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災害対応こそ「防衛」の最優先課題(加藤直樹)

7/27(金) 10:55配信

アジアプレス・ネットワーク

■自然災害~確実で緊急性を帯びた「脅威」

「自衛隊に入ったのは災害救援をしたかったから」という女性隊員の言葉を何かの記事で読んだのは、十年以上も前のことだ。幼いころに奥尻島で津波を経験し、救援にやってきた自衛隊員の姿に安堵したと語っていた。

その後、「災害支援がしたくて自衛隊に入った」という若者の声を聞くことは珍しくなくなった。もちろん、自衛隊法で定められた自衛隊の「主な任務」は防衛出動であり、災害出動は「従たる任務」ということになるのだが、この20数年に全国で頻発した地震や火山噴火、水害といった自然災害を思えば、真面目な若者が災害救援の現場で働きたいと望むのは当然だろう。

その後、自衛隊の「従たる任務」には「海外派遣」が加えられた。イラクへの派遣や、国外初となるアフリカ・ジブチでの基地の設置など、海外任務が常態化した現実を追認し、さらに拡大していこうとする狙いがある。

海外派遣は「従たる任務」として災害出動と同格となった。ところが実際には、災害出動より海外派遣の方がはるかに重要な任務とされているようだ。それは部隊の再編のありようなどを見れば明らかだ。しかしそれは、多くの人が望む方向なのだろうか。

6月末からの西日本豪雨の被害拡大で、安倍首相は予定していた外遊をとりやめた。この外遊では、安倍首相は7月14日にパリで行なわれる革命記念日の軍事パレードを観閲するはずだった。パレードには自衛隊員7人が参加している。その前日には日米、日豪、日英に続く日仏ACSA(物品役務相互提供協定)に両国が調印している。ACSAは、両国の部隊が食料や弾薬を融通しあうという取り決めだ。5月にはベルギーの日本大使館内に「NATO日本政府代表部」が開設されていることを考え合わせれば、この外遊は安倍首相にとって、NATOと結んで世界大に軍事展開する自衛隊をアピールする絶好の機会だったのだろう。

同じころ、水害の被災地では一般車両が進入困難な場所で使われる消防庁の全地形対応車「レッドサラマンダー」が水害現地に初めて投入された。私はその存在自体を知らなかったが、驚いたのはそれが全国に1台しかないという事実だった。どう考えても少なすぎる。1台9800万円は高価には違いないが、防衛省がこれから導入しようとしている陸上イージス2基6000億円や1機100億円のオスプレイ17機よりははるかに安価だ。

軍事パレード参加のための外遊計画と、日本国内での水害。この構図からは、「防衛」「安全保障」とは誰の安全を守ることなのかということを考えさせられる。

日本の財政には限りがある。「防衛」についても、優先順位を考えて予算を分配しなければならない。必要度が高いものに予算を厚くし、低いものは抑える。では、「防衛」において最優先されるべきは何か。私は、日本列島に住んでいる「人々」の具体的な意味での生命と安全だと考える。その原則に立ったとき、いま最も現実的で大きな脅威は大規模な自然災害だ。

1995年の阪神淡路大震災以降の20数年間だけでも、地震や津波、水害などでどれほどの人々が亡くなっただろうか。一度に数百、数千という単位で人が亡くなる事態は、日本では自然災害でしか起きていない。南海トラフ地震や東海地震が30年以内に発生する確率は70~80パーセント。温暖化の影響で豪雨などの異常気象が増えているという警告もある。

火山噴火も心配だ。つまり、日本に住む人々の生命が直面している危機として、大規模自然災害ほど深刻で、確実で、緊急性を帯びたものは他にない。

そして、毎回問題になる劣悪な避難生活の改善を含め、災害対応はまだまだ不十分である。ではその費用をどこから持ってくるか。

私はやはり、人々の生命を守ることにつながらない自衛隊の海外派遣(災害派遣は除く)や、軍事緊張をあおる副作用をもつ点で費用対効果に疑問符がつく過剰なミサイル防衛システム導入のための予算を削るのがよいと思う。自衛隊の「従たる任務」についても、海外派遣ではなく災害出動を最優先課題として、装備、訓練、編成を考えるべきだ。もちろん、災害からの「防衛」は自衛隊だけの任務ではない。消防庁をはじめとする関係各部門への費用配分が必要だ。

日本に住む人々の生命を「防衛」するために最も必要なことは何か。冷静に考えれば、災害対応こそ最優先課題ということになる。「災害救助のために自衛隊に入った」という若者たちも、これには同意してくれるに違いない。

加藤直樹(かとう・なおき)
1967年東京都生まれ。出版社勤務を経て現在、編集者、ノンフィクション作家。『九月、東京の路上で~1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)が話題に。近著に『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)。