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定年を正しく理解し、その対応を間違わないように

7/12(木) 10:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

※この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。

 アメリカのビジネスマンは、世の中に確かなことは2つしかない、死と税金である、という。

 それ以外のことは、自分で解決してみせる、という反語でもある。死も、現世で功徳をつめば、来世は天国で楽しく暮らせる、ということで、解決できる。宗教界はそれで繁盛している。税金も、国のためと思えば、払いやすい。私の人生の師、ソニー創業者の井深大は、ソニーは国のために働いているのです、と言っていた。私の小さな人材紹介会社も、創業以来15年、節税、減税など考えたこともないし、税金は人件費に次ぐ最大の支出項目である。あまりもうかっていないので、納税額が少ないのが恥ずかしいだけである。

 日本のビジネスマンにとって、確かなものは、もう一つ、定年がある。それは必ずやってくる。定年もその正体を正しく理解し、対応を間違わなければ、人生にとって非常に有用なものである。現今の、老後の不安は、定年制度の誤解に起因することが多い。アメリカには定年はない。日本もそうすべきだ、と言う人がいる。とんでもない。定年が無ければ、一年契約のプロ野球選手と同じで、毎年が定年である。子育ても、マイホームもままならない。定年があるから、長期の安定したキャリアプランができる。定年は、長期安定型の日本の文化に非常に適切で、もっと大切にしなければならない

 定年制度は、平均寿命の延び、高度成長経済の終焉(しゅうえん)、人口減少などにより、本来予想していなかった混乱と不安を生み出している。それはもちろん定年の罪ではない。不要な社員を強制的に退社させる定年制度を、花束や感謝状で美化した企業側にも責任があるが、発生時間と場所が明確な災難の対策を十分に実行していない社員にも罪がある。またそのような、社会の変化に、定年延長、高齢者雇用促進資金、高齢者教育などの、まったくの愚策でしか対応できていない政府の怠慢も問われるべきと思う。

 人生は登山のようなものである。登山は苦しいが頂上という目標がある。下山は達成感があり、楽だし、景色も楽しめる。定年は頂上で中間点である。多くの場合、下山は楽しくしやすい。まして、家庭や、仲間が祝杯で待っていたら、そんな楽しい事はない。そのような下山は、登る途中で、あるいはその前にしっかり計画しておかなければならない。

 私の事務所には、定年前後の人がたくさん相談に来る。一昨日のこと、元ソニーの社員で以前相談を受けたことのある技術者の人から、急にちょっと会いたいという連絡があった。よくあることで、今の仕事がうまくいかなくなったのだろうと予想していた。

 話を聞くと、10年近く前に、ソニーの希望退職制度を利用して退職した。就業した先の会社が、5年ほどで、経営不振になり退職した。私の会社に相談に来たのはその時で、その後自分で見つけた会社に就職した。担当の職務は新製品の開発である。60歳になったが、会社から、今の仕事を65歳まで継続してほしいと言われた。給与も仕事の内容も同じなので、それを受けることにした。あと5年は大丈夫です、ということで、お礼に来ました、と菓子折りをだされた。

 私もびっくりしたし、うれしかった。あと5年たったら、近所のスーパーで、荷さばきの仕事をしようと思っています。いつも求人していて困っているようだし、体力にはまだ自信がありますから、と話す。その後も、まだ働くつもりらしい。なぜ私のところに、お礼に来たかというと、以前私の会社に来た時にアドバイスされたことを実行したら、うまくいきました、全て郡山さんのおかげです、という。

 何を話したかは覚えていない。おそらくいつもの、自分の人生は、自分で設計して作っていきなさい。高年齢になったら、仕事は自分で探すしかない、できること、やりたいこと、をしっかり決めて、安い、辞めない、休まないを売りものにして、来てくださいというところがあったら、迷わずに飛び込む。仕事を大事にして、周りの人たちの喜ぶ顔が最大の報酬と思って、楽しく毎日を終えるようにする、いかがでしょうか、という話を、いささか人生の先輩顔でしたのかもしれない。

 これは、私は、定年後の成功例の一つだと思う。高年齢者は多様性があり、一般論にはしにくい。

 ただ、成功例には少し共通点がある。それは、過去と、完全に切れていることである。逆に失敗例の多くは、過去に振り回されている。「過去には何の価値もない。現在を未来のために使うしかない」というのは、ソニーの共同創業者、盛田昭夫の名言である。

 定年は確かに来る。それは終点ではなく、通過点である。そこまできたら、過去ではなく未来を語ろう。その未来を、楽しく、面白いものにするために、十分に準備しておこう。

 私自身は、準備をしておかなかったために、決して順調ではない、定年後を過ごした。そして今、少し定年後を理解したおかげで、定年前より幸せになっているように思われる。私の体験と意見を書いた小さな本で、少しでも、皆さんのお役に立てれば、望外の喜びに違いない。

(郡山史郎)

ITmedia エグゼクティブ

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