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【木内前日銀政策委員の経済コラム(23)】日銀、市場との対話が破綻している

8/30(木) 14:00配信

ニュースソクラ

事実上の正常化策を認めない「ごまかし」戦略

 日本銀行の市場との対話は完全に破綻している。その兆候は2013年4月の量的質的・金融緩和導入時から既に見られていたが、今年7月末に日本銀行が発表した措置によって極まったという感が強い。

 中央銀行が適切に市場と対話ができているかどうかは、2つの点から判断できるだろう。第1に、先行きの経済・物価情勢について、中央銀行と市場が見通しを概ね共有し、その結果、市場での金融政策の予見性が高いこと。第2に、中央銀行の政策意図が市場に正確に伝えられ、政策運営の高い透明性が維持されていること。

 第1の点については、比較的短期間で物価上昇率が目標水準の2%に達するという日本銀行の物価見通しが、市場には全く共有されないまま、現在の金融政策が5年以上に渡って続けられていることが大きな問題だ。その結果、金融政策の予見性は著しく低下し、金融市場の潜在的な不安定性が高められてきた。

 金融市場は、政策の正常化を始める条件を示すことを日本銀行に要求し続けてきた。これは「出口戦略」の提示に他ならない。これに対し日本銀行は、その条件とは物価上昇率が目標の2%に達し、その水準が維持される見通しとなることだ、と説明してきた。

 2%の物価目標は容易に達成できないと考える市場にとって、それは正常化の条件とはならず、先行きの金融政策の見通しが定まらない状況が長く放置されてきた。この点から、適切な市場との対話の第1の条件は満たされたことはない。

■金融政策の透明性は著しく低下

 日本銀行は、2%の物価目標の達成が当初考えていたよりも格段に難しいことを悟る一方、大規模の金融緩和を長く続けていると、副作用が累積し取り返しがつかない事態となることを恐れるようになった。そこで、2%の物価目標達成を目指した緩和姿勢に変わりがないと表面的には説明しつつも、実質的には副作用の軽減を狙って政策を軌道修正していく、「事実上の正常化」に着手した。

 その第1弾が、2016年9月のイールドカーブ・コントロール導入後の長期国債買入れペースの削減、いわゆるステルス・テーパリング、第2弾が、金融機関の収益改善のために長期金利の上昇を狙った、今回のイールドカーブ・コントロールの修正だ。

 ところが、これらが正常化策であることを日本銀行がことさら強く否定する結果、日本銀行の政策は、金融市場にとっては非常に分かりにくいものとなってしまっている。この点から、適切な市場との対話の第2の条件もまた満たされていない。

 日本銀行が2%の物価目標を修正したうえで、既に正常化策を実施していると正直に説明できない背景には、1)2%の物価目標達成が簡単には修正できない政治目標となってしまっていることや、2)日本銀行政策委員会内でのリフレ派への配慮もあるが、それ以上に重要なのは、3)金融市場の過剰な反応を恐れていることがある。

 日本銀行が特に警戒するのは、正常化策を正直に認めた場合に、円高が急速に進んでしまうことだろう。そこで日本銀行は、政府を欺き、リフレ派を欺き、市場を欺きつつ、事実上の正常化を進めているのだ。

 7月末の事実上の正常化策第2弾を受けても円高が進まなかったのは、こうした日本銀行の戦略がとりあえずは上手くいっていることを意味するとも言える。できるところまでは、現在のごまかし戦略を続けていこう、というのが日本銀行の腹積もりではないか。

■市場、国民との対話の正常化も課題

 政策金利の引き上げなどより正常化を本格的に進めるためには、いずれは「正式な正常化」に切り替えていく必要がある。その場合には、円高進行は避けがたいだろう。また、市場に配慮し過ぎれば、事実上の正常化策も緩やかにしか進まない。

 そうした中、世界経済が後退に向かえば、正常化策は初期段階で頓挫してしまうだろう。これだけ長期間続けた異例の緩和策を、金融市場に全く打撃を与えずに正常化させることはもはや無理だ。

 それが可能なタイミングは、とうの昔に過ぎてしまっている。日本銀行は、円高進行をある程度甘受しつつ、「正式な正常化」に早期に着手すべきだ。

 世界の中央銀行の金融政策は、市場との適切な対話を重視し、透明性をより高める方向で過去数十年進化してきた。日本銀行の政策姿勢は、こうした世界の潮流に全く逆行するものだ。

 さらに、本来、中央銀行の独立性を高めるためには、市場だけでなく広く国民に対してその政策を正直かつ丁寧に説明することで、信頼性を高めていく努力が求められる。

 現在の日本銀行の政策姿勢は、一般国民からの信頼性を低下させることに繋がり、長い目で見れば日本銀行の独立性を脅かすことになるだろう。金融政策のみならず、市場、国民との対話という観点からも、日本銀行には早期の正常化が強く求められている。

最終更新:8/30(木) 14:00
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