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<音楽>グラミー受賞ドラコ・ロサさん がん乗り越え新作

8/13(月) 7:00配信

毎日新聞

 日本では、「ア、チ、チ、アチ」の原曲を書いた人といえば、知らない人はいないだろう。郷ひろみさんの「Goldfinger’99」の原曲となるリッキー・マーティンの「Livin’ la Vida Loca」の作詞・作曲、プロデュースを手がけたことで知られるドラコ・ロサさんは、2013年のアルバム「Vida」でグラミー賞とラテン・グラミー賞を受賞。ラテン音楽界で今も根強く支持されている。前作は、悪性リンパ腫で闘病しながら制作した力作。その後、がんの再発を乗り越え、10月には新たなアルバム「Monte Sagrado」を発売する。「最後のアルバムになるかもしれない」という覚悟で作った前作から5年。「世界が2度目のチャンスをくれた」と話すドラコさんの思いは。【中嶋真希】

 「お待たせ」。ドラコさんは、日本の古着店で買った火消しのはんてんをジャケット代わりに着て待ち合わせ場所に現れた。はんてんを脱ぐと、竜が刺しゅうされたスカジャン姿。「この服、いいでしょ」。今回は、ミュージックビデオの撮影もかねて来日。前作からアルバムのレコーディングと制作でコンビを組むSadaharu Yagiさんと一緒に訪れた。「Sadaに電話して言ったんだ。日本に行こうって」。アルバム「Mad Love」を発売した04年以来14年ぶりの日本を満喫しているようだった。

 インタビューが行われたのは、東京・渋谷にあるレコードバー。ドラコさんは高音質へのこだわりを何度も口にした。「レコードが聴ける場所が世界中にあるのはうれしい。ロンドンにもspiritlandっていう同じような店がある。ルネサンスが起きているよ。若い世代がスピーカーを調整して、音楽を高音質で聴こうとしてくれていることがうれしい。本当に音楽を愛する人にとって、mp3なんてダメ。新しいアルバムも、レコードでプロモーションしたい」。東京でも若い世代が再びレコードに夢中になっていることを伝えると、「東京でそういうこともたくさん知りたいよ。ここに来られて、音楽や建築、食べ物のことを知れてうれしい」と笑顔だ。

 ドラコさんが13年に発表した前作「Vida」は、リッキー・マーティンやシャキーラ、マーク・アンソニーさんら豪華ラテンミュージシャンとデュエットした。「美しいアルバムになった。自分はデュエットなんてしないと思っていたけれど、やってよかった」。Vidaはスペイン語で「人生」を意味する。ドラコさんは11年に悪性リンパ腫を発症。「最後のアルバムになるかもしれない」という覚悟で闘病しながら作品を完成させた。がんは13年に再発し、闘病は続いたが、現在は治療を終えて体調はいいという。「また新しいコレクション(アルバム)が10月に出せることがうれしい」

 ニューヨーク生まれのプエルトリコ人。現在は、ロサンゼルスと、幼少期を過ごしたプエルトリコを行き来する生活だ。自身がプエルトリコに持つ農園「ハシエンダ・ホリゾンテ(地平線の土地)」は400万平方メートルの広さ。農園では、観光客が宿泊したり、乗馬を楽しんだりもできる。「山に囲まれながら、オーガニックのものを食べて、ベジタリアンの生活をしている。自分の農園で、コーヒー豆や、パパイアなどのフルーツを育てている。人生が変わったよ。世界が2度目のチャンスをくれたんだ」。ドラコさんが「最高品質」と胸を張るコーヒーは、アメリカの大手スーパーでも販売されている。売り上げは、自身が受けた正常な血液を作るための組織移植を支援する基金に寄付するという。目標は、生前、食品会社の利益を全額寄付した俳優のポール・ニューマン氏。「同じことをコーヒーでやりたい」と話す。

 ◇「人生を謳歌している」

 「Vida」は、切なく美しいメロディーだった。「前作のころは、治療に専念していた。ピアノを弾くことのほうが、繊細な気分に合っていた。今は健康を取り戻して、また趣味のバイクにも乗れるようになった。ギターをアンプにつなげて、人生を楽しめるようになった」。幼いころからビートルズやレッド・ツェッペリンを聴いて育ち、「根底にはロックンロールが流れている」と話すドラコさん。「美しいメロディーの曲も好き。でも、今は人生を謳歌(おうか)しているところなんだ」。新作「Monte Sagrado」は、スペイン語で「聖なる山」という意味。前作とは違う一面が見られそうだ。

 過去の作品も、再評価されている。8月10日には「Vagabundo」をリマスターし、アナログレコードにした「Vagabundo 22」が発売された。「1996年に出した時は理解されず、変わったアルバムだと言われ、あまり高く評価されなかった。20年たって、今やもっとも重要なラテンアルバムの1枚とされているんだ。そういうことってあるんだよ。自分らしく音楽を作り続けることが大事なんだ。自分自身を信じること」

 最後に、日本人ファンに伝えたいことは?と聞くと、ドラコさんが力強い口調で言った。「両親の言うことは聞くな。お前の人生だ。自分が感じたことにコミットしろ。何か好きなことがあれば、それを貫くんだ。人生は短い。この瞬間も自分の人生だ」

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 ドラコ・ロサさんの公式ウェブサイト(http://www.dracorosa.com/)

最終更新:8/13(月) 11:01
毎日新聞