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中国・出前ライダーたちのW杯(4)汗を流せばお金はついてくる

7/15(日) 19:45配信

東方新報

【東方新報】サッカーW杯の期間中、ブラジルの1試合目は6月18日で、ちょうど中国の端午節に当たる日だった。出前配達ライダーたちは道端で、一緒にちまきを頬張っていた。ちまきの皮をはいでいると、スマホの注文受け警告音が何度も鳴った。

【関連写真】スマホ画面でW杯を見る配達ライダー達

 スマホのアプリを通じた出前配達が広まったのは、ごく近年のことだ。配達員の胡根偉(Hu Genwei)さんによると、2年前なら1日の受注数はせいぜい30件程度だったが、最近は1日80件まで増えたという。

  2013年11月に「美団(Meituan)」がサービス開始、14年10月「餓了麼(Ele.me)」が中国全土の200都市を網羅、15年7月には「百度外売(Baidu Waimai)」融資業務を開始。「餓了麼」の張莹琦(Zhang Yingqi)広報部長は、「今回のサッカーW杯ロシア大会(2018 World Cup)の期間に発注された夜食の出前の注文は4年前と比べて4000%超だ」と言う。

 出前の注文が増えてくると、出前サービスに関わる人間や事象も、サッカーボールと同じように、想像もできないほどの変化が生まれている。

 出前配達員の林さんは、「×」評価で心を痛めている一人だ。男の客は飲料水2ケースをネット上で注文し、林さんが運び始めたさなかに電話をかけてきて、たばこ1箱の追加注文だという。

 林さんは店に引き返して煙草を受け取り、指定場所のマンション4階まで水2箱とたばこを送り届けた。すると客は、ちょうど家にゴミがあるので、ついでに運んでくれないか、と言う。林さんは断ることができないが、次の注文も待ってくれない。遅れてしまえば、また「×」評価とクレームが待ち受けている。こちらを立てればあちらが立たずだ。

 林さんが最も辛いことは、客からののしられることだ。杭州市(Hangzhou)で数日続けて大雨が降ったある日、林さんの配達が遅れてしまった。相手はすでに注文をキャンセルし、金も返却済みだったが、さらに林さんが弁償するよう求めた。30元(約500円)の料理に対し、「50元(約840円)弁償しろ」と客が言う。

 納得がいかない林さんが、「そんな道理はないでしょう」と言うと、客は「お前みたいな人間に道理を言う必要はない」と、口汚くののしった。

「遅れたことは僕のミスだし、金も弁償すれば済む話だけれど、僕の心を踏みにじるようなことは許せない。お互いに同じ人間じゃあないか」と林さん。「でもクレームを付けられて、給料を大幅にカットされることは怖い」と胡さんにスマホの画像電話で涙ながらに訴える。

 胡さんは林さんを慰めるしかなかった。「気にするな、気にするな」

 ■頑張れなくなってしまう人もいる

 林さんは20歳を過ぎたばかりの大学生だ。農村から杭州の大学に入学。夏休みは故郷に帰らず、短期のアルバイトを始めた。出前の配達は、体力的にはきついが、仕事を早く覚えられるし、稼ぎも悪くない。2か月で生活費を差し引き、1万元(約17万円)を超える金が手元に残る勘定だ。

 杭州の夏は、最も蒸し熱い時期だが、出前ライダーにとっては稼ぎ時だ。胡さんは「汗を流せばお金はついてくる」という。

 林さんは胡さんのことを「師匠」と呼び、いつも胡さんの後について行動している。胡さんは、林さんのような「弟子」をもう4人も育てた。弟子たちに配達のルートなどの経験を教えている。「×」評価の話、生活のプレッシャーの問題、その他諸々も。

「考え方次第だが、頑張れなくなってしまう人もいる」

 若い配達員は、よく胡さんに人生相談を持ちかけてくる。人がよく、年齢も上で、比較的早い時期に出稼ぎに出てきており、経験もそれなりに積み重ねてきているからだ。

 この出前の仲間たちの中で、胡さんより年齢が上なのは、詹発順さん(Zhan Fashun)(42)だ。自虐的に自分を「出前兄さん」ではなく「出前おじさん」だと呼ぶ。

 詹さんも杭州に来て2年だ。中学を卒業後に故郷を離れ、これまでにもさまざまな場所で働いてきた。夜間の配達専門でやってきた。毎日午前2時以前に床に就いたことはない。旧正月や病気の場合を除き、毎晩、電動バイクにまたがり杭州の街を駆け回っている。この地域では、出前配達のチャンピオンだ。それでも、この間の社会の変化は大きすぎると感じている。

 詹さんの息子はもうすぐ中学に上がる。江蘇省(Jiangsu)の実家にいるが、詹さんは仕事が忙しく、めったに逢うことはない。息子に対する期待は、最低でも大学に行くことだ。

 ■1回働けば1回の金、1日休めば1日の損 

 胡さんは妻子と杭州市の「焼肉通り」から2キロメートルも離れていない古い居住区で、2DKのマンションを知人とシェアして、家族3人が一部屋に住んでいる。10平方メートルの部屋にベッドとタンスを一つずつを置けば一杯だ。

 マンションの同居人はタクシーの運転手をやっている杭州人だ。夜勤が主で、明け方に勤務終を終えて帰宅する。胡さんも、夜食の出前を配達し終えて、同じような時間帯に自宅に戻る。二人は一つのソファーの両側にそれぞれ座り、一緒に試合を見ている。

 胡さんはたいてい、一つの試合を見終わることなく、途中で寝てしまう。朝起きるとまず、午前10時から午後2時まで働く。日々の一回目の出前ピークの時間帯だ。

 胡さんは2年前、4人の仲間たちと杭州に出て来た。同居しながら3000元(約5万円)の家賃を分担し、毎月の給与7000元(約12万円)の中から5000元(約8万円)を仕送りした。

 後に、妻と生まれたばかりの子どもを実家のある安徽省(Anhui)から呼び寄せた。暇を見つけて、親子3人で出前の配達用バイクで西湖(West Lake)湖畔で音楽が出る噴水を見学するなどしている。人が多い中で、夫婦二人は子どもをしっかりと抱いていた。霧や水の球や水の柱が次々と吹き出すと、色とりどりの光を通して、六和塔(Liuhe Ta)や雷峰塔(Leifeng Ta)が遠くに見えた。

 西湖は、胡さん一家が行ったことのある、最も近い杭州の名所だ。西湖より遠い名所には行ったことはない。時間がとれないからだ。配達を1回やれば1回分のお金、1日休めば1日の損、ということだ。(c)東方新報/AFPBB News

※「東方新報」は、1995年に日本で創刊された中国語の新聞です。

最終更新:7/15(日) 21:20
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