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抱擁は温もり、生きる力 タンゴセラピーを病院や介護施設が導入

8/30(木) 16:47配信

AFPBB News

【8月30日 AFPBB News】軽快だが哀愁のあるタンゴのリズムが、病院のリハビリ室に響く。ぐるりと並んだ車いすの高齢者たちが見つめる先には、本場アルゼンチン出身の長身の男女二人。男性の力強く気品のあるリードと、女性の繊細で優雅なステップがため息を誘う。

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 男女の美が濃縮されたタンゴの世界。余韻に浸っていると、「さあ、次は皆さんとアブラッソであいさつしましょう」。タンゴセラピー開始の合図だ。

「アブラッソ(abrazo)」という聞き慣れない言葉は、スペイン語で「抱擁」を意味する。タンゴ発祥のアルゼンチンや、ウルグアイに深く根付いたコミュニケーションだ。

 タンゴセラピーは、タンゴを踊り、心身の健康の維持や回復をはかる療法だ。本場アルゼンチンを中心に広まり、最近では欧米の大学などが医学的効果を立証する研究も発表している。

■アブラッソ(抱擁)から始まる

 東京・足立区の水野記念病院で毎月催されているタンゴセラピーでは、日本タンゴセラピー協会(Tango Therapy Association Japan)のインストラクターやボランティアたちが、約50人の患者と一人ずつ時間をかけて抱擁を交わしていく。

 初めのうちは、硬い表情のままとまどい気味の参加者たち。ボランティアに促されながらアブラッソをしていくうちに、口元がほころび始めた。最初は座ったまま足踏みをしていた人も、両隣と手をつないでリズムに合わせステップを繰り返すうちに積極的に前に出てくるようになった。立てる人もそうでない人も、ボランティアとペアを組むと、単純な反復ステップでもうまく踊れているような気分になる。

 この日初めて参加した神崎光明さん(74)は、4月に脳出血を患い退院したばかり。「足はまだふらつくが、手拍子やアブラッソが楽しい」とリハビリに意欲的だ。2度目の参加の小脳梗塞で入院中の石丸生子さん(81)は、「前回は座ったきりだったけれど、今日は音楽とエスコートで自然と体が動いたの。今は気分が高揚してるわ」と隣の女性とうなずき合った。

「果たしてこの国では、老いても女性として艶やかに生きていけるだろうか」。日本タンゴセラピー協会会長で、2009年の発足時からのメンバーであるカロリーナ・アルベリシ(Carolina Alberici)さん(46)が、老後に不安を感じたことがきっかけだった。

 母国アルゼンチンでは、タンゴや音楽が日々の暮らし、さらにはターミナルケアを行う高齢者施設などにも浸透しているという。日系人と結婚し19歳で来日して以来、「社会のルール」や「大人としての作法」を学び、息子3人を生み育てた日本。「少しでも人々の幸せにつながることをしたい」と、行動に移した。

 カロリーナさんは、ダンスパートナーのエンリケ・モラレス(Enrique Morales)さん(35)夫妻と3人で協会を立ち上げると、エンリケさんの義理の祖母が入所する介護施設で最初のセラピーを始めた。

 引きこもっていた入所者が自室から出てくるようになるなど、次第に効果が見て取れた。現在は、都内を中心に愛知県や奈良県などの施設でセラピーを展開、タンゴセラピーボランティアの養成にも力を注いでいる。

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最終更新:8/31(金) 11:58
AFPBB News

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