きん出ています。セパレート型のAVアンプ市場に一石を投じる存在になるかもしれません。

本田:Auro 3Dは、なぜすでにドルビーやDTSがオブジェクトオーディオのフォーマットを定義しているのに、なぜ新しいフォーマットを……と思っている人もいると思います。しかし、実際に聴いてみると、実に音楽をリアルに再生する。このアプローチはDolby AtmosやDTS:Xとは異なり、純粋な音場再現を目標としていることがわかります。

山之内:映画のサラウンドでも採用例が増えていますが、優れた録音で聴くと音楽のサラウンド再生で特別な臨場感を発揮します。昨年ベルギーのギャラクシースタジオでその音を実際に体験しましたが、良質なイマーシブオーディオの立体感は次元が違います。

AVアンプ トレンド分析(山之内)

 AVアンプはHDオーディオが登場した頃に比べると市場規模が小さくなったが、オブジェクトオーディオへの対応を機にデジタル処理能力など基本性能のステップアップを果たし、チャンネル数の拡大やピュア志向の高まりなど、音質改善に取り組む姿勢は健在だ。

 技術的アプローチ自体はハイファイアンプと共通するものが多いとはいえ、サイズの制約のなかでそれを実現するノウハウに各社の工夫をうかがうことができる。デノンの最新ラインナップは本質的アプローチでアンプの基本性能を追求することで、サラウンド再生の新しい境地を切り開いた。

 デノンとは対照的だが、独自技術を駆使して音場再生の完成度を追求してきたヤマハのアプローチにも注目する必要がある。シネマDSPがもたらす広大な3次元音場や壮大なスケール感は他では置き換えがたい魅力があるが、すべての作品、あらゆるシーンで最良の効果を発揮するほど万能なものではなく、音場モードの選択の難しさもつきまとっていた。最新のAVENTAGEに搭載されたSURROUND:AIは、そうしたシネマDSPの実用的な課題を一気に解決することを狙ったもので、大きな可能性を秘めている。

ピックアップ製品(山之内)デノン AVC-X8500H

一体型で13chのパワーアンプを構築しながらクオリティでも新しい次元を切り開いた重要モデルである。ステレオ再生時だけでなく、ハイトスピーカーを加えたアトモス再生やイマーシブオーディオの音源からもチャンネルセパレーションの高さが明確に伝わる。その混濁のない立体音場は高く評価すべきものだが、それに加えて密度の高さと重心の低さをあらゆる音源から体感できる。良質でしかも重量級の低音で澄んだ音場を下から支える本機の音調はまさに私の好みにピタリと合致するものだが、複雑をきわめた現代のAVアンプにそれを求めると、該当するモデルは意外に少ない

マランツ NR1609

リビングと両立できるシアターを目指すなら大出力のAVアンプにこだわる必要はない。NR1609は高さと奥行きを抑えた「ラックに収まるAVアンプ」の最新機種で、定格出力は50W/chと控えめながらハイファイ水準の音質を確保しており、オブジェクトオーディオにも対応する。良質なブックシェルフスピーカーと組み合わせたステレオ再生、スリムなトールボーイスピーカーをフロントに据えたサラウンド再生のどちらのスタイルでも混濁のないクリアなサウンドを狙える

ピックアップ製品(本田)ヤマハ RX-A3080/A2080/A1080

SURROUND:AIは実に画期的な機能。200ミリ秒単位で音場タイプを識別し、クロスフェード効果で少しづつシーンごとのDSPプログラムを変化させる。変化の幅は意外に大きいが、実に巧妙にシーン間をつないでいくためまったく不自然さを感じない。64ビット演算の音場補正と合わせ、全グレードで極めて質の高いサラウンドプロセッシングが行われる。音質面でも進化。A3080は新型DAC搭載でS/N感が抜群にいいが、お買い得感で言えば、アンプ部のグレードがほぼ同じA2080はシリーズ最高

デノン AVR-X8500H

普及価格帯の製品で音質改善に取り組んできたデノンだが、今年はX8500Hというパワーアンプ内蔵の一体型では最高峰となる製品を投入。13チャンネル分のアナログアンプを独立基盤で構成し、Dolby Atmosの場合は最大7.1.6、あるいは9.1.4といったスピーカー構成のシステムを内蔵アンプだけで構成できる。アップミックス性能が高く音楽ソフトでの自然な聞こえ方が魅力なAuro 3Dにも対応。音質は同社製2チャンネルオーディオ機器の流れを汲む”オーディオの薫り”漂うチューニング。価格帯は異なるが、X2500H/X1500Hとの音質の一貫性もあり、デノンAVアンプの確たるポリシーを感じさせる

■ホームオーディオ:これからのオーディオを考える

山之内:本田さんは自宅でリンを使っていますよね。

本田:DSがソフトウェアアップデートでRoonのRAATというプロトコルに対応したので、ストリーミング用のハイレゾフォーマットであるMQAも、Roonサーバでデコードした上でLINN Klimax DSMで聴いています。理由は実のところよくわからないのですが、RAATの方がDLNAはHome PNAでのネットワークオーディオよりも音がいいんですよ。それだけでも喜ばしいのですが、聴き慣れているLINN DSの音でMQAが聴けるのはいいですよ。

山之内:リンのDSは新しいDACアーキテクチャ「KATALYST」を導入したあと、DSDとRoonと立て続けに対応を広げて話題になりましたね。

本田:現社長のギラードはクレバーというか、お父さんを継いで社長になるまではノキアの幹部だったんですよね。IT系のトレンドやテックカルチャーも理解した上で経営を学んでいて、現代的な考え方の中で高級オーディオメーカーを運営している。ビジネスマンでありながら、オーディオメーカーとしてのプライド、ポリシーも持ち合わせている。

山之内:ギラードは早い段階からネットワークオーディオの可能性に注目していて、このプラットフォームから将来はどんどん可能性が広がると言っていましたが、それが現実になってきたように思います。

 MQAはOTOTENでもデモをやりましたが、ストリーミングへの展開がライヴに広がりそうで楽しみです。ストリーミングサービスの音質向上はTIDAL、Deezerと少しずつ広がっていますが、ハイレゾ対応となるとやはりデータの大きさがネックになるので、そこで重要な役割を演じるかもしれない。

本田:海外の高音質ストリーミングサービスでは日本の音源は聴けませんから、邦楽をカバーできる高音質ストリーミングサービスの充実は、国内市場における課題ですね。

山之内:そうですね。再生スタイルの多様化は続き、ディスク、ダウンロード、ストリーミングの3つが併存していくことになりそうです。音楽市場全体では世界規模でストリーミングが優勢ですから、日本国内でも長期的には同じ流れでしょう。しかし、国内の高音質ストリーミングサービスの動きの鈍さは懸念ですね。

 既存のメジャーなストリーミングサービスは音質面で不満があり、TIDAL等の海外の高音質ストリーミングは未参入、または邦楽を中心としたコンテンツ不足という課題を抱えています。その不満を解消するのは、日本の音楽ファンにも照準を合わせた使い勝手の良い高音質ストリーミングしかない。その期待に応えるサービスの登場を期待したいですね。

山之内:もっともMQAについては、MQA-CDがそのまま聴けるのでいまはUDP-205で再生しているけど、いずれMytekのBrooklyn DAC+を導入しようかと……

本田:Brooklyn DAC+はいいですね。フォノイコライザ内蔵でアナログ入力もあり、ボリュームコントロール機能もあるのでプリアンプ的に使えます。何より、あの価格帯(約27万円)では飛び抜けて納得できる音質だと思います。

山之内:同じ意見です。使い勝手の良さという点でもManhattanよりBrooklyn+の方が良い。

本田:スピーカーではKEFのQ350を書斎用のコンパクトなシステム向けにオススメしたいですね。記念モデルのLS50も優れた音質でしたが、それ以上に現代的に洗練された音を出します。何より彼らがずっと開発を行なってきたUni-Qが、ここで大きく進歩した。もちろん、最新のアンプで鳴らすのもいいのですが、シングルの真空管アンプと組み合わせて女性ヴォーカルをしっとり楽しみたいと思いました。

山之内:Uni-Qドライバーは年々進化していて、聴くたびに良い音がしていますよ。この価格で買えるスピーカーのなかでは、たしかに抜きん出た存在でしょう。

ピックアップ製品(山之内)MYTEK Digital Brooklyn DAC+

MYTEKのD/AコンバーターはLiberty DAC、Manhattan DAC 2にBrooklyn DAC+を加えた3機種構成になったが、私が好む音が出てくるのは間違いなくBrooklyn DAC+である。+が付く前世代から評価していたが、情報量と音色表現のバランスが以前よりもナチュラル系の音色に変わり、クラシックを中心にしたアコースティック音源の空間表現力も同価格帯のD/Aコンバーターのなかでは抜きん出ている。精密感のある本体ディスプレイも使い勝手がよく、MQA信号入力時の表示も見やすい。デスクトップオーディオのコアモデルとして本機を選ぶか、さらにコンパクトで信頼性の高いRMEのADI-2DACを選ぶか、悩んでいる最中なのだが、MQA対応のアドバンテージをとるなら前者だろうか

ピックアップ製品(本田)MYTEK Digital Brooklyn DAC+

MYTEK Digitalは元々レコーディングスタジオ向けプロ機材のメーカーとして誕生。ボスのミーハウ氏はスタジオのテックエンジニアとしてノウハウを蓄積し、機器設計・販売の世界に入ったそうだが、いずれの製品もスタジオでの徹底した音質チューニングを経て投入されているとのこと。特定の音色を伴うのではなく、徹底したS/Nの改善がもたらす、情報量と音場の広さ、ふくよかな中域の充実感が魅力だ。その音質はトップモデルのManhattan DAC IIに迫る。コンパクトでフォノ、アナログライン入力も備え、プリアンプ的な使い方も可能。ユニティゲインも設定できるため、AVアンプと組み合わせたハイブリッドシステムも構成できる万能性も魅力だ

LINN DSシリーズのRAAT対応

”製品”そのものではないが、継続的なアップデートで機能を強化してきたLINN ProductsのネットワークオーディオプレーヤDSシリーズ(プリ機能を内包するDSMシリーズを含む)が、ROONのオリジナルプロトコルRAATに対応した。ROONサーバはDSDやMQAのPCM変換も可能であるため、旧モデルを含め実質的な再生可能フォーマットも拡がったことになる。しかし、これだけで話は終わらない。DLNAやHome PNAで聴く時よりも、音場の見通しが良くなる。筆者宅は最新DAC「Katalyst」ではない先代モデルのKlimax DSMだが、音質改善が図られるとは思っておらずアップデートで「あれっ?」と思った次第。LINNはハードウェアを最新世代に更新するアップデートプログラムも提供するなど、一度導入すると”長期間楽しめる”安心感を提供。以前には音場補正機能がアップデートで提供されたこともある

KEF Q350

7万円を切る価格帯でコンパクトスピーカーの真髄を楽しめる。コンパクトと言っても、16.5cmユニットは現代の基準では大きいスピーカーとなろうが、その分、低域の再生能力には余裕がある。その活気ある切れ味の良さ、同軸2ウェイのUni-Qによるフォーカスの良さは、マルチウェイのトールボーイにはない魅力がある。ホームオーディオ入門を考えているならぜひ試聴を。イヤホン、ヘッドフォンにはない魅力がそこにはある。

■ポータブルオーディオ他:4.4mmバランス出力

本田:ポータブルプレーヤーで注目しているのはFiiOのX7 Mark IIです。価格帯的にはミドルレンジの中でも少し高め……といったところですが、彼らのランナップの中ではハイエンドで、アンプをモジュール式にして交換可能になっています。

 本来の目的は、異なる仕様のアンプや将来のモデルチェンジ時にもアンプモジュールだけアップデートできるようにすることなのですが、2.5mmと4.4mm、異なるサイズのバランス端子を備える同じアンプ仕様のモジュールが用意されているんですよ。同じプレーヤーで端子だけが異なる比較ができる。

 実際に聴いてみると、4.4mmの方が重心が下がるだけでなく、圧倒的に情報量が多い。端子だけでここまで変わるのか! と驚きますよ。あるいは、この体験が拡がれば、4.4mm規格が拡がるかも知れませんし、個人的にも普及して欲しいと感じました。

山之内:ハイファイとは違うけど、スマートスピーカーや肩乗せ型などウェアラブルオーディオの製品は意外なほど音質の違いが大きいですね。聴き比べてみると、ハイファイ分野ではあり得ないほど個々の製品の音が違う。

 ボーズのSoundWearやソニーのSRS-WS1などウェアラブルの製品を実際に聴いてみて気付いたのは、耳との位置関係を微妙に変えてみると、びっくりするほど良くなる位置があること。だけどその位置では固定できない(笑)。個人差もあるのだろうけど、音質改善の余地も大きいと感じました。新しいリスニング体験が得られることは間違いないけど……

本田:ハイファイ方向とは異なる進化はもっと注目されるべきですよね。たとえばHearableというトレンド。Xperia Ear DuoやAmbieなど、日常生活に溶け込みつつも、しっかり音を届けるというコンセプトは新しく面白い。単に音楽を聴くだけでなく、さまざまな情報を音を通じて届けてくれる。ところが、ハイファイ製品のエンジニアは、このトレンドをまったくキャッチアップしていない。高音質化とは別の進化軸があるということを体験、知った上で次の製品を創生して欲しい。

山之内:高音質だけにこだわっていると新しい用途が広がりにくいということでしょうね。音が良くて自由に使いこなせるというものがあれば、たとえば楽器演奏のときのモニターなどにも使ってみたい。需要があると思いますよ。

ピックアップ製品(本田)ソニー NW-ZX300

ソニーの高音質ポータブルプレーヤーと言えば、やはりWM1シリーズとなろう。しかし筆者の一押しはZX300。音質傾向はWM1Zに近く音の質感を上質に、丁寧に描き分けてくれる。音像もシャープではあるが、強調する傾向はなく、自然に滑らかなに優秀なハイレゾ音源が持つ情報量を描ききる。誤解を恐れずに言うならば、WM1Aよりずっと好み。この価格帯にライバルはいないと思うほどだが、独自OSということもあって高音質ストリーミングサービスへの対応で立ち後れているところだけが残念。

FiiO X7 Mark II

FiiOのポータブルオーディオプレーヤーは、Android 5.0をベースに独自に構築したシステム。Google Playアプリに対応しながらも独自のオーディオ再生経路でAndroidのデジタルミキサーを迂回して高音質再生する。このためAndroid版のあるストリーミングサービスがすべて利用できるのは利点。ただしアプリからの再生時にはAndroidのミキサーは回避できない。X7 IIはESSのモバイル向け最新DACを搭載する同社最上位機だが、アンプ部が別モジュール仕立てとなっているのが特徴。バランス出力端子を2.5mmと4.4mmから選択可能だが、注目して欲しいのはどちらも同じアンプということ。聴き比べれば剛性の高さによる利点は明らか。これをきっかけに4.4mmが普及してほしいものだ。

Xperia Ear Duo

カフェで過ごしているとき、どこかから音楽が漂ってくる。高音質でも情報量豊富でもないが、心地よく音が届く。そんな感覚を味あわせてくれる本機は、極めて独特の存在。音楽を流し続けつつ、時折、スマートフォンに届く情報からあらかじめ選んでおいた種類の通知だけ、音声で知らせてくれる機能(Androidスマートフォン時のみ)もある。あたまを動かすだけでスマホに意思を伝えるなどの新基軸もあり、さらにはランニングやフィットネスでも外れにくく使いやすい。本企画の趣旨とはやや離れた製品ではあるが、この製品が属する"Hearable”というジャンルは抑えておきたいところ。

■レコード:レコードならではの良い音の復活

山之内:レコード人気はいまも続いていて、テクニクスが高級ターンテーブルSL-1000R/SP-10Rを発売したり、ソニーミュージックがレコード生産に再参入するなど、2018年前半も話題が豊富でした。

本田:テクニクスが近年、尊敬を集めるようになったのも、質の高いアナログ機器を本気で開発しているからですよね。SL-1000R/SP-10Rを聴くと、正直、「えっ?!」という驚きがあると共に、昔はこうだったよなぁという精神的な安定感を感じるというか。

山之内:レコード文化はいったん途切れたように見えるけど、実は脈々と生き続けています。海外も同じで、今年5月にミュンヘンで開催されたHIGH ENDでは、SL-10シリーズやSAECのトーンアームなど往年の名機復活が話題を呼び、テクダスのAirForceシリーズやDSオーディオの光カートリッジなどの展示にも連日多くのレコードファンが押し寄せていました。

本田:アナログディスクは、一時、リバイバルで流行しはじめたとき、これは金儲けになるぞと一部のレーベルが音の良くないディスクを多発したんですよね。あれで、アナログディスクの音がたいしたことはないと思った人もいるかもしれない。しかし、きちんと作られたものは本当に良い。スタジオのセッションをダイレクトカットした盤など、生で聴くよりも良いと感じるぐらい。本物のエンジニアがリアルタイムミキシングで、ダイレクトカッティングのセッションを管理するとそんな音が出てきます。映像で言うとHDRとSDRぐらい、生々しさがデジタルとは違いますよ。

山之内:ダイレクトカットも含めて、本当に良いレコードの音がどんなものなのか、多くの音楽ファンに実際に体験して欲しいですね。違いを実感できれば、レコード人気がたんなるレトロ趣味ではないことに気付くので。

 テクニクスのSL-1000Rはトップエンドの製品を求める人向けだけど、サイズと形状の互換性があるので従来システムを持っているならターンテーブルユニットだけSP-10Rに変えれば最新世代の音に生まれ変わり、投資は半分で済みます。

 そこまで本格的なものではなく、ミドルクラスで良質なターンテーブルを探している人にはロクサンのRADIUS 7をお薦めします。ロクサンは最近再び輸入が始まった英国の名門ブランドで、上位モデルのXERXES(ザクシーズ)もまもなく日本市場に再登場する予定です。

レコード関連トレンド分析(山之内)

 今年はオルトフォンが創立100周年を迎え、オーディオは100年を超える歴史があるということをあらためて思い知らされた。LPレコードに限っても60年以上の歴史を重ねており、その間に膨大なノウハウを蓄積してきた。

 アナログオーディオはデジタル以上に経験が物を言う世界だが、それはリスナーが関われる要素が多いことも意味し、自分好みの音に追い込む余地がデジタルよりもはるかに大きい。カートリッジ、ターンテーブル、フォノイコライザーなど機器の選択と組み合わせも重要だが、チューニングやメンテナンスもそれと同じぐらい音質を左右する。

 要素が多いだけに迷路に迷い込むリスクもあるが、ターンテーブルの基準機ともいうべきSL-1000Rが復活し、聴き手が目指すべきリファレンスが再び明確になったのは素晴らしいことだ。コンポーネントやアクセサリーを開発するメーカーも含め、音作りの指標が定まったことには深い意味がある。

 ハードウェアと同様、レコード製作についても明確なコンセプトが求められる。流行に流されるのではなく、録音段階からレコード再生を視野に入れて音を作り上げていくことが重要だ。レコードは演奏現場の原音を忠実に再現することに加えて、家庭のオーディオシステムで理想的な音を再現することを目指したメディアという側面が強い。需要復活を好機としてとらえ、アナログオーディオならではの良い音の探求がこれからも続いていくことを期待しよう。

ピックアップ製品(山之内)LINN Klimax DS/3(Katalyst仕様)でレコード再生

新DACアーキテクチャのKatalyst仕様にアップグレード後、Klimax DSの潜在能力が再浮上した感がある。僅かに残っていた歪とノイズから解放された澄んだ低音、純度の上がった音色表現はPCMとDSD共通の美点で、音場の立体表現も一段階上のステージに上った。Sondek LP12にURIKAIIを組み合わせ、後者のデジタル出力をKLIMAX DS/3に入力すると、アナログ微小信号領域のチャンネル間偏差やノイズを一掃したレコード再生が可能になり、デジタルプロセッシングでレコードを聴く最良の環境が手に入る。2018年前半に聴いたなかで最も強い衝撃を受けた音である

Roksan RADIUS 7

ロクサンのターンテーブルはザークシーズの名声が高く、姉妹機のRADIUSが脚光を浴びることは少ないのだが、実際に聴いてみるとこの価格帯(36万円)のターンテーブルのなかでは基本性能、デザインともに格上の水準にあり、再評価すべきモデルと実感した。構造はシンプルだが信頼性が高く、アイソレーション機構の完成度も高い。言われなければガラス製と見紛うほどの精度の高いアクリルの仕上げも見どころだ。1点支持ピポット採用のトーンアームは取扱いに少々気を使うが、いったん針を落とすとトレースはきわめて安定する

Technics SL-1000R/SP-10R

かつて放送局のリファレンスとして使われていた基準機が30年以上の時を隔ててハイエンドオーディオファン向けに復活&リニューアルした。回転制御や工作精度など現代の技術を投入して性能向上を果たしたことも技術的側面では非常に重要だが、レコード世代がリファレンスとして直接または間接的に聴いてきたレコードの音の基準が現代に蘇ったことも見逃せない。レコード文化が今後も継続して発展するうえで欠かすことのできない製品の一つである

AV Watch,山之内正,本田 雅一

最終更新:7/12(木) 11:07
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