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林泰男死刑囚への1審判決で、裁判長が出した異例のメッセージとは?

7/26(木) 13:23配信

ハフポスト日本版

オウム真理教元幹部・林泰男死刑囚ら6人に7月26日、死刑が執行された。これでオウム真理教事件に関わる13人の死刑囚への刑執行が終わったことになる。

【画像集】オウム真理教事件、死刑執行された残る6人の横顔

林死刑囚は、地下鉄サリン事件でサリンの散布役を務め、他の人より1袋多い3袋を引き受けた。同事件では13人が亡くなったが、そのうち9人が林死刑囚と同じ車両だった。

「週刊朝日 緊急増刊 オウム全記録」によると、多くのサリンを引き受けた理由について、他の実行犯らは公判で「みんながいやがる仕事を引き受けるのが彼だった」と語っていたという。

東京地裁が2000年6月29日に言い渡した死刑判決で、量刑理由の要旨を述べる中で、木村烈裁判長は次のような異例の言及をした。

「およそ師を誤るほど不幸なことはなく、この意味において、林被告もまた、不幸かつ不運であったと言える」

翌日の朝日新聞朝刊に掲載された判決要旨を元に、林死刑囚への裁判長のメッセージを振り返る。

「およそ師を誤るほど不幸なことはなく、この意味において、林被告もまた、不幸かつ不運であったと言える」

●各犯行での役割

地下鉄サリン事件で、林被告は教団の存続、松本智津夫被告の利益、自分自身の修行を進めるという身勝手な利益のために多数の市民を犠牲にした。独善的、自己中心的で極めて強い非難に値する。

林被告は、松本被告に対する疑問と恐怖の念を抱きつつも、あえて思考を停止させてサリンを電車内に散布する役割を担った。実行に至るまでは、ほかの散布役と実行方法を話し合ったり送迎役を散布役に付けることを提案したりしており、散布役の中でも積極的だった。実行時には指示を忠実に遂行し、格別に重い結果を生じさせた。

新宿青酸ガス事件では、犯行に適当な場所を探したり、犯行時には見張りをしたりして重要な役割を果たしている。松本サリン事件では、サリン噴霧車の製作作業に関与し、ちゅうちょなく部品を買ったり偽装工作をしたりして完成させており、役割は重要だ。

●犯行後の行動

新宿青酸事件の後、石垣島で逮捕されるまで約一年半にわたって女性信徒と逃亡生活を続け、一日も早い犯人検挙を願う被害者、遺族らの思いを逆なでした。また、一般市民に再度凶悪なテロが敢行されるのではないかという強い恐怖や不安を与え続けた。報道などで使用された「殺人マシン」という呼び名は、まさにその深刻な恐怖や不安を言い表している。

●犯情において酌むべき事情

地下鉄事件では、松本被告の命を受けた総指揮者の村井秀夫元幹部から指示を受けて散布役となっており、首謀者や指揮者に比べて犯情が同一であるとは言い難い。

各犯罪の背景に松本被告の説く教義があること自体は有利に酌むことはできない。しかし、いずれの事件も、松本被告が信徒の帰依心や教団への強い帰属意識などを巧みにあおって、自らの権力欲の満足や保身をはかるために実行させたのであり、林被告が松本被告に利用された側面も否定できない。

●その他考慮すべき事情

林被告は中学三年のころから自己の心の中の差別心に思い悩み、二十歳のとき父親の死に遭遇したことを機に、まじめに宗教への関心を深めていた。教団への入信も林被告なりの求道心に裏付けられており、入信の動機自体を非難することはできない。

林被告は教団や松本被告に幾度となく疑問を感じることがあったにもかかわらず、その都度、松本被告の指示をあえて正当化して信奉を完全に断ち切れないまま数々の違法活動をし、ついには重大な犯罪に関与した。そのことは、まさに林被告が基本的な生活信条として大切にしてきたという「人間としての良心」を失った者の所業と言うほかない。

しかし、逮捕された後は良心を取り戻し、自己の行為が多数の死傷者を生じさせたことを全面的に認めた。公判では反省し、とりわけ地下鉄事件については、自らが散布したサリンによって死亡した被害者の名前を一人ひとり挙げながら謝罪の言葉を述べている。

極刑が予想されていたのに審理の促進に積極的に協力したことも、被害者や遺族らに対するせめてものざんげと謝罪の念の現れと理解できる。公判に臨む態度は礼儀正しく、応答も真しで、林被告なりの反省・悔悟の情は十分酌むべきだ。

被告は元来凶暴、凶悪な性格ではない。魚屋を営む友人が病み上がりの体で商売する姿を見かねて自分の仕事を犠牲にして手伝ったこともあり、善良な性格を見て取れる。松本被告や教団とのかかわりを捨象して林被告を一個の人間としてみるかぎり、資質や人間性それ自体を取り立てて非難することはできない。

およそ師を誤るほど不幸なことはなく、この意味において、林被告もまた、不幸かつ不運であったと言える。

●結論

量刑上もっとも重要な地下鉄事件で無差別大量殺人の実行行為そのものを担い、ほかの散布役より一袋多い三袋のサリン袋を傘で何度も突き刺して大量に漏出させ、担当路線だけでも八人の死者を出していることにかんがみれば、罪責は誠に重大だ。林被告のために酌むべき事情を最大限に考慮しても、極刑をもって臨むほかない。

安藤健二

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