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「ズムウォルト」主砲弾すらない現状とは あの異形の駆逐艦はその後どうなった?

7/19(木) 6:20配信

乗りものニュース

計画は頓挫、どうしてそうなった?

 2016年にアメリカ海軍へ就役したばかりの、異形の新鋭駆逐艦ズムウォルト級が、はやくもその存在価値にかかわる重大な危機に直面しています。

【写真】海と空のステルス、「ズムウォルト」とF-35C試験機

 ズムウォルト級は駆逐艦とは名ばかりに、日本海海戦で活躍した戦艦「三笠」に匹敵する満載排水量1万6000トンもの巨体を持ち、2基備える大型艦砲「155mm AGS(先進ガンシステム)」によって地上を精密砲撃するために建造されました。そして敵の反撃を受けやすい沿岸部で活動することを見越し、ステルス性を最大限追及しレーダー乱反射減を排除したユニークな設計を持つに至ります。

 主兵装たる2基の155mm AGSは、まさにズムウォルト級の存在価値そのものと言えます。155mm AGSは「LRLAP(長距離対地攻撃弾)」と呼ばれる補助ロケットを有す砲弾を発射し、その最大射程は破格の153kmに達します。またGPS/慣性誘導を備え標的を確実に直撃できる精度を実現、ズムウォルト級では2基合計で1分間あたり20発ものLRLAPを正確に標的へ叩き込むという、とてつもない火力を発揮するはずでした。

 ところが2016年11月、肝心のLRLAPの開発がキャンセルされてしまいました。155mm AGSによって射撃可能な砲弾はLRLAPしかありません。そしてこのLRLAPの開発が中止となってしまったのですから、ズムウォルト級の強力な艦砲は単なる2本の「棒」に過ぎないという、極めて深刻な事態に追い込まれてしまったのです。

圧倒的な火力は幻に

 LRLAPが開発中止となった最大の原因は、1発あたり約1億円という高コストにあります。一般的に大砲から打ち出される砲弾は単価が安いという利点を持ちます。たとえば陸上において使用される155mm榴弾砲における従来型の弾丸は、1発あたりの単価が数万円~20万円程度に過ぎません。ゆえに大量に投射するような使い方に適しています。

 しかし1億円にも達するLRLAPでは1分間で10発~20発を集中的に叩き込むような本来想定した使い方が難しくなってしまいました。この1億円という価格は1500kmの射程距離を持つBGM-109「トマホーク」巡航ミサイルにほぼ匹敵し、さらにアメリカ海軍の主力艦上戦闘機F/A-18E/Fに搭載可能なGBU-39「SDB」誘導爆弾の10倍以上もの高値です。

 平均速度約400m/sで飛翔するLRLAPはトマホークよりも高速で、かつ威力が弱く市街戦でも使いやすく、SDBとは違って常に上空に戦闘機を滞空させておく必要がないといった強みこそあるものの、結局のところこれらの攻撃手段に比べても費用対効果に著しく欠けるとみなされてしまいました。

 なぜズムウォルト級は砲があっても弾がないという、重大な状況を招いてしまったのでしょうか。LRLAPの価格を大きく押し上げてしまった大元の原因は、ズムウォルト級の建造計画が当初予定の32隻からわずか3隻へ縮小されてしまったことにあります。当然主兵装たる155mm AGSから発射されるLRLAPの生産計画も大幅な見直しを余儀なくされ、調達予定数は計画の1割を割り込む1800~2200発にまで削減されてしまいました(ズムウォルト級は1隻あたり600発搭載可能)。そして量産効果による価格低減の見込みがなくなってしまった結果、LRLAPのコストは1発あたり500万円以下の見込みから1億円へと実に20倍も膨れ上がってしまったのです。

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