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<猛暑>夏の疲労回復に底力「脳まで届くイミダペプチド」

8/11(土) 9:30配信

毎日新聞

 「災害」ともいわれる危険な暑さが続いている。高温が続いて疲労はたまる一方だが、これを放っておくと重大な病気につながる恐れがある。なぜ暑いと疲れるのか、そして疲れを甘く見るとどんなリスクがあるのか。疲労医学の第一人者で東京疲労・睡眠クリニック(東京都港区)の梶本修身院長に聞いた。【毎日新聞医療プレミア・鈴木敬子】

 暑いと疲れる--感覚的に分かるが、なぜ疲れてしまうのか。梶本院長は「体が疲れると思われていますが、実際には脳が疲れているんです」と指摘する。

 人は脳の中の「自律神経の中枢」と言われる部分で心臓の拍動や呼吸、体温を調節している。とくに夏は汗をかいて体温の上昇を抑えようとするため、自律神経はフル回転している。つまり、猛暑の下では何もしていなくても、運動しているのと同じ状態になる。

 自律神経が働く時、酸素をたくさん使って神経細胞を活性化させる。同時に「活性酸素」が発生し、酸化ストレスにさらされ、神経細胞をさびさせてしまう。細胞がさびると本来の働きができなくなる。これが「脳が疲労した状態」だ。

 その時、人は「疲れた」という信号を眉間(みけん)のあたりにある眼窩前頭野(がんかぜんとうや)と呼ばれる部位に送る。すると、実際に疲れているのは脳なのに、体が疲れたと感じるようになり、これ以上自律神経に負担をかけまいとする。

 ◇疲れを放置すると熱中症のリスクも高まる

 疲れを放置する、つまり細胞のさびを取り除かない状態が続くとどうなるか。当然パフォーマンスが落ち、自律神経で対応できなくなった体は、内分泌免疫系を活動させて代償を払おうとする。ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌され、糖尿病などの生活習慣病リスクが高まったり、血圧が上がりやすくなったりする。また、免疫不全の状態に陥り、風邪をひきやすく、がんにもなりやすくなる。

 夏は熱中症のリスクも高まる。自律神経の機能が低下すると、体温をコントロールしにくくなり、心拍や呼吸の調節能力も落ちる。その結果心臓が“暴走”して心筋梗塞(こうそく)を起こしたり、脳内血圧がいきなり上下したりすることによって脳出血や脳梗塞を起こしやすくなる。また、細胞がどんどんさびることで老化が進み、寿命も短くなる。

 ◇細胞のさびを取り除くのに効果的なイミダペプチド

 さびを取り除くにはどうすればよいのか。梶本院長らは2003年から3年間にわたり、抗疲労効果のある医薬品や食品を開発する産官学連携プロジェクトを実施した。23種類の成分を検証したところ、「イミダゾールジペプチド(イミダペプチド)」という成分に最も疲労回復効果が認められたという。

 イミダペプチドとは、鶏の胸肉やマグロ、カツオに多く含まれる成分で、抗酸化作用がある。人が摂取すると、消化吸収されたイミダペプチドは体内で2種類のアミノ酸に分解され、脳や体内に運ばれる。

 脳には有害物質の侵入を防ぐ「血液脳関門」と呼ばれるバリアーがあり、ここを通過できる物質は限られている。分子量の大きな物質は通れないが、アミノ酸に分解されたイミダペプチドは通過でき、脳内酵素の働きによって再び合成される。

 つまり、人はもともと脳内にイミダペプチドを作る工場を持っていて、イミダペプチドを摂取して脳に“材料”を与えてやれば、再合成して長時間にわたり抗酸化力を発揮することできるのだ。

 ◇コーヒーも効果はあるけれど……

 「抗酸化物質」と聞いて、コーヒーなどに含まれるポリフェノールを思い浮かべる人もいるだろう。ポリフェノールは2時間程度で血中から消えるので、働いている8~10時間程度作用させるためには、4~5回に分けて摂取する必要がある。

 コーヒーに含まれるポリフェノールの一種、クロロゲン酸には抗酸化力があり、脳まで届く。一日複数回に分けて摂取することが可能なので、効果的といえる。ただし、カフェインを含むので注意が必要だ。カフェインは疲労感を軽減して眠気を覚ましてくれるが、実際の疲労を覆い隠すので、疲れのぶり返しが起きることがある。夏バテ防止を目的にコーヒーを飲むなら、デカフェ(カフェインなし)の方がいいという。

 ◇手軽に摂取したいならサラダチキンがお勧め

 イミダペプチドは、長距離を飛ぶ渡り鳥の羽の付け根や、広い範囲を移動する回遊魚の尾びれに豊富に含まれている。鶏は飛ばないが、遺伝的に胸肉に多く含む。梶本院長によれば、イミダペプチドは一日に200mgの摂取が必要で、鶏肉なら一日100g食べるとよいという。

 手軽に鶏肉を食べたいなら、コンビニでも買えるサラダチキンがお勧めだ。サプリメントも出ているので、併用するのが効果的。イミダペプチドは熱に強く、調理法によって成分量に変化はない。煮た場合は煮汁にも成分が溶け出すので、スープも一緒に食べたい。

 栄養不足や栄養の偏りが心配な人は、エネルギー効率を高めてくれるクエン酸と同時摂取すると、相乗効果が期待できる。疲れでヘトヘトな状態の人は、ビタミンCやEと一緒に摂取する方法もある。これらは酸化ストレスを取り除き、活性酸素が増えた状態を一度リセットすることができる。ただし、あっという間に血中からなくなるので、持続的に効果を発揮させるにはイミダペプチドと併用する必要がある。

 プロジェクトでは、イミダペプチドを2週間摂取し続けたところ、76%の人に疲労軽減効果があった。疲れやすい夏の間は、ずっと摂取するのが望ましいという。

最終更新:8/11(土) 9:30
毎日新聞