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社会保障・財政再建の両立へ 経済回復政策、組み直しを

7/12(木) 11:20配信

SankeiBiz

 日本経済は長期低迷から脱していない。その一番の証左は、国内消費が今でも停滞したままであることだ。政府は企業の業態をよくし、賃上げによって消費を喚起して経済の本格回復を達成しようと政策運営をしてきた。しかし、その試みは未だ成功していない。異次元の金融政策は、金融機関の経営を危うくし、投資や消費を促すはずの低金利環境を作り出したのに企業も家計も貯蓄に励む結果となった。財政政策では、企業にも家計にも給付を連発しているが、財政赤字が膨らむばかりで、国民の将来不安を増幅している。(上智大学名誉教授・大和田滝惠)

 また、専門家たちが力を入れるべきだと主張する成長戦略は、それに応じることができるように国内総生産(GDP)の6割近い個人消費を中心とした需要が盛り上がらないと、企業は失敗を恐れて取り組めない。産業界には先行きの不透明感が強く、企業は成長に対する自信がない。だから、設備投資や賃上げや価格設定で今ひとつ積極姿勢になることができない。したがって、日本経済の実力・潜在成長率は高まらず、成長戦略が言われて久しいが、目に見えた成果として報告された事例はあまりない。

 ◆給付で財源を生み出す

 一番の根源は、個人消費の需要不足であって、そこを何とかしないと、金融財政政策をやっても何をやってもうまくいかないことを、これまで色々なことをやってきたのに長期低迷の域を脱していないことが証明している。個人消費拡大のための枠組みとなるような経済回復政策に組み立て直し、それを社会保障と財政再建をも兼ねた政策として作り上げることから始めないと手詰まりの現状は何も前に動かない。

 日本経済の体力を高めるには、何としても国内消費を持続的に増やさなければならず、そのためには賃金が毎年上がっていくという展望を国民の多くが持てるようにすることが決定的に重要だとよくいわれる。今後も賃上げの動きが続くんだという確信が持てなければ、人々は財布のひもを緩めないのだ。そしてまた、大企業を中心とした部分的な賃上げではなく、ほとんどの国民が賃上げか可処分所得増加が続くとの希望が持てなければ、本格的な国内消費の持続的な増加は実現しない。

 幅広く継続する賃金の引き上げを期待しつつも、それが進まないのならば、賃金に代わり得る可処分所得が毎年上がっていくという展望を国民の多くが持てるようにすることを何としても考えなければならない。その場合、給付には財源が必要なため、恒久的に給付するには、給付すると財源を生み出すという本来矛盾する双方が両立する政策を考えなければならない。すると、賃上げに代わる国民への可処分所得を増やす対応策は、単なる給付ではなく、給付することが国民全体から消費を盛り上げ、経済を活性化して財源を生み出すインセンティブのある策でないといけない。

 ◆保有現金が使われるには

 国民一人一人に可処分所得を増やし続けていって、将来不安を取り除いていけば、現在いわゆる使われていないおカネが動くようになる。国民の一部に賃上げがあっても、個別に給付をしても、将来不安から倹約しておカネは使われず、国民の保有現金と貯蓄率は増えている。いわゆるタンス預金と普通預金を96%余りの国民が持っていて、残高は過去最高を更新し続けている。それらを可処分所得として使えるようにする政策を実施すればいい。

 気がかりなのは、政府の経済政策が戦略なき給付に偏っていっていることだ。国民の一部にしか給付できないのに、財源のための税金を取り過ぎ、個人が可処分所得を自分で効率よく使っていく余地を狭めてしまう。社会にとって重要なのは、活力が最大限に活性化することだ。高負担でないと高福祉・安心を提供できないというドグマを脱却して、国民に高負担を強いなくても高福祉・安心を提供できる社会保障兼経済回復政策の構想が必要である。

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【プロフィル】大和田滝惠

 おおわだ・たきよし 上智大学国際関係論博士課程修了。外務省ASEAN委託研究員、通産省NEDOグリーンヘルメット調査報告委員会座長などを歴任。著書に『文明危機の思想基盤』、経済論文に「ヴィジブルな社会への経済政策」など多数。専門は社会哲学。67歳。東京都出身。

最終更新:7/12(木) 11:20
SankeiBiz