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五輪中「授業避けてボランティア促して」文科省の通知、「大学の自治」に反する?

8/8(水) 9:55配信

弁護士ドットコム

2020年の東京五輪・パラリンピック期間にボランティアに参加しやすくなるよう、スポーツ庁と文部科学省がこのほど、全国の大学などに授業やテスト期間を繰り上げるなどの柔軟な対応を求める通知を出したことが毎日新聞により報じられた。

報道によると、学生がボランティアをすることの意義を指摘し、大会期間中の授業やテストを避けるよう促したという。多くの大学では通常、7月や8月はテスト期間となっている。法的に従う義務がない「通知」とはいえ、「大学の自治」を脅かすことにならないか。憲法問題に詳しい林朋寛弁護士に聞いた。

●今回の通知、「大学の自治」への侵害だと考えられる

ーー大学の自治について教えてください

「『大学の自治』は、『学問の自由』(憲法23条)で保障されている内容の一つです。『大学における学問の自由を保障するために、伝統的に大学の自治が認められている』と言われています(「東大ポポロ事件」最高裁昭和38年5月22日判決)。具体的には、大学の研究に国家が干渉してきた歴史から、大学内の人事や施設・学生の管理などについて国家権力からの干渉を排除するということだと考えられています。

授業等の日程の編成は、人事や学生の管理というものではないので、大学の自治の問題でないようにも思えます。しかし、授業等の日程は、研究・教育に密接に関わるものですから、大学の自治の内容として干渉を排除されるべき事柄というべきでしょう。

大学での自由な研究や教育が行われることで、その成果は社会や国民にもたらされることになります。大学の自治は、大学自体や大学の教員・学生だけではなく、国民一般にとっても意義のあるものだといえます」

ーー今回報じられている文科省による通知は、大学の自治との関係でどう考えられますか

「五輪のボランティア参加のために授業やテスト期間の繰上を全国の大学に対して文科省が要請(通知)したことは、形式上は要請でも、認可等や補助金についての権限を有する文科省からの通知ですから、事実上の強制力が働いて大学側としては無視しがたいのではないかと思います。ですから、今回の通知は、大学の自治の侵害だと考えられます。

そもそも文科省は、『大学の教育研究については本来大学の自主性が尊重されるべき事柄である』と自身のホームページで述べています。今回の文科省の通知は、文科省自身のこのような姿勢と異なっています。この通知は、これまでわが国の学問・教育を発達させてきた大学の自主性を損ない、自由な研究・教育を妨げる方向への一歩に思えます」

●半ば強制的に学生にボランティアさせる懸念

ーー学生にとっても影響はありそうでしょうか

「五輪期間中の混雑で通学に支障が生じるのを避けるため等の理由で、都内の大学が自身の判断として、その期間中の授業や試験を行わない日程を編成するのは自由ですし、合理的だと思います。

しかし、五輪の混雑等による支障がないのに、文科省の通知に迎合して学生を五輪のボランティアに参加させるために本来の日程を曲げて授業日程を組むのは、いわば大学の自治の放棄であり、自大学の学生に適切な教育を提供する責任を果たさないことになるのではないでしょうか。

ボランティア参加で単位認定をするとして、半ば強制的に学生にボランティアをさせるようなことがもしあれば、学生の思想良心の自由や自己決定権を害することになる可能性もあります」

ーーボランティアを「やりがい搾取」と指摘する声もあります

「はい。五輪のボランティアと言えば聞こえはいいですが、体の良い『ただ働き』、一種の『やりがい搾取』という指摘もあります。そのただ働きには、熱中症の危険も指摘されています。もし、そのただ働きで単位認定をする大学は、単位を取るためただ働きに参加した学生が熱中症に罹患する事故が生じたら賠償責任を問われるかもしれません。

各大学には、今回の要請に応じるのが正しいかどうか、大学の自治や学生の教育、安全という観点からよく考えていただきたいです」

※なお、すでに首都大学東京は2017年8月、五輪の期間中には原則として授業・試験を行わないとする方針を決定。明治大学も2018年7月、授業期間を繰り上げるなどの方針を決め、発表した(文科省の通知との関連は不明)。

【取材協力弁護士】
林 朋寛(はやし・ともひろ)弁護士
北海道江別市出身。札幌南高、大阪大学卒。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。平成17年10月弁護士登録(東京弁護士会)。沖縄弁護士会を経て、平成28年から札幌弁護士会所属。経営革新等支援機関。税務調査士Ⓡ。登録政治資金監査人。
事務所名:北海道コンテンツ法律事務所
事務所URL:http://www.sapporobengoshi.com/

弁護士ドットコムニュース編集部

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