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米中貿易戦争 中国により大きな打撃

8/8(水) 16:06配信

ニュースソクラ

中国との取引多い韓国やアセアンにも悪影響

 トランプ米大統領の深い政治哲学なく、不動産取引で培った駆け引きに頼る政治には実にうんざりとさせられる。

 特に通商分野では、TPP離脱、NAFTA見直しなど、貿易赤字を企業業績の赤字と同一視した振る舞いに出て世界を驚かせている。米国政府、消費者の身の丈を超えた過剰な歳出、消費に真の原因があることを理解していない。米国ファーストと称して第二次大戦後、世界経済の発展をもたらした、米国が築き上げてきた自由貿易体制を自らが壊し続けている。

 その集大成が中国、欧州を標的とした高関税の賦課だ。ハーレイ・ダビッドソンが欧州輸出の減退を懸念して米国から製造拠点を移すと声明したように、アップルが中国でのiPhone製造を止めて米国に製造工場を持っていくことはまずなく、ベトナムかタイに移すだけである。トランプの通商政策で米国の貿易赤字が減ることはあるまい。

 それにしても広範に高関税を仕掛けられた中国が冷静でおとなしいのは一種の驚きである。米国に代わって自由貿易を標榜している姿も目立つ。しかし、欧米人の多くはWTOに加盟させれば中国は自由主義、法の支配という西欧の姿に近づくとの予想が外れたのに失望している。中国が国内では人権蹂躙を繰り返し、外においては南シナ海の人工島建設にみられるような覇権主義を変えようとしないためだ。一種の中国異質論が高まっており、中国が自由貿易の真の旗手になるとはだれも信じていない。

 醒めた目で中国を観察してきた欧州のジャーナリストは「関税の掛け合いで貿易量が縮小していけば中国のほうが米国よりダメージが大きいのが中国側の大人の対応の背景」だと喝破していた。同感である。まず中国の国内需要がスローダウン局面にあり、これに対米輸出の減少が重なれば、景気後退のおそれすらあることだ。第二四半期の実質GDPは6.7%と2016年以来最低の伸びだ。国内小売売上高は8%台に低迷し、景気を支えてきたインフラ投資も地方政府、国営企業を対象とした債務削減(デレバレッジ)最優先のため急減している。

 中国は、サブプライム問題やリーマン破綻などを契機とする金融危機を乗り切るため、4兆元の景気浮揚策を打って世界経済のけん引役を果たしてきた。しかし、その過程で地方政府や国営企業は過剰設備、過剰開発に陥り、多額の債務を負ってきた。総債務のGDP比は240%を超える高水準である。将来の金融危機を回避するためシャドーバンキングの抑制等を強化してきており、6月のノンバンク貸出は急減した。このような国内景気のスローダウンに、米中貿易戦争で輸出が減少すれば習近平政権にとっては大きな打撃となる。米国を刺激したくないのが本音であろう。

 輸入面でも、中国は米国産の農産物、中間財・資本財輸入に頼る経済構造となっている。大豆を例にとると、中国の大豆自給率は12%に過ぎず約8,000万トンを輸入している。世界の大豆貿易の実に60%を占めている。このうち、米国からの輸入は2,800万トンとブラジル(4,000万トン)に次ぐ。中国はこの米国からの輸入に報復関税を掛けたが、すぐにブラジルが増産できるわけでもなく、さらに仮に南半球のブラジルからの輸入が増えたとしても収穫時期が米国とは違うので保存用の倉庫を大量に建設しなければならない。

 従って中国はしばらく、米国産の大豆を高値で買っていかざるを得ないであろう。そうなると、大豆を有力な飼料としている豚肉の価格も上がらざるを得ない。食肉消費の7割を占める豚肉価格が上昇すれば、習近平政権に対する怨嗟の声が広がろう。

 またトランプ大統領が敵視した「中国製造2025」では半導体の国内製造による自給体制確立がうたわれている。これは取りも直さず、今はそうなっていないことの反映である。米国で見ると、全体の売り上げに占める中国向け輸出はクアルコム社が65%、ブロードコム社が50%、インテル社ですら23%を占めている。これらの供給が絞られればその影響は甚大である。

 上記のように、米中貿易戦争になれば、中国のほうが打撃は大きいといえよう。しかし、注意しなければいけないのは、いまや世界はサプライチェーンに組み込まれているため、仮に中国の対米輸出が減少していけば、その負の連鎖効果が近隣のアジア諸国を中心に広がっていくことである。

 よく知られているように韓国は輸出主導型の経済であり、特に対中輸出は25%を占め、中国は最大の貿易相手である。仮に中国のコンピュータや家電製品の対米輸出が減少すれば、多くの部品を供給している韓国の製造業は大きな打撃を受けよう。台湾も米国が2,000億ドルの中国製品に10%の追加関税を課せられた時点から、エレクトロニックス関連の対中輸出が大幅減少にあう可能性が高い。

 アセアンでもベトナムは中国と縫製品の取引などで密接な関係にある。ベトナムの輸出金額はGDPの99%と貿易依存度がアセアンのなかでも最も高い。トランプ米大統領は、中国の半導体やG5開発など通信分野での台頭を懸念して今回の報復につぐ報復を生む貿易戦争を仕掛けてきた。火の粉が米国の同盟国である韓国、台湾やアセアンに降りかかるのも気に懸けはすまい。

俵 一郎(国際金融専門家)

最終更新:8/8(水) 16:06
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