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アルゼンチン通貨危機は回避可能か

9/5(水) 15:01配信

ニュースソクラ

IMF アルゼンチンのデフォルト回避へ緊縮求めず

 8月30日、アルゼンチン・ペソは1日で16%も急落、年初と比べると対ドルレートで41.36ペソと半値以下になってしまう暴落ぶりを示した。アルゼンチン中央銀行はすでに45%に達していた政策金利を同日、15%引き上げて60%とし、少なくとも年末まではこの水準を維持すると宣言した。しかし、市場筋ではさらなる利上げに追い込まれるとの見方が多い。

 今回の暴落のきっかけは、29日にマクリ大統領がユーチューブを通じて「IMFからの500億ドルの融資の実行を早めてほしい」と要望したことによるものだ。500億ドルのうち150億ドルはすでに引き出しを認められている。残り350億ドルを、トルコ・リラの暴落で外部環境が大きく悪化しているので早期の融資実行を促すものであった。

 フェルナンデス前大統領の下でアルゼンチン経済は悪化の一途をたどった。3年前に政権の座に就いたマクリ大統領は、慎重ながらも財政改革、補助金削減などに取り組む姿勢が評価されて、アルゼンチンは国際金融市場に復帰した。2016年に160億ドル、さらに翌2017年には100年債27.5億ドルと次々と起債した。

 しかし、このペソの暴落で政府の対外債務の8割に当たるドル債のペソ換算額はGDPの45%にまで膨らみ、元利払いや借換え債の負担が重くのしかかることになった。格付け会社のS&Pでは現在B+の格付けを維持する一方でクレディットウォッチをネガティブに引き下げた。

 マクリ大統領の経済改革には、公務員給与の引き下げやガソリン補助金の削減などの痛みを伴うものも多い。このため、「漸進主義」を標榜して、時間をかけて改革を進める方針を掲げた。国際金融市場で起債した資金で赤字を穴埋めして時間稼ぎを狙った。しかし、このペソの暴落でその目論見も外れることになった。

 民間研究機関などの推計では2019年末までの対外債務の返済資金は770億ドルに達すると推計している。頼みの綱は500億ドルという史上最大規模のスタンドバイ融資を供与したIMFである。マクリ大統領が希望するように早期の引き出し要請にIMFはある程度、応えざるを得ないであろう。

 米国景気の好調に伴うドル高やFRBの利上げ等を背景に、新興国の対外債務については厳しい視線が注がれ始めている。実際にアルゼンチン・ペソ、トルコ・リラに加えてインドネシア・ルピアも対ドルレートで14,730と8月末にはアジア危機以来20年ぶりの水準近くにまで売り込まれる、など新興国を巡る通貨情勢が一段と厳しくなっているからだ。

 IMFのラガルド専務理事は8月29日、アルゼンチンに関する声明で「スタンドバイ融資締結時には想定していなかったような国際金融市場の逆風下、政府の経済計画は金融財政政策を含めて修正するとともに社会の最も弱い階層を支援する」と意向を表明した。

 これまでのIMFであれば緊縮政策を強化する方向で相手国の要請に応えることが通例であった。しかし、今回のアルゼンチン向け融資の場合、2019年の財政赤字をGDP比1.3%まで縮小するという目標を一段と厳しくするようなことは避けるであろう。

 マクリ大統領はペソの暴落と大幅な金利引き上げで支持率は就任以来の最低水準に落ち込んでいる。一般大衆に不人気の緊縮策強化に手を付ければ、早ければ来年10月に予定されている大統領選でのマクリ再選は危うくなる。

 アルゼンチン経済がこれ以上混乱すれば、2001年以来のデフォルトの懸念も高まってくる。さらにトルコ、インドネシア、南アなどの通貨危機が拡大する恐れが強まるため、IMFやG7なども危機の伝播を避ける方向に動くであろう。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:9/5(水) 15:01
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