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私たちは今の医療を「諦める」べきなのか 注目される「医師の過重労働」を解決するには

8/11(土) 14:00配信

BuzzFeed Japan

東京医科大学が入学試験で女性受験者に不利な得点調整をしていた問題。「一大学による女性差別」だけではなく、医療業界に広く今も差別が残ること、背景に医師の過重労働など働き方の問題もあることが指摘されている。

これを解決するには「患者側が現在の水準の医療を諦めるべき」との声も聞かれる。どうすれば、医師の過重労働問題を解決できるのだろうか。

医療政策学者でカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)内科学助教授(医師)の津川友介さんに話を聞いた。【BuzzFeed Japan Medical / 朽木誠一郎】

「女性が働きにくい」ことが労働環境を過酷にする

ーー東京医大が女子学生の数を抑えていた背景に「女3人で男1人分」という認識があったと報道されています。

たしかに女性医師の方が労働時間が少し短いというデータはありますが、「女性3人で男性1人分」は言い過ぎだと思います。

例えば、厚生労働科学特別研究 『医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査』によれば、男性医師と女性医師の労働時間の差異は、同じ条件で比べると女性の方が男性より2割ほど少ないという結果でした。

男性の方が当直を担当してくれたり、長時間勤務のような無理な勤務をお願いしやすかったりという理由で、「3人分」という実態にそぐわないイメージが生まれたのかもしれません。

ーー厚生労働省の検討会である医師需給分科会でも、女性医師の仕事量が男性医師1.0に対して0.8と設定されていました。

仮に、男性医師1人分の労働時間が、女性医師3人分の労働時間と同じであり、残業代がきちんと支払われていたとします。もしそうなら、男性医師は女性医師の3倍の給与を受け取っているはずですが、実際にはそうはなっていません。

このことから推測できるのは、男性医師がサービス残業をしているということです。

重要なのは、男性医師の割合を高く保つことで現在のブラックな労働環境を維持することではなく、性別にかかわらず医師が人間らしい生活ができるように、医師の働き方改革を行うことだと思います。

女性医師は妊娠、出産のときには休むかもしれませんが、育児がひと段落したら「パートタイムでもいいので現場に戻りたい」と思っている人も多いのではないでしょうか。

実際に離職率のデータを見てみると、復職している女性医師は多い。でも、医療現場で女性医師やパートタイムで働く医師や子育てのために早く帰る医師を「良く思わない」文化があると、復職しにくいと感じることもあるでしょう。

本来ならば、1日のうち数時間でも働いてくれるパートタイムの医師がいれば、常勤の医師の業務量を軽減することができるはずです。

しかし、女性が働きにくい環境があることで女性医師は(健診や外来のみのクリニックなど)自分たちの働き方を受け入れてくれる職場に流れてしまい、病院で働く男性医師の労働条件はより過酷になっている可能性があると思います。

ーーなぜ、このようなイメージが生まれ、それに基づいて入試で女性受験者が減点されるまでのことが起きてしまうのでしょうか。

今回の報道の反響を見ても、多くの人が憤りを感じていると思います。しかし、その認識を持てない人が大学の入試担当者の中にいた、というのは事実でしょう。

これは、既存の歪んだ構造を維持するために、「部分的な最適化」をしたための失敗であるとも言えます。

今回の問題の背景にあるのは、医師の働き方の問題です。医師の過重労働によって支えられている医療現場をなんとか回すために、「とにかく人が減らないようにする」という、目先の解決方法に走ってしまった。

現状を見ても明らかなように、男性医師だけで医療現場を回せるとは考えにくいですし、そんなことは男女医師ともに誰も望んでいないと思います。

女性医師だけでなく、男性医師も過重労働をしたくないと思っていますし、子どもや家族ともっと時間を過ごしたいと思っているでしょう。

よって、たとえ女性医師が産休や育児で一時離職することになったとしても、戻って来やすい環境を整え、男女ともに協力して働きやすい現場をつくろうとすることが合理的なのではないでしょうか。

さらに言えば、女性医師が出産で一時的に離職したとしても、育児や家事をパートナーと公平に分担できれば、男性と女性で仕事量に大きな差はなくなるはずです。

女性医師の労働時間が短いということは、裏を返せば、男性の家事や育児の参画が不十分であることを示唆しています。

もちろん、家事や育児に参加したくでも忙し過ぎてできない男性医師が多くいるのは分かります。医師の労働環境を全体的に改善することで、男性も女性も家事や育児ができるような社会にしていくことが必要だと思います。

また、女性医師が働きやすい環境を整備することで、現場の医師の労働環境が改善するだけでなく、患者さんにとってもメリットがある可能性があります。

私たちがアメリカで行った130万人を対象とした研究では「女性医師の方が男性医師よりも患者の死亡率・再入院率が低い」ことも明らかになっています。

女性の方がガイドラインに則った治療を行うことや、患者さんの話をよく聞くことが過去の研究よりわかっており、これが死亡率や再入院率の差につながったと考えられています。

ーー今回の問題の背景に、日本の医療を維持する中での思考停止があることがよくわかります。

前提を疑うことが必要だと思います。今回の問題について言えば、「女性医師は離職する」ということが前提になり、対策が非常に短絡的になってしまいました。

そもそも男性医師の就業率は90.9%、女性医師の就業率は83.9%であり、その差はわずか7%しかありません。妊娠、出産する35歳前後に女性医師の就業率は一度下がりますが、その後、多くは復職しています。

イメージで議論するのではなく、きちんとデータに基づいて考えることの重要性を表していると思います。

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最終更新:8/13(月) 9:51
BuzzFeed Japan

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